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神様遊戯~光闇の儀~  作者: Riviy
83/127

第八十二ノ契約 響く絆



貴方の気配は微かに感じるのに、それは()()()()()()()。少しだけ、ちょっとだけ違う。嗚呼、この気配は貴方が予感した闇の部分なのでしょうか?嗚呼、ならば此処に()()()()()()()()()()()()()は。けれど、諦めることはしない。だってそれが自分の一つの光だから。貴方の光だったから。しぶとい?諦めろ?上等、諦めないから。この世界は生きていたあの時代とは違う。自分の、今の状況も違う。全てが違う世界と体で、もう一度出会いましょう?


「響かせたまえ、我らの音を。我らの……そう、我らが願う(願い)を」


**


遠くか近くか、時雨の歌声が聞こえる。歌声と共に鈍い音も微かに聞こえる。大方、歌声で身動きを止めたモノノケに時雨が蹴りを入れたのだろう。多分、『神祓い(堕ちて)だった(しまった)ゆえのデメリット。それをものともせずに戦う時雨に尊敬の念すら感じる。哉都は右手の甲を優しく撫でると、ピタリと隠れている柱に背中をくっつけた。そうして振り返り様に背後を見やる。そこでは歌で支援しつつも案の定蹴りを放つ時雨と薙刀で敵を吹っ飛ばし、切り倒す刻が踊るように攻撃していた。此処はショッピングモールの三階。戦っているうちにいつの間にか三階に登っていた。いつの間に登ったのだろうと思うが無意識だったのだろうと思うと何も言えない。哉都は手元のエアガンを口元に軽く当て、クスクスと笑った。敵を笑っているわけではない。自分を笑っていたのだ。このエアガンではモノノケもヨウカイも倒せない。せいぜい相手の気をこちらに引かせるしか出来ない。それに命中率の問題で軽すぎる銃弾も当たりゃしない。一瞬、自分はなんて役立たずなんだと苦笑した哉都だったが、瞬時に違うと否定した。そうしてそれを現すように柱の影からエアガンを突き出した。銃弾を吐き出す銃口を右へ左へと移動させ、刻と時雨を背後から攻撃しようとしていたモノノケ二体に命中させる。一体は脳天に当たったらしく、痛そうと云うよりも煩わしそうに頭を掻いていた。かと思うと二体の存在に気づいた刻と時雨の攻撃が飛ぶ。


時雨はモノノケの足元に潜り込むと股に蹴りを当て、内股にさせると敵の足を足場に大きく跳躍。頭上に躍り出るとその脳天目掛けて回し蹴りを放った。グルンッと一回転する首に時雨は苦笑をもらすと着地するついでと言わんばかりにモノノケ腹に拳を突き出した。突然の連続攻撃に耐える体力はなかったらしく、前のめりになるモノノケ。そのモノノケは影のような形姿をしているのだが、感触は人で合っているのかいささか疑問である。前のめりになったモノノケの背後に回り込み、背中に蹴りをお見舞いしようとするとスッと滑るような、見切っていたと言わんばかりモノノケの体が前方に動いた。えっと驚く時雨の蹴りが空を切る。とモノノケはグルンと一回転した首をもとに戻し、時雨に向き直ると空に投げ出されていた足を素早く掴み上げた。


「っ!?」

「時雨!」


逆さまで宙ぶらりんになった時雨にモノノケが片手を変異させ、刃物にすると彼に向かって突き刺す。それを間一髪で揺れてかわす時雨だが、足を掴んでいる影が片足に痛みと痺れをもって侵略する。その痛みに思わず顔をしかめるとモノノケは嬉しそうにない顔を歪めた。その時、モノノケの頭にカツンと何かが当たった。なんだとモノノケがゆっくりとその方向を見ればそこにいるのはエアガンを持つ哉都で。視線を一瞬たりとも敵から離しては本当はならないのに。


「刻!」

「嗚呼、承知しているっ!」


ニヤリと笑った哉都の笑みがなんとも印象深かった。スパッと切られたモノノケの腕とその腕に捕らえられていた時雨が落下する。体を捻って着地した時雨は痛む足を軸に敵の足を刈り、後方に仰け反らせる。行き場を失った刃物を振り回しながら倒れ行くモノノケに左から現れた刻の薙刀が牙を向く。首と胴体を真っ二つにした刻は薙刀を振り回し、首も胴体も治らないよう別の方向に吹っ飛ばす。そして右から振り切られら馬のようなモノノケの攻撃をかわす。その額に刃物を生やし、ペガサスのようにも見えるが絶対にペガサスではない、うん。ガッと薙刀を横にして突き出された攻撃を防ぐと弾き飛ばす。飛ばした瞬間に左腕に痛みを感じたが今は無視をする。一瞥してしまえば、意識が逸れてしまうから。恐らく攻撃が当たってしまったのだろう。そう思いながら後退するモノノケに踵落としを放ち、薙刀を振り回す。コツン、とモノノケの足にまたエアガンの銃弾が、哉都の攻撃が当たる。その隙を狙って刻は薙刀を振り下ろした。二人の接戦を見ながら哉都はエアガンにBB弾を流し込んだ。弾切れになりそうで不安になるのはさっきも思ったことを、真実を何処かで引き摺っているからだろうか?左手首で揺れるブレスレットが目に入った。次の瞬間。


「っ!危なっ!?……ガッ!?」


哉都が隠れていた柱の頭上が崩壊した。慌てて逃げながら何事かと振り返れば、柱を破壊したのは武将のようなモノノケだった。いや、もしかするとヨウカイかもしれない。飛び散った破片が顔に当たらぬよう、腕で顔を覆うだけで哉都には精一杯だった。片腕に走る微かな痛みにスゥと全ての感情が消え失せる。()()()()()()()()()()()。ステップを踏むようにして後退し、片足をストッパーに停止する。そしてこちらを振り返るモノノケを睨み付ける。ガシャンとエアガンを構え、敵と睨み合う。モノノケが哉都に向かって巨大な刃物を振りかざすと同時に哉都はエアガンを連射した。当たらなくても良い。せめて時間稼ぎにさえなれば!そんな心意気で連射する哉都だったが甲冑に身を包んでいるせいか、攻撃は虚しくもカツンカツンと弾かれるのみだ。嗚呼、それでも。哉都に振り上げられた刃物の存在に刻と時雨が気付き、駆け寄ろうとするがモノノケが邪魔ですぐには近づけない。そんなことあるってことも分かってるし理解している。だから


「(()())()()んだっつぅーの!」


バァン、とエアガンを発泡したのとモノノケの巨大な刃物が振り下ろされたと同時だった。右手を秘色色の粒子が螺旋を描きながら包んだ。その粒子は時雨とのー多分、彼は気づいていないー薄くも刻まれた契約印から放たれていた。粒子が包んだ肌にお札のようなものが浮かび上がり右腕を覆い尽くしていき、爪はまるで刃物のように鋭く伸び。まるで封印されていた鬼の腕のようだった。妖艶であり、何処か儚げで触れれば壊れてしまいそうな、一瞬の造形のような右腕。痛みもなければ、逆に不思議な感覚さえあるほど。茫然とする哉都の右腕に巨大な刃物が打ち付けられる。切られる。そう思うのは無理もなかった。だが、割れたのは刃物だった。パリンッとガラスの如く簡単に砕け散った刃物にモノノケも哉都も刻も時雨も驚きで目がまん丸である。哉都は驚きつつも自らの右腕を見下ろした。傷一つついていない鬼の腕。それに痛みも感じない。先程まで握っていたエアガンの代わりにいつの間にか縦長の紙を数枚、指と指の間に挟めて持っている。粒子はいつの間にか消えていたが、うっすらと形さえ失った契約印から微かな光が放たれていた。すると役目は終えたと言わんばかりに右腕は通常の状態に戻る。だが、指と指との間のお札はそのままで。消えかかっていた契約印は数秒前とは違い、息を吹き替えしたかのように色づき始め。つまりこれは。そう思うよりも早く、モノノケが割れた刃物の切っ先を哉都に向けてもう一度振り下ろす。が、哉都は左手を刃物に向けて振り切った。ガッン!と鈍い音が耳元で響く。驚くモノノケの後方にまた驚く刻と時雨を見て、哉都は少し可笑しくて笑ってしまいそうになる。それもそのはず。哉都の左手には巨大な盾が握られていたのだから。その表面には交差した桔梗紋と胡蝶紋が大きく翡翠色で描かれていた。つまりそれは。


「覚醒……!?」

「まさか、マジかよ……!」


二人の驚愕の声に哉都はニヤリと笑い、盾でモノノケの刃物を大きく弾く。と右手のお札を一枚、体勢を崩したモノノケに飛ばす。ペタッと呑気な音を立てながらモノノケの胴体にお札がくっつく。此処からでは見えないがなにや文字が書かれているようだ。そうして、哉都は呟く。


「爆」


途端、ボッと音がし、モノノケに何処から都もなく雷が落ち、敵の体が炎に包まれる。あまりの熱さと痛み、そして痺れに甲冑がひび割れを起こす。ピョンピョンと跳ね飛び、どうにかして炎を消そうとするモノノケ。だがその背後に刻と時雨が迫っている時点で敵の負けだ。ズバッと背後から真っ二つに切られたモノノケの体が炎に包まれたまま倒れ行く。炎に反応したのかスプリンクラーが起動する。室内なのに降り注ぐ雨にモノノケとヨウカイが慌てて一時撤退をする中、哉都達も別のエリアへと駆ける。敵がいない別のエリアで先に走っていた刻が哉都を振り返った。


「主君!」

「え、あ、なんだよ刻」

「覚醒、出来てるよ」

「……これ、が?」


肩を掴まれ、刻が詰め寄るように、嬉しそうに哉都に言う。哉都はそれに先程の力を思い出しながら自らが持つ物を見下ろした。封印が解かれたお札と大盾。大盾は刻だろう。と顔を上げれば刻の左半分を覆っているはずの布がなくなり、顔の全体像が明らかになっていた。キラキラと輝く翡翠色の瞳は宝石とも月のようにも見えてなんとも美しく、髪飾りと相まって天女のようにも見えた。それに哉都はお洒落した時の刻の姿を思いだし、場違いながらも頬にカッと熱が灯る。その熱を追い払うように刻に言う。


「刻、顔の布が、ないけど」

「え……」


刻自身も顔の布がなくなっている事に気づいていなかったらしく、驚いた様子で自分の頬に手を当てた。そこでようやっと気づいたらしく、「そうだね」と小さく笑う。どうやら紗夜のように覚醒すると変化があるタイプらしい。ちゃんとした刻の顔が見えたことに哉都は嬉しく感じ、左手首のブレスレットを一瞥した。


「……信じてる」

「!……嗚呼」


呟くように言ったその言葉に刻も嬉しそうに笑う。哉都も笑い返し、右手の甲を二人で見た。そこにはっきりと刻まれていたのは秘色色の柊紋と弊紋。寄り添うように、重なるように描かれた家紋は刻のものとは違う神秘さと神々しさを持っていた。


「これって、あの時の」

「うん」


哉都が続けて言おうとしたその時、二人の背後で殺気が漂った。ハッと後方を振り返ればそこにいたのは先程と似た甲冑を着たモノノケ。色違いであり目に光があるのでもしかするとヨウカイかもしれないが、絶賛絶体絶命のピンチ中の二人にとっては二の次だった。ガンッ!と大盾を自分達の前に構え、哉都は指先を操り、一枚のお札を選び出す。そうして言葉を紡ごうとするがそれよりも敵の動きが速すぎるために既に巨大な刃物は目前に迫っていた。


「オマエら頭下げてろ!」


と、突然聞こえた聞き覚えのある声に哉都と刻は無意識の内に従っていた。大盾に二人で頭を抱えて隠れた、次の瞬間。ズバッ!と敵が縦に真っ二つに切り裂かれた。敵も何が起きているのか分からないようで振り上げた刃物が空を切る。パカン、と縦に裂かれて倒れていく敵に再び後方から更なる追撃が落ちる。横に一線。バラバラに砕け散った敵の体はなにもすることなく、水が張った床に水しぶきをあげながら落下する。その水しぶきに「うわっ」と哉都は声を上げながら一歩後退した。敵は水の中で微かに痙攣していたがそのうち、完全に動きを止めた。警戒しつつも哉都は刻と共に大盾から顔を出す。先程の声は明らかに時雨のものだったが、何処に……


「全く、『神祓い』で力が落ちたから出来ねぇと思ってたが、逆だったとはねぇ」

「え、は?!」


そうケラケラ笑いながら敵が倒れた向こう側から現れたのは服が変化した時雨だった。白いマフラーは健在で、薄い白緑色のタンクトップで右肩から短いマントが伸び、両腕には籠手を巻いている。少し腹出しになっている。両耳には秘色色のイヤリングが星のように煌めいており、灰色の長ズボンをはいている。多分、靴は同じだろう。そしてその両手には哉都の右手の甲にあるのと同じ家紋が刻まれた剣を持ち、少年と言うような、何処かおとなぶっているような大人びていた雰囲気は何処にもなかった。そこにいたのは一人の神様、一人の戦士だった。『神祓い』とは違う、意思を持った一人の強者だった。


「時雨、それっ!」

「ん、嗚呼これか?なんか大将の覚醒と一緒に変化した。元々の武器だった剣も使えるってとこを見るに、覚醒が引き金だったんだな……契約印、ないはずなのに」


最後の言葉は何処か悲しげだった。低い身長のせいで少年に見えたこともあったが今の時雨は青年、もしくは男性にしか見えない。哉都は時雨の悲しい勘違いを正そうと刻を一瞥すると「ん」と右手の甲を時雨の顔面に差し出した。


「お前、契約印消えたとか言ってんけどな、お前と契約した時に刻まれてるんだよ、契約印」

「はっ!?なん、で……!?」


哉都の右手の甲に刻まれた柊紋と弊紋に時雨は驚き目を見開くと、自らの首元を覆うマフラーを引っ張った。マフラーに隠れていた部分、右の首元辺り、鎖骨と言っても良さそうなところにはまるで焼き印を押したかのように浮き出ている柊紋と弊紋が刻まれていた。時雨はその凸凹とした感触に現実だと悟ったらしく、驚愕と歓喜と、言い表せない多くの感情を詰め込んだ瞳と笑顔を二人に向けた。


「これは私の推測だが、主の主君と主の強い思いが世界に受け入れられたったことだろうね。主君もまたしかり、それを望んでいた」

「は……ハハ、マジか……マジかよ……」

「だから言っただろう?望まれた縁だって。そこに異端もなにもないんだよ」


刻の言葉に時雨は嬉しそうに笑う。哉都も嬉しかった。覚醒は意志の共鳴だけじゃない。彼らとの繋がりをより強くする証なんだ。それは時雨と元主である和泉も同じこと。彼女の(願い)は半分だけであろうとも叶えられた。それは互いを想ったがゆえの奇跡だった。

時雨の頭を、それこそ面倒をかける愛しい弟の頭を撫でるように優しく刻が撫でる。その優しい手付きからも歓喜が伝わってくる。嬉しさと感謝で泣きそうになる時雨の涙を引っ込めるべく、哉都は右腕を示しながら聞く。


「じゃあ、右手に時雨との契約印が刻まれてるから右手はああなったってことか」

「多分、な……擬態の影響でずっと和泉に合わせた格好でいて、そのまま『神祓い(堕ちた)』から固定されて、んで覚醒するまで本来の力が使えなかったから補いがそれだったんだろうなぁ。あん時は負の感情からか和泉の覚醒武器予定だった大幣をどういうことか引っ張り出して来たみてぇだし……だからかぁ。刻が大盾なのは理解出来る」

「しかし、これは陰陽道?みたいなものなのかい?一瞬、鬼の腕のようにも見えたが……」

「そうだよ!それが聞きたかったんだ!」


どういうことだ?と他にも聞きたいことがあった哉都だが、刻と共に聞けば、時雨はうーんと悩んだあと、ニヒヒと男らしく笑った。


「オレ、鬼神の信仰心から造られたようなもんだから。だからじゃね?」

「「…………はぁああ??!!」」


哉都と刻の驚愕の声が響き、それにモノノケとヨウカイが一瞬魚籠ついたのは言うまでもない。

格好まで変わっちゃう系は絶対一人入れたかったんです(満足)

次回は木曜日です!

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