善井喜朗という男 その4
僕の目の前にいるゾンビのような見た目をしているのは自称『死の帝王』。
しかし、自称の割には何か強いオーラを感じる。しばらく死の帝王を注視していると、とあるものが見え始めてきた。
『フンッ!貴様のような貧弱そうな人間一匹相手にもならんわ!!
さっさとかかってこい雑魚めがっ!!』
「いや・・・あのぉ・・・」
そう、HPゲージである。RPGのボスなどはHPゲージが見えたりするのだが・・・このモンスターのHPはたったの200である。奴はたったの200でイキっているのである。それが見えれば強者オーラを出している帝王()が一転、弱いのにイキってる自称死の帝王にしか見えない。
「お前・・・可哀想な奴なんだな」
『おい待て!なんだその哀れみの目は!!
やめろ!!私は可哀想な奴ではなああああああい!!』
涙を流しながら攻撃してくる死の帝王様の突進攻撃を避け、剣で斬る。
何回か剣で斬ると、死の帝王の移動速度が少し上がった。そう、少しだけ!!
「お前、本当に可哀想な奴だな・・・」
『私のスキルにケチをつけるな!!
これでも元はノースキルだったのだぞ!!』
自称死の帝王が気になることを喋った。スキル?この世界にはスキルがあるのか?
それじゃあまるで、本当にゲームの世界じゃないか。
そんなことを考えていると突進攻撃がかすって少しダメージを受けてしまう。
「ッ! とどめは念のため魔法にするか・・・」
『魔法・・・?貴様ッ!さては奴に召喚されてきた勇者だな!?
普通の人間は・・魔力なぞ・・・持っては・・・・・」
「あ・・・」
死の帝王が話をしている途中に杖を振ってしまったため、彼の話の続きは聞けなかった。
彼の死骸からは腐敗臭がするので近づきたくなかったが、『鍵のような何か』が落ちていたため、やむを得なく拾いに行った。
◆ ◇ ◆
再び鍵が光を放ち、気が付くと狭い空間にいた。空中にはホログラムの文字で『"魔導書"』と書かれている。文字の下に置かれている台の上には、独りでにページがめくられていく本があった。恐らくこれが『魔導書』なのだろう。魔導書の中身を見た瞬間、一瞬意識が飛んだことを認識する。しかし、確かに体に変化があった。
すると突然聴き慣れない声が聞こえてきた。
【剣術レベルが3になりました。】
【弓術レベルが3になりました。】
【魔術レベルが3になりました。】
そんな台詞が、すごい早口で聞こえてきた。どうやら体の調子が少し良くなったのは、レベルが上がったからだ。
そして、今まで背を向けてきた事実と遂に向き合わなければならないようだ。
「この世界、やっぱあのオンラインゲームの世界・・・だよなぁ。」
そう、今までは『ゲームのような世界』と考えることから逃げていたが、明らかにこの世界とゲームの世界は似すぎている。決定的なのは剣術レベル・弓術レベル・魔術レベルというシステムだ。
この3つの単語が揃うゲームは滅多にないだろう。それにあのグラフィックのNPC・・・
確定だ。この世界はオンラインゲームの世界だ。ようやく確証を得たところで、一つの可能性が生まれたことに気付く。
「これ、あいつもこの世界に来てるパターンじゃね?」