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神様遊戯~光闇の儀~  作者: Riviy
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第六十六ノ契約 台風の目、到来


「奇遇だな」


時雨の言葉を遮るようにーいや、この喧騒だ、単純に聞こえなかったのだろうー響いた声は何度も聞いたことのある声だ。時雨は声に遮られ、不満そうに口を閉ざす。その声にある意味鈴花の表現当たってるなぁと内心苦笑と労いをかけながら、声がした方を哉都は振り返った。


「本当に奇遇だなぁ。探ったわけじゃないよな?」


哉都達が振り返った先にいたのは案の定八咫烏警備隊の隊員と彼の神姫、そして一人だけ明らかにテーマパークに染まりまくった人物だ。その人にも神王であろう人物はいる。しかしその人物は頭から爪先までテーマパーク内に売られているハットや手袋、服を着ているため隊員達と知り合いではなくただの一般人のように見えてしまう。が、まるで犬のように隊員と神姫の周りを行ったり来たりしているところを見るに後輩なのだろう。先輩と云う線もあるが、隊員の場合、先輩がいるところで哉都達に接触することはあり得ない。ならば後輩だろう。隊員と神姫は以前見た軍服のようなものではなく、私服だ。頬杖をつきながら言った哉都に隊員は見下すような視線ではなく、軽く会釈するのみでまた少し拍子抜けしてしまった。国久と茶々にも会釈をしているところを見るに本来は生真面目な性格なのだろう。スカウトしたい人材にとっては生真面目と言うよりも鬱陶しいとなってしまうかもしれないが。じゃあ、前まではなんだった?そう問われれば、実力がない者を入れないようにするためだったのだろうと予想出来る。……自信はない。八咫烏警備隊が考える事なんてそれこそ独自の情報者を持つ鈴花以外は。


「今回は探ってはいない。休暇だ。貴様ら全員の行動を管理出来るのならば、モノノケに襲われるような世界ではない」

「確かにねぇ。こんな大人数の中から見つけられるなんて無理だよ」


ケラケラ笑いながら国久が隊員の言葉に答えれば、隊員も小さく笑う。なんだか、以前の図書館事件ーと哉都達は呼んでいるーから表情が柔らかくなったように思う。以前は無理矢理だったが、自分達を受け入れようとしているように見受けられる。そういえば、家に八咫烏警備隊からなんか通知来てたような……?多分気のせいだ、知らん。


「結構、八咫烏警備隊のスカウトってしつこいらしいしね」

「へぇ~そうなんだ!うん、確かにしつこい」

「直球に言うな。まぁスカウトと言うのは当たっているからな、間違いではない」


何故かふんぞり返って言う隊員に傍らの神姫がクスクスと笑う。どうやら面白かったらしい。後輩であろう別の隊員も「先輩のスカウトはしつこいっすからねー」と国久に告げ口して憤慨した隊員に首根っこを捕まれていた。少しだけで口角が上がっていたのは気のせいではないだろう。


「なんすか先輩ー」

「貴様は要らんことを言うな。こいつらは云わば金のなる木。こいつらを逃したら貴様は責任が取れるのか?」

「んー無理ですね。でも今日は休暇っすよ?挨拶に来ただけでしょ?」

「うるさい黙れ」

「なんで?!」


噛み合っていないような会話に茶々が耐えきれず噴き出した。それに時雨も釣られて笑い出すが、ツボに刺さったらしく顔を背けた。そういえば、鈴花と紗夜の契約はすぐに見破ったのに時雨のことは見破らないなと哉都は思った。時雨は元とはいえ『神祓い』だ。縁が違うにしろわかると思ったのだが、気づかれないと言うことは国久が擬態を促した事が功を制したからだろうか?それだけではない気がするが、国久に視線を移せば、グッと親指を立てられた。予期してはいなかったが当たった、と言ったところだろうか。


「(さすが俺の、俺達の親友)」


なんだが嬉しくなって口元を押さえて微笑めば、哉都も笑っていると思ったのか隊員の頬にカァと赤が差す。休暇中なせいかコロコロ表情が変わって面白い。一時は憎らしかった事を考えて、コロコロと変わることが面白いと思ってしまえば、笑わずにはいられない。


「あら?八咫烏警備隊の……え、なに、貴方達も休暇中なの?」


その時、驚愕と混乱を滲ませた声が響いた。その方向を向けば、そこにいたのは買い物終わりの刻達である。買った物は宅配サービスに預けて送り出したようで買い物に行く前と同じ身軽な格好である。ついでに自分達の飲み物も買ってきたらしく、刻は両手に哉都達が買って飲んでいたお店と同じイラストが描かれたカップを持っている。時雨の存在に気づき紗夜が前足を鈴花の頭で上げている。ん?待て?


「お帰り鈴花、刻、紗夜」

「あのさぁ、貴方達()って言った?」

「?ええ、言ったけど……」


国久と茶々が鈴花の言葉に怪訝そうに言えば、隊員達も「え?」と止まる。そう、鈴花は貴方達()と言っていた。つまり、別の八咫烏警備隊員に会ったと言うことだ。だが、隊員達は他の隊員のことは言っていない。自分達をたまたま見かけて脅し(挨拶)に来ただけのようなものだし。刻と鈴花、紗夜の反応から敵対体勢であった隊員ではないことは明らか。むしろ好意的な印象を持っているようにも見える。どういうことだと思っていると、長身の刻を飛び越えるようにしてピョコン!と誰かが跳ねた。まるで茶々のようだと思ったのは言うまでもない。


「あれ?なんで君たちがいるんだい?」

「それはこっちの台詞だ貴様!」

「え、え?知り合いなの?」


刻の背後から飛び出て来た人物ー男性に隊員が叫ぶ。何処かで見たことあるような陽気さと人懐っこく親しみやすい笑みに哉都の脳内で火花が散った。そうだ、そうだ彼は。


「!あの時助けてくれた八咫烏警備隊の人!」

「え、あの人?茶々らを連れてきてくれた、あの?」

「そうだよ間違いない!てかなんで此処に?!」

「本当だ、あの人だ!あの時はありがと!」

「なんで貴様此処にいる!?」

「えー?普通に休暇中だから遊びに来たに決まってるじゃないか。一緒に回る?」


あっちこっちから声が上がり、もうカオス状態だ。時雨と紗夜に至っては自分に矛先が向いていないから良いとでも言うように大爆笑である。刻と鈴花は苦笑を浮かべている。つまり、八咫烏警備隊の隊員達とあの時助けてくれた男性は同じ隊なのか否や知り合いで、哉都達が遭遇している間に刻達も遭遇し、こうなったと言うわけだろう。……うん、カオス。


「あの時はありがとうございました」

「良いんだよ!それが僕たちの仕事だからね!でしょ?」

「こっちに投げるな!」


哉都がとりあえずで礼を言い、国久と共に頭を下げれば、男性は笑って隊員に会話を投げつける。隊員は心底関わりたくない!と言いたげな表情で腕を組んでいるが彼の神姫や後輩は関わりたいと言いたげな表情だ。どっちだよ。


「とりあえず、また来るからな」


隊員はそう言って撤退する道を選んだようだ。男性を一瞥することも哉都達を一瞥することもなく、さっさと立ち去ってしまった。よほどこの場にー正確に言えば男性といたくないのだろう。そんな隊員を微笑ましげに見ながら男性は笑う。可愛い後輩を可愛がるお節介先輩とそのお節介から恥ずかしがりつつも逃れる後輩にしか見えず、笑いが溢れる。なんだが自分達みたいだ。八咫烏警備隊と言っても、神王・神姫と契約を結んでいても自分達と同じなのだ。普通の人間なのだ。例外はもれなくいるが。男性は隊員達を追いかけようとしていたが、ふと、視線が哉都の方を向いた。その視線は全てを貫くように鋭く、そうして表現し難い色を持っていた。


「ふぅん、そっかそっか。選んだかぁ」

「えっ」


先程までの陽気なまでの声色もひまわりのような笑顔もし舞い込み、男性は言う。突然の彼の変貌に周囲は熱気に溢れているのに此処だけ気温が一気に数度下がったような感覚。暑いのに、寒い。そんな不穏な雰囲気。男性の矛先は哉都から時雨に移動すると彼を見てクスリと笑った。親しみやすさを重視していたような笑みでなく、意味深げな笑みだった。全てを知っていると、全てを理解していると言わんばかりの笑み。その笑みを受けても時雨はなにも言わずに示さず、逆に男性を睨み付けていた。その眼光鋭い視線に臆することなく、男性は今度は刻に視線を向け、全員を見渡した。


「ん~いっか!じゃあねー!」


鋭い視線で見渡したかと思えば、突然親しみやすい笑顔に戻り、哉都達に手を振った。そうして行ってしまった隊員達を追いかけてパレードが始まった人混みの中に消えていく。一体全体なんだったのだろうか?まるで台風のようだった。てか、突然の突然に体にドッと疲れがのし掛かる。


「……なんだったのよ……」

「僕らが知るはずないでしょ鈴花。てかなんで連れてきたんだ?」

「……何故か着いてきてたわ……」

「……えぇー」


背凭れに背を預ける国久が鈴花に言った。男性の視線の先にいた時雨を哉都は振り返り、大丈夫だろうかと顔を覗き込む。と彼はニヤリと大丈夫だと言いたげに微笑んだ。それに哉都も安心したように笑う。だが彼は気づいていなかった。刻と時雨が交わしていた、いや一方的とでも言うような()()()に。


晴れ渡る青空から台風の目が通りすぎて行く。

その結末を知らずに。ひっそりと。

タイミングが良いんだか悪いんだか……

次回は木曜日です!

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