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神様遊戯~光闇の儀~  作者: Riviy
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第七十六ノ契約 始まりの作戦


「仲直りしたみたいね」

「うわっ!?なに三人共、目赤くして!タオルタオル!」


リビングに戻るとソファーに寛いで座る鈴花と国久が声をかけて来た。案の定、国久は三人の目の腫れに心配そうな表情を示すと「またキッチン借りるね!」と目元にかけるためのタオルを作りに行った。いつも通りの対応になんだか安心してしまい、余計に肩の力が抜けていく。鈴花の膝の上には一時的に覚醒状態を解いた黒猫紗夜がゴロゴロと喉を鳴らしながら丸まっていた。哉都達のいつもの様子に安心した、と言わんばかりにゴロゴロの音が大きくなる。


哉都カナくん」


そこに茶々がやって来ると、首を傾げて見せた。その仕草に少しだけ意味が分からなかったが、茶々の瞳が「大丈夫だったでしょ?」と言っているのに気付き、グシャッと彼の頭を撫で繰り回した。その笑みがちょっとムカついたのは分かっていたようで分かっていなかったことを再認識させてくれるからかもしれない。感謝はしている、うん。


「な、なに~?!」

「なんかムカついた」

「なんか!?なんかってなに!?理不尽!」

「茶々はそういう奴だろ」

「えぇー!?」


グシャグシャと哉都が茶々の頭を撫でれば、茶々が抵抗の声をあげる。なんだか大型犬の頭を撫でている気分だ。時雨の言葉に茶々の矛先は彼へと向き、「うがー!」と襲いかかるように抱きつく。仲が良いとしか言いようがない。楽しくじゃれ合う二人に先程までの何処かどんよりとしていた、悲しげだった雰囲気は何処にもない。それが心地好かった。哉都は刻と共に鈴花の隣に座る。とタイミング良く国久が濡れたタオルを持ってきてくれた。礼を言いながら受け取り、目元に当てると鈴花のニヤニヤとした笑みが視界の隅に入った。その理由はなんとなく分かるが一応聞くだけ聞いておく。


「……なに鈴花」

「なんにも~?刻ちゃん、良かったわねぇ」

「ですね!」


ふふっと口元を抑えて笑う鈴花と紗夜に哉都は少し恥ずかしくなり、視線を逸らすと穏やかに微笑む国久と目が合ってしまい、余計に恥ずかしくなった。それは刻も同じようでタオルで顔を隠している。哉都は左手首につけたブレスレットを片手で撫でる。と国久が優しく、それこそ母親のようで父親のように微笑む。


「とにかく、良かったねカナ」

「嗚呼……ところで今どうなってる?」


哉都が不安に思っていた事を問えば、国久と鈴花が顔を見合せ神妙な顔付きになった。テーマパークから緊急避難してから早数時間。そろそろ情報が上がって来ても良い頃だ。対策を聞かないことにはこちらも避難したくても避難出来ないし、対策を立てたくても立てられない。国久が真剣な表情でテレビのリモコンを手に取ると電源を入れる。パッと映ったテレビ画面には地獄が広がっていた。モノノケとヨウカイの出現に逃げ惑う人々。交通機関が停止し、不安に表情を歪めながら座り込む人々。恐怖で発狂してしまい、警察官に取り押さえられている若者。破壊し尽くされたテーマパークを上空から写し出した映像。多くの建物から火の手が上がり、テーマパークは炎の街と化していた。ガラガラッとテーマパークのアトラクションが大きな音を立てて崩れて行く映像も残っており、『ヒッ?!』と言う悲鳴が小さく聞こえた。その恐ろしいほどの現状にじゃれていた茶々と時雨も真剣な表情で彼らの近くに立ち、全員が静かにテレビ画面を見つめていた。惨劇、地獄、戦場、どう表したら良いか分からないほどに平和だと思っていた日常は脆くも儚く、化け物によって簡単に壊されていく。相手にとっては積み木を崩すような感覚なのだろう。そう思うと怒りと憎悪が沸き起こる。


「ネットでも色々言われてるわよ。見る?」

「……一応」


凄まじい現状に茫然と哉都と刻がしていると鈴花が何処かのサイトを開いて見せてくれた。テレビではニュースキャスターが興奮した様子でなにやら叫んでいたが、支離滅裂過ぎて聞き取れなかった。それもそうか。鈴花が二人に見せたサイトのコメントも混乱と恐怖に包まれており、モノノケやヨウカイ、八咫烏警備隊に怒りを叫ぶ者や恐怖で発狂し、文字化けを起こしてしまう人さえいる始末だ。中には『世界の終わり』『世界の生死をわかつ聖戦が始まった』と興奮気味に綴る者もいた。なるほど、まさにその通りだと哉都は内心思った。本当はいつ起きても可笑しくなかった地獄が今まさに現れたのだから世界の終わりと言っても過言ではなかった。また、コメント欄の中には契約している者もいるらしく『俺、呼ばれるのかなー?(笑)』『スカウトはないけど、これって契約者は召集?』なんて書き込んでいる人もいる。確かに八咫烏警備隊だけではあの量のモノノケとヨウカイを捌き切ることは不可能だろう。それに発生源である女性もいる。戦力は大いに越したことはないだろうが、なにも訓練を積んでいない一般人がいきなり戦場に出ても一発アウトである。


「大変なことになっているね」

「でも、まだ八咫烏警備隊からの発表はないんだよ」


スッと二人からスマートフォンを奪い取る鈴花の隣で刻が呟く。国久の言う通り、テレビでもニュースキャスターが『いまだに八咫烏警備隊からの発表はありません!』と叫んでいる。


「どうするんでしょう?」

「全勢力で戦うしかねぇだろ。それで勝てるかもわかんねぇけど」


ソファーの背もたれに両腕を置き、前のめりになるようにして時雨が答える。近くに来た時雨に国久はタオルを渡すが、大丈夫だと断られた。手元無沙汰になってしまった国久はタオルを近くに来た茶々に投げ渡す事にした。なんでだと思っていたら、タオルを受け取った茶々はべちゃっと時雨の顔にタオルを押し付けた。なんとも間抜けな音がした。茶々は「悪戯成功♪」と楽しげに笑っているし、国久は「そこまでとは思わなかった」と苦笑気味、鈴花と紗夜に至っては今にも怒り出しそうな時雨を放って大爆笑である。刻は笑えば良いのか時雨を助ければ良いのか迷っているようで困惑していたが、微かに体が笑いに耐えきれず痙攣していた。哉都はと言うと、口元を抑えて笑いを押し戻すのに必死である。デロンと顔が剥がれ落ちたかのように落下したタオルを握りしめ、時雨がニッコォオリと笑う。目が笑っていない。怒ってるな。


「茶々ぁ~?」

「ボク!?ボクなの!?」

「顔にやったのはオマエしかいねぇだろうがぁ!!」

「アッハハハ!!駄目です!笑いが止まりません!」


今度は時雨が茶々に襲いかかる番だった。逃げ惑う二人を見て紗夜が先程よりも大きな笑い声を上げる。それにつられて鈴花も大きく笑い出し、哉都も耐えきれずに笑う。先程まで真剣で、緊迫感に包まれていたのが嘘のような楽しい空間だ。こんな空間がいつまでも続けば良いのに。そう思うほどに世界も現実も残酷で。


『たった今、八咫烏警備隊より今回の騒動及び対策の会見を行うとの情報が入りました!繰り返します!八咫烏警備隊の会見がたった今開始される模様です!』

「……やっとか」


低い声で呟かれた刻の声色には緊張と真剣さが滲んでいた。楽しく遊んでいた、平和な時間はもう終わり。これからの現状を話し合いましょう。誰も彼もがテレビ画面に釘付けになり、八咫烏警備隊の発表を待つ。パッと興奮気味に叫んだニュースキャスターから場面が切り替わる。切り替わった場所は八咫烏警備隊本部のロビーだ。多くの報道陣が一斉にフラッシュを焚くので目がチカチカしてしまう。茶々がそうだったのか、目を擦り、時雨に止められていた。白いパネルをバックに多くのフラッシュが瞬く。誰が現れるのか、一言一言聞き逃さないと言うように無数のマイクが画面下から見え隠れしている。それはまるで敵前に突き付けた刃のようで、哉都はゾッとした。刃を構えた相手はきっと親の仇を睨み付けるような視線で会見に現れる人物を貫くのだろう。「何故もっと早くに動かなかった?」「何故もっと早く化け物を討伐しなかった?」「何故こんなことになると考えられなかった?」多くの疑問と謎は、永遠に答えてはくれない。だって、人間は全知全能の神ではないのだから。この世界に神はいない、そう言っても無理はなかった。


「八咫烏警備隊の誰が来るのかしら?」

「最高責任者とか?誰だか知らないけど」


フラッシュだけが瞬く画面から目を逸らし、鈴花と国久は言う。始まる、始まると言っておきながら一向に始まらない発表に報道陣は苛立ちを隠せないようでカメラが左右に揺れ動く。酔うから心底やめて欲しい。なにか飲み物でも取って来るかと哉都が腰を上げかけたその時、フラッシュが再び大きくなった。


『今!八咫烏警備隊員が現れました!始まるようです!』


どうやら今度こそ始まるらしい。哉都は浮かしていた腰をソッと戻し、画面に視線を移す。誰もが、そう世界中の誰もが真剣と緊張を孕んだ表情でテレビを睨み付けているのだろう。世界の命運を聞くため。パネルとフラッシュの嵐の中に現れたのは一人の男性だった。刃物のように突き出されているマイクも眩しいほどのフラッシュもものともせずに堂々と彼らの前に姿を表す。その男性を哉都達は知っている。そう、あの人は……


「!あの時の!」

「え、あの人って雨神 壱月だったの!?」

「うっわ!ボクたち有名人に会ってたってことじゃん!うっわ!」

「……嘘だろう……?」


哉都達を助けかつテーマパークで偶然出会った男性だった。それだけでも驚きなのにテロップには『雨神 壱月さん』と出ているのだから驚愕しまくりである。時雨は一度だけなので怪訝そうな表情を浮かべているが、哉都達にしてみれば驚きの連続で大混乱である。鈴花と紗夜も哉都達ほどではないが静かに驚いており、紗夜に至っては鈴花の肩に飛び乗るほどの衝撃だったようだ。一時壮絶とした哉都達だったが「とりあえず聞こうぜ?」と言う驚く彼らを見て逆に冷静になった時雨の言葉により、一同落ち着きを取り戻した。姿勢を正し、テレビに目を向けるとタイミングがあるのか男性はなにも言わずに佇むのみだった。次第に質問を投げ掛けざわついていた報道陣も静かになり、男性は口を開いた。


『八咫烏警備隊は総力を上げて、今回の騒動の終結を目指すものとなりました。つきましては、一つの街を犠牲にさせていただきます』


男性の衝撃的な言葉に報道陣が罵声にも似た質問を投げ掛ける。それら全てを受けながら男性は声を張り上げる。その瞳は刃物のように鋭く、漂うオーラは融合してしまったという神王を称えるかの如く、神々しかった。


『順を追って説『どういうことなんでしょうか?』『八咫烏警備隊は一般人に死ねと言っているんですか?!』『どうなんですか!?』っっ、説明するって言ってるんだからちょっとは黙れないのかな??!!』


質問をこれでもかこれでもかと投げつける報道陣に男性の鋭い言葉が飛ぶ。衝撃的な発表に興奮するのは分かるが、ちゃんと聞かなくては意味がない。やり過ぎた、と報道陣も反省しているのか、シンと鶴の一声で周囲は静まり返った。凄い、と刻の呟きが大きく響いて男性達に聞こえてしまうのではないかと思うほどに静まり返り、そうして一体化していた。静まり返った事に男性は満足げに鼻を鳴らすと告げた。


『八咫烏警備隊は今回の騒動には首謀者がいるとみています』


次回は月曜日です!云うことなくなったのは仕様です!多分!

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