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神様遊戯~光闇の儀~  作者: Riviy
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第八ノ契約 異変上等



トレイを片付け、店員の挨拶を背にカフェを出る。お昼時でもあるため、ショッピングモールは大勢の人で賑わっていた。歩くたびに人、人、人、人、人。人だらけである。まぁ今日が休みと言うことも関係しているのだろう。彼らは休憩用ベンチ付近に寄って人の群れを避けると、目的地を決める。


「レストランにする?フードコートにする?」

「とりあえず、フードコートで」

「じゃ、三階にレッツゴー」


フードコートに行こうと云うことになり、エスカレーターかエレベーターを探す一行。その時だった、パリンッとガラスが割れるような甲高い音がホール内に響き渡ったのは。


「?誰か落とした?」

「コップを?あり得るけどさぁ……」


音がした方を瞬時に誰もが振り返ったのは昨日のことを思い出したからだろう。だが、彼ら以外、一瞬向いただけでさっさと歩き去ってしまう。こんなに大勢の人がいるのだからコップなど壊れるなんて当然だと云うように。不安げな表情で国久が哉都に言う。不安げな表情の国久を見て、哉都も不安になり刻を見上げると音がした方をスッと見据えていた。刃物のような、鋭い瞳。途端、背筋に悪寒が走ったのは気のせいだと思いたかった。だが、多分無理で。そんな彼らを置き去りにして昼食を求めて群がる人々は我先にと動いている。その動きがいつしかの人の波を連想され、哉都は自分よりも背の高い国久のバックを助けを求めるように掴んだ。一方、鈴花も刻と同じように向こう側を見据えていたが、フイッと二人を振り返った。


「大丈夫よ。もしもの時は『ご連絡します』……えぇええ」


鈴花が言おうとしたタイミングを狙ったかもようにアナウンスがかかった。だがそれでも人の波は止まらない。大方、車とか忘れ物の連絡だと気にもしていないのだろう。しかし、違った。それを証明したのは突然の刻の行動だった。アナウンス次のが言葉を紡ぐ前に、刻が三人の背を押したのだ。


「と、刻?!」

「どうしたの!?」

「みんな、今すぐ逃げておくれ!」


刻の言葉に三人全員の体が固まったのは言うまでもないだろう。その瞬間、体に走る緊迫感と緊張感。滑り落ちる冷や汗と、引き起こされる阿鼻叫喚。周りの人々の動きがスローモーションのように見えて……いや、自分達が止まっているだけなのかもしれない。つまり、そう言うことでしかなかった。「えっ」と哉都が刻を見上げた、次の瞬間


『モノノケが出現しました』

「「「悠長に言ってる場合かっっ!!」」」


慌てているのか慌てていないのかもわからない、淡々としたアナウンスに思わず三人がツッコミをしてしまったのは無理もない。モノノケと云う単語に瞬時に反応したのは彼らだけではなかった。楽しくショッピングしていた親子も昼食を探していた仲良し組も多くの荷物を抱えたカップルも誰もが駆け出した。悲鳴を上げた。四方八方、出口に向かって我先にと。逃げろ、死にたくないと叫んで。何処にモノノケがいるのかさえ、わからないのに。見えない恐怖から逃げ惑う。再び現れた人々の波に恐怖を煽られ、哉都はその場で固まってしまった。


「(怖い怖い怖いっ!!)」


昨日の今日で日常茶飯事であろうともすぐに慣れるはずなどない。人々の恐怖と憤慨にまみれた表情がまるで一種の肉動物のように、般若のように変貌して哉都に襲いかかってくる。自分に向かって来ているわけでないのは分かっている。でも、足が恐怖で動かない。呑み込まれる、恐怖と言う名の人の感情に。哉都はその知っていて知らない恐怖と感情から逃れたくて、思わず手を伸ばした。


「主君!」


哉都が伸ばした手は刻に勢いよく引き上げられた。グイッと勢いよく哉都の腕を掴み上げ、刻はその勢いを利用して彼を引き寄せ抱き上げると、近くの壁を蹴って跳躍。多くの人々の頭上を滑るように飛び越え、上へ上へと壁を斜めに飛んでいく。そうして二階と三階の間にある吹き抜けに設置された小さなベランダへと着地した。そこには国久と鈴花もおり、哉都と刻の姿にホッとしていた。どうやら近くにいた二人を移動させた直後だったらしい。少しだけ肩で息をしている国久がいた。これで二次災害は防がれた。


「主君、大丈夫かい?」

「う、うん。ありがとう刻」


ゆっくりとベランダに刻が哉都を下ろす。微妙に横抱き、お姫様抱っこだったことに今さらながらに気づき、哉都の頬が場違いにも染まった。モノノケの出現に刻の擬態はいつの間にか剥がれ、着物姿になっていた。ベランダの眼下では多くの人々があっちこっちモノノケの脅威から逃げ回っており、まるで地震のように建物全体が振動していた。


「逃げようよ!?」


体を恐怖に震わせて国久が眼下を見下ろし叫ぶ。今にも飛び降りてしまいそうだったが、間一髪と云うように哉都が彼の腕を掴む。


「昨日の今日で、なんか慣れちゃったわねー」

「「なんで?!」」


唐突に鈴花がケラケラと笑いつつ、あっけらかんと言った。なに言ってんの!?と哉都と国久が鈴花を振り返るとガラス張りの通路に背中を預けながら逃げ惑う眼下の光景を見下ろしていた。その様子は戦場を見下ろす司令官のようで、露草色の瞳が鋭く光輝いていた。哉都の隣では同じように国久を支えていた刻も鈴花の突然の言動に驚きを隠せないようで、哉都に疑問を云うように覗き込んでいた。が二人も二人で気づいていなかった。この時の鈴花は、


「まぁそんな冗談は置いといて。今は動かない方が得策よ。この群れに巻き込まれちゃ意味がないわ、様子を見ましょ」


恐ろしいほどの観察眼と洞察力を発揮する。凛々しくも頼もしい瞳と声色に哉都と国久は頷いた。だが、モノノケの専門とも言える刻には二人が何故頷いたのか理解出来なかったらしく、ガラス張りの縁を片手で掴みながら問う。いや、多分わかってはいたのだろう。その間にも緊急アナウンスが緊張感なく、繰り返し流れていた。恐らく、アナウンス係も逃げたな。


「けれど、何処からモノノケが現れるのか分からない以上、すぐにでも身を隠した方が良いのでは?」

「刻の云うことも最もだけど、こういう時の鈴花の観察眼とか凄いんだ」

「恐ろしいほどによく当たる」

「アナウンスでも明確な場所は言われてないし、ちょっと待ってみよう?」


哉都が首を傾げて言うと刻は一瞬、鈴花を振り返り、しぶしぶと言った感じで頷いた。納得しているようなしていないような、微妙な表情だ。鈴花の実力を分かっている哉都や国久からして見ればそうだが、なにも知らない刻にとっては疑問だった。


「少ししたらあとは刻ちゃんに任せるわ、モノノケ専門なんだし。でも今は私に譲って?」


ズイッと少し刻の方へ身を乗り出して鈴花が言う。鈴花のその瞳があまりにも真剣で、嘘を言っているとは思えなかった。その瞳が全てを見通しているようでずっと見ていられないと感じてしまうのは、その感覚を知っているからだ。刻が哉都に助けを求めるように振り返る。


「大丈夫だ、刻」

「……はぁ、わかった。ただし、危険と判断した場合はわかっているね?」


言っても聞かない事なんてわかっていたではないか。しょうがないと肩を竦めていながら何処か嬉しそうに笑う刻に三人もクスリと微笑した。遠くで無感情なアナウンスが『間もなく八咫烏警備隊が到着します。従業員の避難誘導に従い、行動してください』と繰り返し流れていた。


三人はそれぞれ役割分担があります。ほぼ無意識ですけどね(笑)

今日はもう一個出します!

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