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13両目 連行発→交渉行き

 なかなかに権力を握ってそうな二人を前にして、まさか「神様です」とは名乗れない。頭のおかしい奴扱いされてしまうから。例え事実だったとしても、証明できなければただのホラ吹き野郎なのだ。世知辛い神様事情である。


 かといって、ただの村人が列車など持参するだろうか? するわけがない。JRのお偉いさんだって、チャリンコ代わりに電車でコンビニには行かないだろう?


 つまりどう足掻いても怪しさ満点のジーパン男は、しかし答えを用意していた。きっと聞かれるだろうと思っていたから、牢屋の中でしっかりと準備していたのだ。

 自己PRの事前準備は大切。就職活動セミナーで、ちゃんと学習済み。


「流れの発明家です」


 怪しい。発明家なんてのがそもそも怪しいのに、流れときたもんだ。怪しさの相乗効果。

 けどそれでいい。もとから怪しい我が身なんだから、木の葉を隠すなら森の中だ。毒を喰らわば皿までとも言うけどな。


「発明家、ね。パトリエッタは「建築士兼村の救世主」と言ってるみたいだけど?」


 なに言ってくれてんだパトリエッタのやつ。誤魔化せとは言ったけど、他に言い様はなかったのか? 怪しさを突破して、詐欺師確定みたいな肩書きになってやがる。


「け、建築物の設計も発明の一環でして……」


 苦しい。分かってるよ。苦しすぎる言い訳だって。だからそんな目で見るな。

 二人からの熱視線を受けて、俺の視線は泳ぎまくっていることだろう。たぶん溺死寸前。


「先ほど地下牢を担当していた兵士から報告があったのだが、貴様が入っていた牢の中から、汚物入れが消えていたそうだ」


 ぐぬ……。痛いところを突いてきおる。

 あまりに臭くて眠れなかったから、昨夜のうちに地面陥没(ジオダウン)で掘った穴にぶち込んで、地面隆起(ジオアップ)で埋め立てたのだ。

 仕方ないだろ? 精神衛生上でも現実衛生上でも、必要なことだったんだから。


「えっと……穴を掘って埋めました」


「素手でか? 石造りの床だぞ?」


 ここまできたら、完全な嘘で乗り切るのは不可能だ。

 なら……


「ま、魔法で……」


 全部魔法のせいってことにしよう。俺は即座にそう決めた。だってここはファンタジーな世界。その程度の魔法なら、使える奴がいても不思議じゃない……よな?

 実際、ブルジョワズは「ふむ。魔法か」なんて頷きながら唸ってる。


「土属性の魔法であればそのようなことも可能か?」


「さて。あまり聞かない魔法ですが……」


 ここはチャンスだ。押しきる場面だ。俺の勘がそう言ってる。


「魔法も発明したのです! ちなみに、あの鉄の塊も魔法で動かしてます!」


「そう……か。ふむ。であれば納得できなくもない」


「……ですね。しかしそうなると、ひょっとしてアレを動かせるのは鉄太郎さんだけなのでしょうか?」


「そうっすね。運転だけなら誰でも出来るんすけど、俺が魔法で整備しておかないとすぐ動かなくなるんじゃないっすかね」


 するとブルジョワズは、なにやらまた唸り始めた。

 ブツブツと呟いている内容は断片的だが、察するに列車が欲しかったらしい。


「アレがあれば商品の流通に革命が起きると思ったのですが……」


「軍事的な価値は計りしれん。兵の輸送、兵站……。行軍にかかる出費や時間を大幅に減らせるのだ。喉から手が出るほど欲しいぞ」


 あぁ、そういうことね。分かるよ。前世でも、鉄道の歴史ってのはそうやって進化してきたんだから。

 でも俺の目的は鉄道文化を広めることでも、鉄道の歴史を作ることでもない。あの村を繁栄させることだ。村が持つ唯一のアドバンテージが鉄道なんだから、それをくれてやるつもりはない。


「悪いっすね。まだ試作品ってこともあるので、売ったり譲ったりはできないんですよ」


 先んじてお断りをいれれば、ブルジョワズは目に見えるほど落胆していた。権力を盾に奪おうとしてくるかな? と思ったけれど、そうでもないらしい。


「そうですか……。パトリエッタも、恐らく譲り受けることは出来ないだろうと言っていたので、駄目でもともとではありましたが……」


 そういやパトリエッタのことは、コイツが助けてくれたんだったな。彼女の姿は見えないが、無事でいるのだろうか?


「パトリエッタは元気なのか?」


「えぇもちろん。私共としても、ビジネスパートナーを軽んじることなど出来ませんから」


 ただの知り合いってわけじゃなく、ビジネスパートナーらしい。ひょっとしたら、村人たちを全て移住させるという彼女の計画に絡む話なのかもな。

 詳しいところは、あとで本人に聞いてみよう。


「それでも礼を言わせてくれ。ありがとう。それと、俺の釈放にも尽力してくれたのに、役に立てなくて申し訳ないっす」


「あー、いや……それは良いのですけれど……」


 言いながら、シュバルツはバツが悪そうな顔でストラトス子爵をチラチラ御伺い。どういうことだろう?

 そんな俺の視線を受けて、ダンディーな子爵がオホンと咳を払った。


「最初からお前の早期釈放は認めるつもりだったのだ。もとより、それほど大きな罪というわけではないからな。精々が、町中で喧嘩して騒ぎを起こした者と同じ程度の罪でしかないだろう。だが……」


「だが?」


「罰金、というよりも土地代は支払ってもらわなければならん」


「土地代?」


 どこの?

 まさかあの地下牢に敷金礼金を払わなければならないのか? 断固拒否なんだが?


「あの鉄の塊は、二本の鉄棒の上を移動するのであろう? 二本の鉄の棒が、町から東へずっと伸びているのを兵が確認しておるぞ」


 事情を理解し、一瞬で顔が青ざめた俺である。子爵の言葉を解釈すれば、線路を敷設した土地を、全てお買い上げしなければならないってことだからだ。

 誰も欲しがらないような村の土地でさえ、僅か数畳のスペースに半金貨が何枚も必要だったことを思い出す。今回は村からここまでの長い距離だし、町に近いほど土地の相場も上がっているに違いない。果たしておいくら万円必要なのか? 考えるまでもなく、破産確定である。借金取りに追われる神様。ホント使えない職業だ。


「と、そういうことらしくてね……。力になってあげたいとは思うんだけれど、僕と君は初対面だ。立て替えてあげるほどの義理もなければ、信頼もない。申し訳ないけどね……」


 冷たいように感じるけれど、商人としては正しい判断だろう。それが分かるから、俺も文句を言うつもりはない。むしろ見ず知らずの俺のために動いてくれただけでも感謝だ。友達の友達は友達の精神。とても良いと思う。


「え~と……。ちなみにいくらくらいっすか?」


「概算で金貨二千三百枚」


 ふぁっ!? 出ました金貨。庶民には縁のない単位。

 確か半金貨五十枚で金貨一枚だったから、半金貨に直すと十一万五千枚。つまり日本円にすると、十一億五千万円だ。風呂桶が諭吉で埋まるレベル。


 シュバルツも、この金額には渋面を作っている。国で三番目の商会ならこのくらいの額も普通に扱うだろうから、それだけに一般人の俺ではどうしようもない金額だと分かるのだろう。


「すんません。とても払える額じゃないっす。すぐにレールを撤去するんで、なかったことになりませんかね?」


「ならんな」


 なんでや! そもそも土地を買うとか言った覚えはないぞ!?


「それをされると、逆に問題なのだよ。もしここで買取を拒否するのであれば、お前は不法に土地を占領した罪に問われる。例えすぐにレール? あの鉄棒を撤去したところでな」


 その罪は、ちょっと町人や兵士たちを騒がせた程度とは比較にならないほど重いそうだ。処刑台への快速列車。途中、法廷駅にも留置場駅にも止まることなく、終点へと一直線らしい。


「だが、お前が土地を買うというのであれば話は別だ。土地の持ち主が、その土地をどう使おうが勝手だからな。順番が前後することについては、目を瞑ってやろうとそういうわけだ。優しい領主様だろう?」


 ニヤニヤと笑う髭面ダンディー。どことなく腹黒い笑顔を見て、俺はようやくコイツの言いたいことが分かった。

 なんとも回りくどい。それでいて効果抜群。ヤクザに型に嵌められた気分だ……。


「つまり、その代金としてあの蒸気機関車を寄越せと、そう言うことですか」


 我が意を得たりとダンディーの口角が釣り上がる。


「話が早くて助かるな」


「さっきも言いましたが、あれは試作品。俺の魔法がないとただの鉄屑です」


「うむ。問題はそこなのだ。実は、すでにあの鉄の塊……蒸気機関車と言ったか? アレを兵士や魔術師、町の技術屋に解析させたのだが、届けられた報告は『全くの未知』ばかり。動かすどころか、その構造すら誰にも理解できなかったそうだ」


 そりゃそうだろうな。てか、何勝手に調べてくれてんだよ。

 そういや俺の罪って、本来罰金程度で済むという話だったな。もしかして、蒸気機関車の構造を調べるために俺を拘留してたのか? 抜け目ねぇな。そして俺は、蒸気機関車のせいであの臭い牢屋で一晩過ごすハメになったわけだ。やはり鉄道は敵である。


「なら――」


「そこで、だ」


 動かせないことを知ってるなら、アレを譲り渡されても仕方ないって分かっただろ? そう思ったのだが、ダンディーはキラリと瞳を輝かせた。


「動かせる者がいないなら、動かせる者が動かせば良い。そう思わんかね?」


「……どういう意味だ?」


「なぁに、簡単な話だ。あのレールとやらをこちらの要求に従って伸ばし、お前が運転すれば良い。もちろん、その間の働きに応じて借金を減らすし、そこそこ良い待遇で迎え入れてやろう。つまり、お前を蒸気機関車の操縦士として雇うって話だな!」


 まさに名案とダンディーは言ってくれちゃったけど、それ、俺が一番やりたくないヤツだからな!!

 鉄道関係の仕事に就くくらいなら、処刑台まで全力疾走してやんよっ!!


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