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神様遊戯~光闇の儀~  作者: Riviy
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第五十八ノ契約 ヨウカイパニック!



静寂と云う名の異空間に甲高い亀裂を入れた音の正体を確かめようと、そこにいた全員はその方向を振り返った。振り返ってしまえば、恐怖が新たにこの空間を支配する。言わなくとも分かっていたが、誰もが振り返らずにはいられなかった。玄関ホールのカウンター付近の大きな窓。そこが上下に切り裂くようにして割れていた。そして割れたガラスの破片に上に仁王立ちしているのは一人の女性だった。いや、女性と言っても生気を感じさせないほどに全身が真っ白の人物で、その背後から漂わせているのは悪寒と云う名の殺気だった。嗚呼、つまり。言わずとも分かるのは日常的にその恐怖に怯えているからに他ならず。その女性、恐らく雪女であろうヨウカイはまるで「こんにちは」とでも云うようにシンと静まり返った図書館で固まる面々に頭を優雅に下げる。と足元に向かって白い息を吐き出した。哉都達がいる二階にまで感じる冷気に恐怖を抱かない方が可笑しかった。


「っ!紗夜ちゃん!!」

「分かっています!茶々、投げてください!」

「オッケー!行くよ!」


鈴花が叫んだのが早かったか、それとも紗夜が空中に投げ出されたのが早かったか。どちらにしろ、凄まじい勢いで投げられた紗夜は二階の天井付近まで飛んで行くと天井を後ろ足で蹴り、急降下しながら叫ぶ。


「防御魔法、展開!」


ピキン、と音がし、鴇色の膜が避難していた人々を包み、間一髪でヨウカイが放った白い息からその身を守る。その膜は哉都達も包み込み、同じようにして彼らを白い息から守る。白い息が膜に当たった途端、パキパキッと音がして膜自体が凍りついていく。徐々に鴇色の膜が白く染まっていく。その上に紗夜がちょこんと着地すると、パキンッと膜は粉々に割れてしまった。割れてしまった白い膜は微かに鴇色を残す幻想的な光景を作り出しながら消えていく。トン、と着地した紗夜は職員や人々を視線だけで振り返ると言う。


「早く移動してください」

「っで、でも」

「此処は私達が引き受けます!だから早く、防衛シェルターに避難して、戦える神王・神姫を連れてきてください!」


鈴花が手すりを掴んで身を乗り出して叫べば、職員は一瞬驚いたように目を見開き、考え込むと首にかけていたマイク付きのヘッドフォンを乱暴に掴んだ。そして腰を抜かし、動けなくなっていた人や他の人々を避難させるべく、動き出す。その動きは何処か手慣れていて安心するべきところではないのに安心してしまった。再び防御魔法を張る紗夜を見下ろしながら哉都は刻に視線を滑らせる。彼が何を言わんとしているのか分かっていると言わんばかりにその手には薙刀が握られていた。


「なんか、いつもってわけじゃないけどこうなるよね」


ポツリと言った国久に鈴花が申し訳なさそうに振り返りかけるが、国久はそんな彼女の不安を打ち消すかのごとく、ニヤリと男らしく笑った。


「人が危ないところを黙って見てられないでしょ?茶々!」

「アハハッ!ボクの出番だね?主様!」


大太刀をいつの間にか構えた茶々に国久が問えば、興奮したような恍惚とした表情を浮かべて茶々が叫んだ。鈴花の判断は賢明だったと思う。あそこで攻撃を見過ごしたらもっとパニックに陥り、酷い有り様になっていた可能性がある。対抗策として契約を結ばれ、この地に降り立った神王・神姫。契約者自身が望むのならば、さあ、抗いましょう!


「刻!」

「茶々」

「紗夜ちゃん!」

「「「応援が来るまで相手してやれ!/してあげな/してあげなさい!」」」


力強い三人の指示に『神の名を冠する者』三人は武器を握りしめ、真剣な表情で窓辺に立つヨウカイを睨み付ける。ヨウカイは俯かせていた顔を上げ、戦う姿勢を見せる刻達を見上げ、嬉しそうに、嘲笑うようににんまりと笑った。途端、ヨウカイの背後に多くのモノノケが出現する。まるで嗤ったのが合図だと言わんばかりに。この時を待っていたと言わんばかりに。哉都達の指示に刻達は答える。


「「「お任せあれ!!/です」」」


瞬間、モノノケが一斉に紗夜に向かって飛び出す。一斉に迫る敵に二色の瞳を細めながら見やると紗夜は攻撃魔法を唱え、モノノケ達を一旦後退させる。


「主君達は隠れ「いや、援護するぞ」えっ」


手すりに足をかけた状態でいつものように刻が言えば、哉都からそんな言葉が返って来る。思わず振り返れば、そこにはいつの間にか消火器を持った哉都と防犯用に何処かに置いてあったのであろうさすまたを持った国久がいた。鈴花の手にうっすらと剣が握られているのを見る限り、少しだけ覚醒状態にあるらしい。いつの間にそんな武器を手にしていたんだと云う刻と茶々の質問に答えるように哉都が言う。


「出来るだけの事やったってバチは当たんないだろ?」

「そうさ。もう、()()()()()はしたくない。なら、出来る限りのことやったって良いよね?」

「でも、カナも国久も無理はダメよ」


哉都と国久の言葉に鈴花がクスクス笑いながら言う。二人の、三人の力強くも勇敢で、背中を預けていて預けられていると言わんばかりの高揚感に、嬉しく感じてしまう。八咫烏警備隊みたいに戦えなくても、今は良い。それでも自分達は彼らに背中を預けている。なら、ならば、大切なものを守りたいと願ったならば、自分でその手を掴みに行っても良いでしょう?出来る限りの力を振り絞っても良いでしょう?もう、傷つくのを見ているだけなのは嫌なんだ。心に感じたもう一つの違和感を哉都は無視した。

刻は茶々と顔を見合わせるとクスリと嬉しそうに笑うと言う。


「ホントっ、主様たちって優しいって言うか、ボクたちが欲しい事言ってくれるよね!」

「ありがたいことだ。けれども、無理は禁物だ。主らは私達と違って怪我一つが死に繋がる可能性もあるのだからね」

「わぁかってるよ刻。だから俺達は紗夜の結界の中でやらせてもらうぜ?」

「ッハハ、それはなんとも心強い!」


ニッと笑って胸を張る哉都に刻は声をあげて笑い返す。と契約印がうっすらと刻まれた哉都の左手を取ると、そこにいつぞやの契約時のように軽く口付けを落とす。カッとこんな状況なのに頬に恥ずかしさと云うか照れさと云うか形容し難い、赤い色が滲む。その隣では国久が茶々の頭をお守り代わりとでも云うように、本当に母親か父親のように優しく撫でていた。


「では主君、背中は頼んだよ」


翡翠色の瞳が哉都を射ぬく。またあの()()()を感じたのは気のせいだろう。刻からの真剣な眼差しと表情に哉都は力強く頷いた。


「嗚呼!」


その答えを聞いた瞬間、手すりに足をかけていた刻は背中から飛び降り、刻を追って茶々も手すりを飛び越えて勢いよく飛び出した。

パニックっていう単語を使いたかったんですよ(二回連続の題名を眺めながら)

チマチマ次回作の準備に入りつつ、「まだ終わらん(歓喜)」と楽しんでいます。楽しぃー!

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