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神様遊戯~光闇の儀~  作者: Riviy
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第八十六ノ契約 三銃士


ガァン!と鈍い音と鈍い振動が哉都の腕に伝わってくる。目の前にいるモノノケは一心不乱に哉都が構える大盾に刃物を切りつけている。いや、モノノケが装備する鋭い爪だろうか?どちらもあるために判断が難し過ぎる。哉都は大盾の内側で右手の指と指の間にお札を二枚挟めるとピッと紙を立たせる。そして、モノノケが刃物と爪を振り上げようとした一瞬の隙をついて右へずれると指と指の間に挟めたお札をモノノケに向けて放った。お札二枚は大きく刃物と爪を振り上げたモノノケの体にペタッと何処か間抜けな音を立てながら勝手に貼りつく。モノノケは一瞬にして消えたように見えた哉都をギョロリとした瞳で見つけるとニヤァと細めた。それは哉都も同じだった。


「ば……?!」


はずだった。爆、そう呟こうとした哉都はモノノケの体に貼り付いたお札二枚が突如として切り裂かれたのを目の当たりにした。なんで、そう驚愕する哉都に容赦なく刃物と爪が振り下ろされる。ヤバい!お札を投げるために大盾から身を乗り出していたので今の哉都は絶好の的だ。慌てて大盾に身を隠そうとするがそれよりも早く敵の攻撃が迫る。


「「カナ!!」」


二人の声が聞こえた。一瞬、血の気が引いた哉都だったがその声に血の気が戻ってくる。バッと哉都を攻撃しようとしていたモノノケに何処から都もなく銃弾の嵐が撃ち当たる。その攻撃に一瞬モノノケの意識が削がれた。途端、こちらも何処から都もなく現れた瑞々しくも青々しい美しい緑色に染まった巨大な蔦がモノノケを締め上げ、身動きを取れなくする。モノノケは必死に抵抗しているようだが、ギチギチと嫌な音を立てながら蔦がモノノケを容赦なく締め上げ、体の支配を奪って行く。ブチリとなにかが千切れる音がし、哉都がそちらに目を向ければ、モノノケの姿が見えなくなり緑色一色に染まったかに見えた物体から銀色に光る刃物が突き出ていた。それはまるで角のようで、嗚呼さっきのお札が引き裂かれた原因はこれだったのかと呑気に頭の隅で考えてしまっていた。


「カナ!」

「カナ、大丈夫?」


そこに国久と鈴花がやって来る。国久は片手に持った拳銃から止めどなく銃弾を刃物を突き出し、逃げようとしている敵に向け乱射している。また鈴花の傍らにはあの巨大な蔦の片割れがクネクネと彼女に甘えるように揺れ動いている。足元からひょっこりと体半分だけを出しているような感じなので海草にも見える。二人の不安そうな問いに哉都は大丈夫だと頷く。


「雷で燃やしてやろうと思ったらあれだぜ?参るわぁ」

「あーあの出て来てる刃物でしょ?遠くから見ても厄介だよね」

「刃物に爪に、体から出てくる刃物?バカみたいな武器の多さよね」


クスクスと哉都の言葉に同調して国久と鈴花が笑う。哉都もクスリと笑う。嗚呼、全くその通りだ。無限の武器庫ということだろう。嗚呼、でも、三人で行けば、問題ない。そう云うように誰と云うわけもなく手を出し、ハイタッチをかわす。そうして真剣な表情でモノノケを見上げた。と同時だったバリバリ!となにかが割れる……いや、千切れるような音が響いたかと思えば、目の前にいたモノノケが蔦を破り捨てて脱出した。片手にはいまだ活きの良い蔦の破片を握りしめていたが次第にビッタンビッタン言うのが煩わしくなったのか爪で真っ二つに引き裂いた。その容赦のなさに苦笑が哉都の口から漏れる。笑えない、その言葉がしっくり来る。目の前で哉都達を見下ろし、仁王立ちするモノノケはケンタウルスのようにも見えるが、キメラと言った方がしっくり来る容貌だ。右手に刃物、左手に爪、そして胴体と背中にもまた爪という爪のオンパレードで苦笑しか出ない。上半身は何処か人のようにも見えるが下半身は獣。ケンタウルス+キメラで良いやもううん。そんな化け物を睨み付け、哉都達は一斉に駆け出した。同時にモノノケも駆け出し、まるで一騎討ちのように哉都に刃物を、鈴花に爪を突き出し振り回す。が、その二つの刃に向けて後方から国久の支援が飛ぶ。ガガガガ、と甲高い音を上げながら銃弾が刃物に当たるものの、全てを弾かれてしまう。それでも二人にとっては良かった。振り回された爪に向けて鈴花が剣を縦に構えて防ぐ、弾くと傍らに侍っていた蔦を敵の腕に巻き付かせる。しかし、巻き付かせた途端に爪があり得ない方向に曲がり、蔦を引きちぎった。


「?!はぁ?!」

「無理すんなよ!」

「分かってるわよ!」


あり得ない状況に鈴花が驚愕の声を上げる。それに叫び返しながら哉都も大盾で刃物を弾くとお札を刃の部分に直に貼り付けた。そしてモノノケが鈴花のように反撃してくる前にとすぐさま雷を叩き落とす。バチバチッ!とモノノケの体右半分に痺れが走り、動きが一瞬止まる。その瞬間を逃すわけにはいなかいと国久の乱射がモノノケの右手に襲いかかる。右手が次々と蜂の巣になっていくが、左手は執拗に鈴花を殺そうと何度も攻撃を仕掛けてきている。哉都はモノノケの右手を国久に任せて鈴花の援護に向かう。ガンッと横から爪と剣の攻防に投げ槍を投入するように大盾を振り下ろし、モノノケの片手を撤退させる。そこに鈴花の追撃が振られ、左手に傷が刻まれる。だが、爪はまるで鞭のように自由自在に動き、曲がるため爪自体の攻撃には至っていない。どうする?全ての武器、刃物、爪を葬れば明らかにこちらの勝利となるだろう。だが自分達は()()()()()()()()()()()()()()()に過ぎない。どうする?大盾で次々と繰り出される攻撃を防ぎながら哉都は脳をフル回転させる。その時


「うわっ」

「!国久!」


国久の悲鳴が響いた。急いで鈴花が国久のもとへ向かう。その間、哉都は大盾で敵の注意を引きながらジリジリと一歩、また一歩と後退していく。そして一瞬の隙をついて後方に跳躍する。跳躍した際、逃がさん!と言わんばかりに左の爪が衝撃波を放ち、哉都の前髪を撫でるように額を抉って行った。興奮しているのかそれとも傷が浅いのか、痛みはあまりしなかった。大盾で残りの衝撃波を吹き飛ばすと哉都は二人のもとへ駆けた。哉都が二人のもとに辿り着くとモノノケの攻撃を受けて倒れたであろう国久を鈴花が助け起こしていた。どうやら肩に攻撃を受けてしまったらしく、左肩から少量の血が溢れ、左腕を紅く染めていた。鈴花もいつの間にか頬に切り傷があり、一見したところ決して浅くはなさそうだ。


「大丈夫?」

「うん……二人は?」

「私も大丈夫。でも……あのモノノケ、どうやって倒せば……」


悔しげな、苦しそうな呻き声を鈴花は漏らす。右半分は潰したがまだ左半分が生きている。それに今度は自由自在に伸びる爪と来た。規格外過ぎて大笑いしたいくらいだ。


「一番厄介なのは爪だよね」

「カナの(覚醒技)でどうにか出来ないかしら?」

「貼りつけても取られたりしたら終わりだからなぁ……」


どうすれば、と思案する哉都達の周りをモノノケが「どう調理してやろうか」と言わんばかりの勝利顔で回っている。まぁ考え込んでいる時点でこちらの敗けだが、腹が立つったらありゃしない。一応の抵抗で国久が銃弾を撃ち込めば、素早い反射神経で銃撃をかわす。ユラリと余裕綽々と揺れるモノノケが恨めしい。哉都は右腕を見下ろす。一瞬、再び鬼の手のように、お札だらけの自らの腕が見えた。哉都は右手と左手の甲の契約印を眺め、深呼吸をする。


「(……俺だけじゃ出来なくても、()()には……!)」


力強い視線をモノノケに向ければ、一瞬にして視界が晴れたような感覚。魂が、心臓が高鳴るこの感覚は、総大将と出会った時と同じであって違う。嗚呼、これは。


「……国久、鈴花、俺に少し時間くれね?」


呟くように言った哉都を二人が振り返れば、彼の瞳は美しいほどに輝いていて瞳に写った自分達が見える。


「どうする気?カナ」

「確定じゃないけど、前世?の記憶を使ってみようかなぁと。前に戦ってる時にあり得ない事が出来たからもしかしたら、と思って」


ギュッと心臓辺りの服を握り締める。そう、あの時、敵の攻撃を見切れた。今の自分には出来ないであろう所業。つまりそれは前世の自分で。頭の中で優しく響く声はクスクスと嬉しそうに笑っていて。ねぇ、これが()()()やり方でも良いでしょう?だって、俺達は受け入れたんだから。この力を、意志を、存在を。国久と鈴花は哉都の言葉に顔を見合わせると「あの事か」と頷く。どうやら思い当たる節があるらしい。本当によく見ている。そう思うと何処か安心した。すると国久が覚束ない足元ながらもゆっくりと立ち上がった。鈴花が慌てて彼を支えれば、「大丈夫」と笑う。


「カナが言うなら信じるよ。でも、今は僕らの戦いだからね?」


スゥ……とオレンジ色の風が国久の持つ銃器を包む。と左手に持つ銃器が狙撃銃に変化し、右の銃器を吸い込んでいく。ジャコン、と音を立てながら狙撃銃を両手で構える国久。その隣で鈴花も剣を両手で持ち、足にあの蔦を出現させる。


「そうよーカナ。無理は禁物、絶対帰る。それが私達の条件であり(願い)。前世の思い出に苦しんだ刻ちゃんも自分も受け入れたカナなら、出来るわ」

「そうそう!それに僕らの抜群のコンビネーションを見せてやろうよ!」

「てことよ!」

「己の正義を信じて、突き進もう」

「己の正義を信じて、突き進みましょう」


何度も聞いたその言葉。なんで二人が知っているなんて、今は関係ない。だって、懐かしいと魂が答えて(叫んで)いるから。だから。二人の力強い言葉に哉都は真剣な表情で頷き返すと三人は今まさに哉都達を狙って跳躍しかけていたモノノケを振り返った。さあ、もう一回を始めよう!


そしてほぼ同時に駆け出した。ただ一人駆け出さずに大盾を構える哉都にモノノケもなにかないと思わないほど馬鹿ではない。獣の部分を素早く動かし、哉都へ一直線に突き進む。がそれを鈴花と国久が阻む。モノノケの周りを回るようにして移動しながら国久が狙撃銃で一発一発を的確にモノノケの胴体から伸びる爪に向かって射つ。パリンと良い音と共に刃物が割れ、モノノケの胴体に突き刺さるが敵はどうでも良いと云うように突き進む。と突然、モノノケがガクリと前のめりにバランスを崩した。前足二本を撃ち抜かれたのか、いくら前に進もうとしても全然動かない。前のめりになったモノノケに蔦を足場に鈴花が飛び乗ってくる。しかし、それは前方からではなく後方からだ。だからこそ、モノノケも気づくのが遅れた。モノノケが気付きよりも先に鈴花は剣をモノノケに突き刺したかと思うと勢いよく抜き放ち、斜めに切り裂いた。そこへ蔦を這わせ、強引に切り傷を左右に開かせる。モノノケが背後からの痛みに悲鳴を上げる。地響きのような悲鳴に背後にいる鈴花は耳を塞ぎかけ、強引に開いた切り傷から刃物が新たに生え出す瞬間を垣間見た。今此処で生えられたら哉都が考えていることが水の泡だ。鈴花は剣を持ち直すと大きく振り上げ、刃物を叩き割った。そうして落下しそうになる割れた刃物を足で上手い具合にキャッチすると放り投げ、空中で見よう見まねで回し蹴りを放ち、間近の敵の背後に刃物を叩き込む。続いての痛みにモノノケが鈴花の存在にようやっと気づき、後ろ手に新たに生えた爪を伸ばす。


「鈴花、頭下げて!」


国久からの指示に鈴花は躊躇うことなくその場で頭を下げた。途端、彼女に向けて伸ばされた爪と左腕に向かって銃器が乱射される。モノノケの前方に回り込みつつも爪の動きに合わせ移動し、狙撃銃から機関銃に持ち替えた国久が素早く乱射する。鼓膜が破けてしまいそうなほどの騒音を仲間に銃弾がモノノケに突き刺さる。その間に鈴花は蔦を使ってソロソロとモノノケの後ろから移動する。と、ガッと後ろ足で巨体を持ち上げたモノノケが国久に向かって接近を開始した。だが前足を持ち上げている状態での走行のため、遅いったらない。しかし、それはモノノケの感覚であって、国久の感覚ではない。接近してくる敵に容赦なく銃弾を放ちつつ、少しずつ後退していく。片手にもう一丁の機関銃を持つと壁を背もたれに乱射する。凄まじい音と衝撃で吹き飛ばされないよう壁で押さえる国久。モノノケは圧倒的銃弾の嵐に手出し出来ない。ギリギリと傷口を開く蔦に爪を伸ばす敵。だが、そうはさせないと言わんばかりに鈴花が蔦で追撃を加える。先程までは圧倒的にモノノケが優勢だったはずなのに今は劣勢だ。何故?そう思わずにはいられない。だって、哉都達コイチラは自分より遅いし弱いはずなのに。


「なんでって、思ってるでしょ?」


目の前で銃撃の光をまとう国久が笑う。絶対的な勝利の笑みを浮かべる彼は何処か男らしくて、まるで銃弾をまとっているようでもあった。その隣に鈴花もやって来、クスリと妖艶に微笑む。


「確かに私達はモノノケに勝てないわ、多分」

「僕らは一般人に過ぎなくて」

「一般人では決してない」

「「でも」」


ガンッ、ガガンッ。国久と鈴花の後ろでなにかを引き摺る音がする。引き摺っては持ち上げ、重くてやっぱり引き摺るを繰り返しているような重い音。それをなんだかはっきりと理解している。


「「僕ら/私達なりの戦い方でなら、容易に勝てる」」

「国久!鈴花!」


力強く、はっきりと告げられた言葉がモノノケに叩きつけられた。いや、実際に叩きつけられたのだ。勢いよく飛んで来た大盾が敵の顔面にクリーンヒットした。飛んで来た方向にいるのはもちろん哉都で大盾を投げた代償か、肩で大きく息をしている。モノノケに命中した大盾には刻との契約印を覆い隠すほどの大量のお札が貼られている。貼っても引きちぎられてしまうならば、直接叩き込めば良い!哉都は右手に持っていたお札も鈴花が開けた傷口に投げ入れると叫んだ。


「爆っっ!!」


バリバリッッッ!!!モノノケに落ちる多くの雷。それらはまるで無数の刃の如く、無数の雨の礫の如く。防ぐ手立てなんて何処にもない。無防備の状態のモノノケに降り注ぐ雷。開いた切り傷(内側)からも放たれる雷は意図も簡単に敵の戦意と体力を奪って行く。そして顔面にめり込んだ大盾が雷の振動でモノノケの内部へと勝手に進行し、さらに追い立てて行く。閃光が目を貫き、甲高い音が鼓膜を破く。それら全てが鳴りを潜め、静寂を取り戻した時、モノノケは真っ黒に焼け落ちていた。黒焦げと何処か焦げ臭い匂いを漂わせる物体にはモノノケの面影なんて何処にもない。敢えていうならば、顔であったところに大盾が突き刺さっている事であろうか。哉都は警戒した歩みでただの物体と化したモノノケに近寄り、大盾を拾い上げる。雷の一種の発生源になったにも関わらず、傷一つついておらず代わりとで言うように覆い隠すさんばかりに貼られていたお札がプスプスと黒い煙を上げながら燃え付こうとしていた。一応で物体を大盾で殴ると反応は一切なかった。完璧に沈黙している。それに哉都はホッと胸を撫で下ろした。


「国久!鈴花!」


バッと後方を振り返れば、笑顔の二人が哉都に片手を掲げながら出迎えてくれる。その手に両手でハイタッチを交わしながら彼らは勝利を喜び合う。


「凄いよカナ!」

「国久と鈴花もだろ!」

「みんな凄いってことで!」

「「「勝利!!」」」


嬉しそうにこの一時の間だけでも笑い合って。そうして。まるで刃物のような視線と殺気が彼らから放たれる。それに今まさに攻撃しようとしていたモノノケの足は止まるという選択肢を下す。自ら止まり、恐れた敵を狙い、哉都達は再び駆けた。

そして共闘。次回は木曜日です!

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