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神様遊戯~光闇の儀~  作者: Riviy
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第八十九ノ契約 新たな意志


烏天狗は仮面を外した。外した瞬間、なにかが起こる。それは同じような衝撃波か、はたまた新たな烏天狗の誕生か。体に緊張と警戒が走り、我知らず足に力が籠る。そうして来るであろう攻撃に身を大盾から出ぬように縮め、国久と鈴花を背にして大盾を持つ手に力を入れた。しかし、どれだけ待っても衝撃は来なかった。なんで?そう思いながら顔を上げれば、そこには烏天狗がただただ佇んでいるだけだけだった。アクションも起こさず、先程の体勢のまま、まるで凍ってしまったかのように動きを止めていた。


何故、なにもしない?来ない?怪訝そうに哉都は烏天狗を眺める。と突然、烏天狗は仮面を放り投げるようにして後方に倒れ込んだ。その額から先程も見たような独特の血がまるで噴水のように噴き出す。数秒の間に射殺された?壱月を除く全員が一斉に国久を振り返ったが彼の手に握られた銃口からは煙は愚か撃った形跡もなく、一斉に見られた国久も驚いたように自分が持つ銃と烏天狗の額に空いたであろう傷を交互に凝視していた。国久の仕業ではない。じゃあ、誰?防御体勢を取らずに行動を起こそうとした壱月か?だが壱月も少々顔に驚きを貼り付けており、動きが停止している。多分彼でもない。ならば、誰?


「……死んだの?」

「多分」


その沈黙に耐え兼ねたが、何を言えば良いのか分からずそう茶々が大太刀の柄を口元に当てて問えば、隣にいた時雨が淡々と呟く。壱月が時雨の仮定を証明するように烏天狗に近づく。哉都、国久、鈴花も大の字に倒れた烏天狗に近づく。四人で恐る恐る烏天狗を覗き込む。黒い仮面で覆われて見えなかった彼女の素顔はヨウカイと言うほどに歪んでいた。いや歪んではいたがその歪みは醜いと言うわけではなく、どちらかと言えば美しいと言う方が合う気もする。額に大きく空いた空洞がこちらを見上げ、瞳は何処か化け物らしく狂気染みていて、明後日の方向を向きながら白目になっていた。まるでゾンビのようで慌てて国久が咄嗟に鈴花の目を塞ごうとするが「大丈夫!」と鈴花は国久を笑顔で振り返った。武器によって貫かれた翼は使用用途を失ったためか、ドロドロと泥のように溶けて行く。それは烏天狗の体も同じだった。


「……死んでるな、これ」

「だね。でも、誰が?」

「国久でも雨神さんでもないんでしょ?そんな攻撃できる人いる?」

「いなくはないと思うけど」


身動き一つしない烏天狗が死んでいないと何故言えようか?けれど、本当に誰が?敵か味方か?わからない状況に哉都達は瞬時に警戒するが、何処にもモノノケやヨウカイの気配はない。そのシンとした理解不能の静けさに恐怖が募る。カツン……誰かが一歩歩くたびに大きく音が反響し、恐怖を増幅させていく。烏天狗は総大将の側近だった。そんな彼女を殺して利益がある化け物なんていないはずだ。生じる利益も不利益も自分達にしか発生しない。だってそうでしょう?倒すべき相手を見失いかけているのだから。ジジッと耳元でインカムが何処かの通信を拾った。その音が異様に大きく聞こえて、哉都は反射的にビクリと体を弾ませた。その時だった。ドクンと再び心臓が大きく脈打ったのは。あの時とは違い、恐怖を催すようなものではなかった。むしろ心地好いくらいの、まるで子守唄のように優しく懐かしい音色。刻を召喚し契約した時を思い出させるような、国久と鈴花との絆を感じさせるよう、そんな心地好い音に哉都は何処か聞き覚えがあるような気がした。嗚呼、これは一体なんなんだ?また魂の、前世の記憶かとも思うがまた違う気がする。フラリとその心地好さに身を委ねてしまえば、瞬く間に気を失ってしまいそうになる。その感情を頭から追い出し、しっかりと立つと哉都はもう一度、烏天狗を見下ろした。


「嗚呼、なるほどね。そういうことか。なら加勢して正解だった」


はずだった。二度目の驚愕がそこに鎮座していた。いつの間にか消滅しつつある烏天狗の傍らに座り込む人物がいたのだ。周囲を警戒していたのに全然気づかなかった。気配もしなかった。それは壱月も同じらしく、キョトンと目をぱちくりさせている。耳が良いと言う紗夜も突然現れた人物に毛を逆立てている。突如として気配もなく現れた人物に一斉に警戒を見せ、哉都達は万が一を取ってか刻達に烏天狗の死体と人物から引き離される。壱月も彼らと共に慌てて後退すれば、人物はその様子にクスクスと笑った。口元を覆うように広がった大きな襟元で口元なんて見えず、笑っているかは曖昧だった。だが、目が優しく笑っていた。その優しい眼差しに一瞬、警戒が解けかかる。が人物の手に烏天狗の額に空洞を作った武器と思わしき銃器が握られているのに気づいた瞬間、体に電気が駆け巡る。嗚呼、この人だ。そう思わずには、いや分からずにはいられなかった。途端に目の前にいる人物が恐ろしく感じる。気配もなく殺気もない不思議な、それでいて重傷を負っていてなお強者を放っていたヨウカイを一撃で仕留めた人物。一体、誰だ?


「主は、誰だい?どうやって此処に?」

「それは、一番気になっていることじゃないでしょ?ならその質問は、愚問だ」


バッサリと刻の問いを切り捨て、人物はしゃがんでいる状態から立ち上がると手元にあった銃器を消した。人物の手元を色がついた粒子というか光が包んでいたように見えたが、細かすぎて分からなかった。そのバッサリ様に刻は少し驚いたように身を引く。警戒で体を固くした彼らを値定めるように眺める人物に鈴花が声を張り上げる。


「何故、その烏天狗ヨウカイを殺したのかしら?こっちにとっては大切な情報源だったのよ?」

「そうです。それに刻も先程言っていましたがあなたは誰ですか?」


鈴花のあとに紗夜も畳み掛けるように問いかければ、人物はスゥと瞳を細めた。値定めが終わったと言うような、笑っていると言うような微妙な表情で表現だった。


「どう勘違いしたのかは知らないけれど、情報源にはならないよ」

「どうしてそんなこと言えるんだい!?そいつは八咫烏警備隊屈指の分析力を持つ部隊チームによって高い確率を叩き出した奴だよ!?それに総大将であるヨウカイと一緒にいるところも目撃されている!」


興奮気味に叫ぶ壱月を近くにいた刻が戸惑った様子で宥める。だが彼自身分かってはいたのだ。化け物にこちらの都合も技術も関係ないと。だからこそ、誤差は必ず生じると。だから、そこにいるのが側近でない可能性だって十二分に存在する。壱月の言い分に人物はキョトンとしたあと、なるほど、と頷くと既に消滅しかけ、仮面と顔しか残っていない烏天狗を振り返る。そうしてなにか納得したのか哉都達を振り返った。


「これは変化へんげが出来るタイプのものだ。その分、敵への偽の情報を与えるのに効果的だろうね。つまり、偽の情報を噛まされたってことだよ」

「っ……側近だという決定的証拠はない……一杯やられたかぁ!!」


人物の説明に壱月は苛立ったように近くの柱を殴った。パラパラと殴ったところから破片が砕け散り、壱月の手が衝撃で紅く染まる。してやられた。この烏天狗ヨウカイにまんまと一杯取られたようだ。だが、すでにヨウカイは死んだ。その結果も目的もなにも分かりっこない。そう、本当に側近だったのかさえも、騙していたのかさえも。人物の言葉が本当かさえも。とにかく、死ぬ前の烏天狗の言葉から違ったと考え始める哉都達だが、それでも人物の正体は分からず仕舞いだ。敵がなにか攻撃するからと咄嗟の判断だったのだろうか?……それでも、多くの謎は残る。


「……それでもお前が誰かは分かんないし、疑問も謎も解明されはしねぇだろ」

「そうだよね。で、だぁれ?」


哉都が警戒を滲ませた声で言えば、茶々も同意する。人物は哉都達の理解力に満足そうに笑うと片足を後ろに下げ、もう片方の足も折ってまるでダンスに誘うかのように優雅にお辞儀をした。途端に人物から放たれたのは感じたことのある神々しくも美しい気配。哉都の隣にも、国久の隣にも、そう鈴花の隣にもいるその気配は。壱月からも放たれる強き(願い)と同じ。嗚呼、つまり?クラリとまるで誘惑されるかのような妖艶な仕草を口元の隙間から振り撒きつつ人物は言う。


「自分は、そう、自分はみお()()()……()()()願いを願った者」


人物の、少女のような明るさと女性のような暖かさ、そして少年のような元気さと男性のような穏やかさを併せ持った声がカラコロと響き渡る。それはまるで合唱のようで、虚しく響くオルゴールの音色のようでもあった。肩から流れ落ちた鮮やかな今様色の一房が人物の意志の強さを表す。そして多分性別は……女性、だと思う。

人物、みおは今様色の長髪で首根っこ辺りで一つに纏めている。髪留めにはなにか家紋のようなものがついているように見えるには見えるが小さすぎて分からない。猩々緋(しょうじょうひ)色の瞳。口元まであるハイネックになった紺色のロングコートを着、袖はなくノースリーブ系。中に薄香色のタンクトップを着、藍色のホットパンツ、黒の膝まであるロングブーツ。両手には灰色のアームウォーマーをし、首元と肩にベルトがついている。


不思議な雰囲気を醸し出すこの人物は、一体何者なのだろうか?そんなもっともな哉都達の疑問に答えるように澪は小さく微笑んだ。



新しい人です!

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