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神様遊戯~光闇の儀~  作者: Riviy
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第四十五ノ契約 黄昏時の歌


ほぼ同時に跳躍した彼らは相手に向かって武器を振り回す。だがそれらをかわし、人物は大幣を刻に振り回した。薙刀でガッと防ぐがやはり大幣らしからぬ威力に目を一瞬閉じてしまう。そこに人物の回し蹴りが炸裂するが、刻は片腕を顔と足の間に滑り込ませ間一髪で防ぐと勢いよく腕を振った。後方に一旦後退した人物に茶々が背後から大太刀を突き刺す。しかし、気配で悟られたのか大幣を後ろ手に回し、防御されてしまう。そこへ刻が前方から薙刀を振り回す。挟まれた状態になった人物は大幣を振り切り、茶々と少し距離を取ると彼の腹を蹴り、その弾みで斜め上に跳躍する。腹を蹴られ、足場にされた茶々は後方に吹っ飛ばされたがクルンと宙返りをして体勢を立て直す。刻に向かって跳躍した人物は攻撃を首を傾げる要領でかわし、薙刀の柄の部分を掴むとそこを軸に腕の力だけで回転すると刻の後方に回り込んだ。すぐさま人物を振り返った刻だったが突然人物の前から姿を消した。その代わりに現れたのは茶々で、刻の背を踏み台に大きく跳躍し、頭上から大太刀を振り下ろす。それと同時に刻は薙刀を人物の足元目掛けて振り、足を刈る。が、人物は大幣で大太刀を防ぐ傍ら薙刀を足で踏んづけると弾き、茶々の片腕を掴んだ。そうして下に叩きつけるかのように捻り上げる。突然の痛みに茶々の表情が歪むが大太刀を逆手持ちにすると背中にいる人物に向かって振った。後退してさける人物に低い姿勢のまま、刻が飛びかかる。人物の後ろはコンクリートの壁だ。彼を押さえつけるようにして薙刀を首筋に突き刺す。それを片手で、まるであやすように簡単に受け止めながら受け流されてしまい、ガンッと薙刀の切っ先がコンクリートに触れる。それでも刻は少しだけ空いた距離を利用し、手首の上で薙刀を弄ぶようにして薙刀を下に振り下ろす。ガガガ、と嫌な金切り音を奏でながら薙刀が人物の学ランに覆われた肩目掛けて落下する。今度は人物が薙刀と肩の間に大幣を差し込む番だった。先程とは全く逆になった体勢で、刻は薙刀に力を入れながら逃がさないように片手首を掴みにかかる。がらんどうの瞳と翡翠色の瞳が合致する。その中にあるのはなにか否や。きっと、同じで違うのだろう。まぁ、こんな簡単に『神祓い』が捕まるはずなどない。


人物は片足を壁につけ、大きく跳躍した。その勢いを利用し、刻の薙刀を弾くと人物は壁を駆け上がり、跳躍した。空中に躍り出た人物に金網フェンスを足場に茶々が跳躍する。空中で二人は大きく武器を交差させる。ガキンッと甲高い音がして二人の武器が交差する。人物の武器は大幣なのに、どう見ても茶々が押されているように見えてしまい、圧倒的戦力の差に歯軋りしてしまう。でも。二ィと目を見開き、愉しげに笑う茶々に一瞬、人物が驚いたように身を引きかけた。すると突然、茶々は大太刀を自分の方へ軽く引いた。防いでいたものが少しだけなくなったがために人物の大幣と人物は少しだけ茶々の方へ身を乗り出す体勢になる。途端、茶々は人物の頭を掴み上げた。かと思うとやはりかわされてしまったらしく、逆に茶々の懐へ侵入を許していた。


「嗚呼もうっ!」


やっぱり一筋縄じゃいかないっ!悔しげに大太刀を横に引く茶々に人物の容赦ない大幣攻撃が落ちてくる。それと同時に響き渡るのは歌声。ごちゃごちゃに脳内を掻き乱すような、以前とは違う歌声に茶々の動きが思ってもいないのに静止する。まるで金縛りにあったかのように動かない体に、一瞬にして冷や汗と恐怖が茶々を襲う。そんな彼を人物は待っていたと言わんばかりに、刃物のように鋭く変貌した大幣で殴りかかる。間一髪で無理矢理大太刀を動かし、防いだが、腕が痺れているせいでうまく動かせない。大太刀が大きく弾かれた拍子に大幣が礫となって茶々に襲いかかる。上手く身動きの取れない体では全てを防ぐのは困難だ。頬や肩、脇腹に突き刺さる痛みに軽く呻くが人物の背後に見えた人影に思わず口角が上がる。と、それに気づいたのか人物は再び歌声を響かせた。


「!」

「刻、耳塞いで!」


茶々が刻に向かって叫んだその瞬間、茶々が刻の視界から消えた。その理由は人物が茶々に踵落としを食らわせ、空中から叩き落としたからだ。それも目にも止まらぬスピードで。クルリと人物が空中で刻を振り返った頃には茶々は受け身が取れずに空き地に落下しバウンドしていた。がそれ以上の怪我を防ごうと、足で速度を軽減し、片膝をついた状態で人物を見上げていた。不意にやってくるスピードと浮遊時間が凄まじい。ビリッとした痺れが刻を襲った。かと思えば、目の前から人物が再び消えていた。刻の浮遊時間から行ってももう一度跳躍し直さなければ、落下してしまう。何処にいるとも分からない人物から目を離すのは危険極まりないが腹に背は変えられない。フッと一旦降りかけた次の瞬間、背後に感じた殺気と歌声に刻は慌てた様子で薙刀を振るが、人物の動きが速すぎてかわされてしまう。そうして人物は薙刀をかわし、素早い動きで刻の前方に回り込んでいた。


「♪~」


まるで刻に聞かせるかのように光のない瞳が刻を見つめてくる。紅く染まった大幣がマフラーと共に翼のようにはためく。ゾワリ、訴えかけるような、告げるような先程とは違う歌声に背筋を悪寒が駆け上がる。そして目の前が歪む。その歪みと共に脳裏に浮かび上がる()()()()()()。捨てたはずの、過去の思い出……いや、()()()()()。頭をかきむしりたくなる痛みと歌声の干渉に刻は薙刀を無我夢中で振った。


「私に、干渉するなっっ!!!」

「♪~……オマエも、同じだろう?」


隙だらけの薙刀をかわし、刻の胸ぐらを掴み上げると人物は彼女の耳元で囁いた。嗚呼、わかってるさ。でも主に、なにがわかる!ブンッと拳を人物に突き上げれば、人物は後方に仰け反ってかわす。これほどまでに憤慨してしまうのは自分と人物の境遇が似ていると、感情が同じだと知っているからかもしれない。……いや、本当は気づいているんだ。後方に仰け反った人物は瞬時に体勢を立て直すと勢いをつけて刻の首を掴んだ。その勢いのまま、壁に刻を投げつけ、打ち付ける。咄嗟に受け身が取れなかった刻は壁に打ち付けられてしまい、全身に痛みが走る。口内を切ったのか、口元から紅い血が垂れる。温いような冷たいような血が怒りに支配された刻の脳内を冷やしてくれる。


「(大丈夫、大丈夫だ。だから落ち着け。目の前のことに集中しろ)」


冷静さを取り戻した刻は痛む全身を懸命に動かし、まるでドリルの如く威力の蹴りを放つ人物を薙刀で防ぐ。だが後方は壁で逃げ場などない。いや、あるではないか。ニヤリと痺れが残る腕を使い、薙刀で人物の足を絡め取ると片足を勢いよく弾くようにして動かして跳躍する。そうして大幣を振りかざすよりも先に回し蹴りを放つ。腹辺りに当たった回し蹴りは勢いをつけて人物を吹っ飛ばし、もう一度空中へ跳躍した茶々へと人物を送り届ける。自分のもとへとやって来た人物の腕を掴み上げ、茶々は背負い投げをしながら彼を叩き落とす。しかし、空中で体勢を立て直した人物は空き地にぶつかると云うところで着地し、歌声を響かせた。大幣の柄の部分が槍や薙刀のように長くなり、人物の右斜め上から壁を駆け下りて来た刻の上段からの攻撃を防ぐ。上段から勢いをつけた攻撃はどれほどの強者であろうとも膝をつかせる。足を長くなった大幣に差し込み、上へ投げるように蹴り上げる。そのまま薙刀で切りつけようとするがそれよりも数秒先に人物は素早い動きで刻の攻撃をかわし、彼女の傍らに移動する。そこへ着地した茶々が大太刀を振り回した。大幣を縦にし、大太刀を防ぐ人物だが、体勢からしても戦闘中の力からしても茶々の方が上なため大きく後方へ弾かれる。そのまま懐に潜り込み、大太刀を殴るように振り上げる。人物はその一撃を踊るようにさけると両脇からやってきた刻と茶々の攻撃を大幣で防いだ。


「♪~」

「っ!」

「うわっ?!また!?」


防いだ途端、人物の口から歌声が響く。その歌声は以前戦った時に聞いたのと同じ、幻のものだった。前回と違ったのは夜の闇によく輝く、美しい黄昏時の歌だったことだろうか。こんな状況じゃなければ、聞き惚れていたことだろうが今はそんなことしていては行けない。歌声が響いたと同時に人物の姿は消え失せ、刻と茶々の首や肩口を食い千切ろうと食い込もうと縄のような蛇のようなものが二人の首と肩口にまとわりつく。二人は一斉に首のものを引きちぎると刻は茶々に、茶々は刻に手を伸ばし、利き腕の肩口に食い込むものを互いに入れ違いになって引きちぎった。そして背中合わせになり、消えた人物を鋭い視線で探す。と、また歌声が響いた。その声がした方向、頭上を見上げればまるでそこに足場があるかのように人物は空中で浮遊していた。大幣は依然として槍や薙刀ーというよりも杖の方がしっくりくるーのようではあったが、少しだけ先程とは異なっていた。マフラーと大幣が大きく風になびいていたが、数が異様に多いのだ。それもそのはずで、背中付近から無数の影のような腕が伸びていたのだ。その光景は、いや姿は夜の帳をその名の通り、強制的に落とす死神のようでもあって、烏天狗のようでもあった。嗚呼、本気を出してきたのか?そう思ってしまうほどにその姿は神々しくて、その瞳は哀しみを帯びていた。


戦闘ー

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