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神様遊戯~光闇の儀~  作者: Riviy
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第五十九ノ契約 対決


モノノケとヨウカイに向かって飛び降りた二人を心配そうに見送ったか否や、哉都達は全速力で階段を駆け降りると新たに鴇色の膜に覆われた紗夜の背後に滑り込んだ。突然現れた新たな獲物に異様な姿をしたモノノケは一瞬、喜んだように顔を綻ばせると大きく跳躍した。だが、哉都は消火器を使い、水圧を使ってモノノケを吹き飛ばす。国久もさすまたで近くに寄って来たモノノケを捕まえると紗夜の攻撃魔法で捌いて行く。鈴花は膜の後ろで逃げ遅れた人がいないかと、しきりに辺りを見渡し、刃音に負けぬよう大声を上げる。水圧で敵を後ずらせると刻や茶々の武器がどうにか前へ進もうとするモノノケを亡きものへと無様に変貌させていく。国久の持つさすまたもモノノケを捕らえると同時に亡骸へと変わって行く。これが戦うと言うことだと実感してちょっと怖くなる。刻達はいつもこんな状況に置かれているのか。ならば、ねぇ、考え付くことは多くないでしょう?足元にいつの間にか迫っていたモノノケの頭を思いっきり蹴飛ばすとモノノケは後方に転んでしまい、そこに紗夜の攻撃魔法が突き刺さる。地面に突き刺さった二色の刃は触れてしまえば、もちろん血が出てしまうほどに鋭くて。慣れない感触。これを全員味わったのだと思うと他人事とは到底思えなくて!ゲームじゃない世界は、まるでゲームのようでもある。だがこれが現実だ!忘れるべきではない。此処はこんなにも危険だと言うことを。


「カナ、やるねぇ」

「国久だって!モノノケに柔道の技かけても良いんじゃねぇの!?」


さすまたでモノノケを捕らえ、茶々の方にスライディングさせる国久。国久はさすまたを両肩に担ぎながら「それは難しいかなぁ」と声を洩らす。


「集中しなさいよ二人共!」

「分かってるっ!」


鈴花からの警告に哉都が反射的に叫びながらモノノケを水圧で吹っ飛ばせば、クスクスと足元で紗夜が笑う。首元のリボンが魔法と水圧で起こる水しぶきによってユラユラ揺れ動く様はまるで舞い踊る蝶に見えた。

と、消火器が吐き出す水の勢いがなくなってきた。どうやら水切れが起きているらしい、やり過ぎたか。哉都はクッと歯を食い縛りながらも今度は消火器を投げつけようと腕を振りかぶる。すると水を全身に浴びたモノノケが突然、凍りづけにされてしまった。なんだと目を見開きその方向を見れば、どうやらヨウカイである雪女の攻撃を刻がかわしたようで後ろにいたモノノケに当たってしまったようだ。あら、と驚く雪女に哉都は喉から沸き上がる笑い声を堪える。嗚呼、なんだ。簡単なことじゃないか。


「鈴花!」

「なに!?」

「その剣、俺でも使えるか?!」


こちらに背を向け、大声を張り上げる鈴花にそう叫べば、目の前で黒猫姿の紗夜が驚いたようにこちらを振り返る。使えない、とでも言いたいのだろう。嗚呼、でも。鈴花は哉都の問いかけにニィと口角をあげて微笑むと国久に問う。


「国久!さすまたって何処にあったの?!」

「二階!他は知らないかな!?っと」

「普通はそうよね!ってことは無理ね……しょうがない。カナ!」


薄い剣を握りしめ、鈴花は哉都達を振り返る。そうして、


「何処に投げれば良いの!?」

「俺の真っ正面!」

「真っ正面、刻ちゃんのところね。行くわよ国久!」

「うん!」


砲丸投げをやるような要領でグルグルと回り始めたかと思うと鈴花は遠心力を用いて薄く輝く剣を投げ飛ばした。勢いよく飛んで行く剣はまるで風のように、空間を裂く。その剣を国久はさすまたでキャッチすると飛んで来た勢いで半円を描く剣をさすまたの中で一周させ、国久はさすまたを振り切った。さすまたの中から飛び出した剣が一直線に、まるで矢のように雪女の首目掛けて飛んで行く。それに気づいた刻が紙一重の距離でスッと横にずれれば、雪女の首に剣が突き刺さる。突然、何処から飛んで来たかも分からない剣の攻撃に雪女は白い長髪を振り乱しながら口から怒りと痛みの氷の息を吐き出す。


「(今だ!)茶々、狙えよ!」


雪女が氷の息を吐き出した瞬間、哉都はからになった消火器を投げた。哉都に呼ばれ、モノノケを切り伏せながら振り返った茶々は目の前に飛んで来る消火器を凝視し、ニヤリと笑った。そして、倒れ行くモノノケを足場に跳躍すると消火器を蹴り飛ばした。カァン!と鐘のような音を響かせつつ、消火器が勢いをつけて飛んで行く。まるでボールのように左右に曲がりながらモノノケの頭を直撃していく消火器。最後には首に刺さった剣を懸命に抜こうと足掻く雪女の後頭部にクリーンヒットした。大袈裟なリアクションと言いたくなるような感じで後方に雪女が倒れて行く。恐ろしいほどにナイスコントロールである。案の定、茶々が爆笑である。


「ハハッ!!リアクション!!おもしろぉー!ハハハッ!」

「ナイス国久!」

「鈴花もね!てか茶々笑いすぎ!集中!」

「いつものことだしねぇ」

「二人共助かった!」

「ナイスコントロールです!」


後ろ手に哉都達はハイタッチをかわす。事前に打ち合わせたかのようなコンビネーションに戦闘中だが茶々も爆笑しつつも拍手を送り、刻も小さく微笑む。相手の言いたいことが手に取るように分かることが哉都には嬉しかった。それが絆とかそれ以上の繋がりだと思うと、何処までも行けるとそんな錯覚に陥る。大丈夫、そう思えた。どうやら避難し遅れた人はいないようで鈴花が哉都達の元にやって来る。彼女の肩の上に紗夜がバランス良く飛び乗り、その毛並みを鈴花の頬に擦りつける。ふわふわの感触に鈴花がくすぐったそうに身を捩る。それとほぼ同時に刻と茶々が一旦後退して来ると武器を構え直す。大怪我を負った雪女は額と顔を怒りで真っ赤に染め上げながらユラリと立ち上がる。首元に刺さっていた剣は先程の衝撃でどうやら抜けたらしく胸元まで独特の色の華を咲かせていた……なんだが色が独特のせいか毒々しい。だが、それで倒れるような雪女ヨウカイではない。彼女を囲むように新たなモノノケがゾンビのように床から這い出てくる。どうやって出現しているのかは知りたくもないが不思議だ。それを見て思わず国久と鈴花が恐怖のあまり背筋を伸ばしていた。……ゾンビ映画は遠慮した方が良さそうだと場違いにも哉都は思ったとかなんとか。


「では、此処からはあたし達の出番ですね。お嬢様方、お下がりください?」

「さっさと殺っちゃおうよ?!アッハハ!」

「応援が来るまでの辛抱だ」


三人が言い、真剣な眼差しで敵を見やる。真剣な三人の表情に哉都達は頷いた。ヨウカイは自分達の手には恐ろしいほどに余る。今の自分達は援護だ。


「結構いい線行ってたよー主様!」

「そう?良かったよ茶々」

「主君、お疲れ様。後は任せな」

「嗚呼、頼んだ刻」


哉都達を顔だけで振り返り、刻と茶々は嬉しそうに言う。少しでも共闘出来たのが嬉しいと言うのと少し複雑な感情が混ざっていた。まぁ分かる気もするが。肩に乗った紗夜を撫で、鈴花が言う。


「紗夜ちゃん、防御魔法と二人の援護をお願いね」

「お任せあれお嬢様!」


ピョンピョン、と鈴花の肩へ頭へと軽やかに跳躍し、紗夜は天井高く飛び上がる。それと同時にモノノケが大きく跳躍し始め、雪女が氷の息を吐きながら片手に氷で覆い、刃物を作り出す。


「防御魔法、共に攻撃魔法展開!」


哉都達を鴇色の膜が包み込むと共に二色の刃が雨のようにモノノケに襲いかかる。が雪女が上空に向かって白い息を吐き、刃物を凍らせてしまい、雪の結晶となって消えてしまった。まさかの出来事に驚く紗夜は膜の上にちょこんと着地する。と共に刻と茶々がモノノケの群れに向かって駆け出す。覚醒状態ほどの丈夫さはないが、ひとまず安全安心だろう。刻達に向かって振り下ろし、振り回される攻撃を一つ一つ丁寧にかわしていくと二人はモノノケに向かって武器を振り回す。薙刀と大太刀でモノノケを一気に凪ぎ払うと刻は薙刀を床に突き刺し、薙刀を軸に大きく跳ね上がり、彼女に向かって飛んできたモノノケを間一髪で避ける。スライディングして来たモノノケの頭を茶々が大太刀で突き刺し、上に突き上げる。途端に敵の脳漿が飛び散るが気にしない方向で行く。上半身を捻り、こちらに向かってくるモノノケの顔面に蹴りを放つ。着地した敵の左右を挟むようにモノノケが頭上から武器を振り下ろしてくる。しかし、右のモノノケの脇を素早くすり抜け、茶々がモノノケ二体からの攻撃を代わりに防ぎ、大きく弾き飛ばすと回し蹴りを放つ。体勢を低くした茶々に向かって狙いを定めた敵の首筋目掛けて刻が薙刀を振れば、勢い雁首が飛んで行く。クルッと振り返れば、別のモノノケが二人に突進して来ていた。刻は傍らに倒れてしまい積まれたようになったテーブルと椅子の上を軽やかに駆け上がるとモノノケに向かって跳躍した。宙返りをしながらモノノケの頭上を通過し、薙刀を牛のようなモノノケの背に滑らせる。背中に入った筋にモノノケが痛みの悲鳴を上げるが知ったことかと紗夜の攻撃魔法が突き刺さる。がそれを阻むように遠くから息を凍らせた氷の礫が二色の刃を弾き飛ばし、紗夜に攻撃する。大太刀を振り、トドメを刺されなかったモノノケに茶々が攻撃する。が、最後の仲間を守ると言わんばかりに雪女の支援が始まる。


「嗚呼もうっ!なんで今になって後方支援してくるの!?邪魔!」


氷の盾によって大太刀を防がれてしまい、茶々が苛立ちげに叫べば、雪女はクスリと笑った。それが茶々の神経を逆撫でしたようでブチッとなにかが切れる音が聞こえた。


「紗夜!!」

「あの、茶々。今あたし猫です」


茶々がやりたいことに気づいたのか紗夜が困惑と苦笑を滲ませて膜の上から言えば、盛大な舌打ちが漏れる。結構低い舌打ちだったのでビクッと哉都達は跳び跳ねた。茶々の元にやって来た刻は肩を叩いて落ち着かせようとする。少し落ち着いたような気もしなくはないが、雪女はクスクスとこちらを嘲笑い、左右にモノノケを侍らせている。モノノケ二体の視線は刻達を見てすらおらず、今にも駆け出して来そうだが雪女はさすがヨウカイとでも云うようにしっかりと刻達を憎らしげに見つめている。先程の仕返しか?


「雪女……ヨウカイの援護が厄介だな」

「応援が来るまででしょ?それまで待つのは?」

「それじゃあまたモノノケを増やされてしまう可能性がある。ならば、ヨウカイを直に叩くのが先決だ」

「でもさー!」


怒ったように腕を振り上げる茶々に刻は神妙な顔つきで頷く。雪女を倒したくてもモノノケが邪魔だし、そのモノノケを倒そうにも援護を始めた雪女が邪魔。堂々巡りである。応援が来るまで待っても良いが、来た応援全員が戦闘能力が高いわけもない。八咫烏警備隊が来るまで待っても良いだろうが、それがいつになるのか分からない以上、それは耐久戦であり最後の手段だ。最悪、自分達が倒される可能性も出てくる。考えろ、どうすれば時間を稼げ、なおかつ勝つことが出来る?


「最悪、私達がまた参戦すれば……」

「でも、カナと鈴花、武器ないでしょ?」

「……椅子!」

「投げるのかい!?」


膜の中で哉都達も考えるが良い案は浮かんで来ない。とりあえず、雪女を叩くしかないのか?そうしたくても後方支援を施されたモノノケの攻撃は防御も伴っているため容易ではない。こうなっている以上、ヨウカイはモノノケを盾にする。嗚呼、考えても分からないならば、元凶を叩くのみ!そう判断し、哉都達の方を一瞥してから刻達は刃を腕に携えた雪女に跳躍しようと足に力を籠めた。


『♪~』


その時、何処から都もなく歌声が響いた。歌声は秘色色の螺旋を描きながら突然の出来事に茫然と立ち竦む雪女をゆっくりと包み込む。と突然、モノノケが暴れ出した。意思を覆すように、ヨウカイに歯向かうように。暴れるモノノケに驚愕する雪女を横目に哉都は秘色色の螺旋を描いていた粒子を目で追う。秘色色の粒子は自分達の、正確に言えば哉都の背後から響いていた。しかし、振り返った先には()()()()()()。いや、いるではないか、そこに気配だけとして。


「もしかして、時雨?」


驚く哉都達に秘色色の粒子はクルクルとその場で回り、人の形を一度は形作ったもののすぐに消えてしまった。だが、歌声も粒子もまだそこにあって。


『……支援ならオレが壊す。だから、さっさと殺れ。応援が来るまで』


肩に軽くのし掛かる重み。哉都の肩に手を置いているのか、それとも腰かけているのか分からない。けれども耳元付近で言われた言葉も紡ぐ歌声も気配も時雨のもので。我知らず、哉都の口元に笑みが刻まれる。嗚呼、そうだな。


「だとよ、刻」


呟くように言った哉都に刻は、微笑んだ。

結構進みましたね。

なんかウチが作る物語に一人は歌声披露したりするキャラクターいるような……?(遠くの彼方を見る)

というわけ(?)で次回は月曜日です!

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