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神様遊戯~光闇の儀~  作者: Riviy
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第四十一ノ契約 第七の考察


女性が話している。その内容を知ることは出来ない。


「やっぱりそう思うかい?」

「そう……そうよね」


彼女達の相手は違う。それでも感じていること、思っていることは大概同じだった。……多分。


「理由は、いつもの通りさ。失いたくないからこそ。……さあ、わからないよ」

「理由?好きで隠しているわけじゃないわ。ただ……言わなくても良いと思っただけよ」


彼女達の話し相手がその言葉に首を傾げ、頷いた。知っているからこそ、聞いているとでも言うように。嗚呼、だから、()()()()()()()()んだ。


「この世界を知る必要がある。いつもと何処か違うこの世界の敵をきちんと知る必要があるのさ。だからこそ、情報が必要だ。多くの、誰も知り得ないような……」

「今、この事実を言えば混乱が微かながらに起こるかもしれないもの。確証が必要よ……分かってる、疑ってるわけじゃないの。気分を害したらごめん」


俯かれた顔に相手は肩を叩く。彼女達の心情は痛いほど分かっていた。大切な、大事な者達を守るためにその力を使っている。例え、それが必要とされなくても……いや、本当は必要とされない方が正しいのだ。だが、今は違う。全てが必要となる。必要か必要じゃないかなんて、終わらなければわからない。理解出来ない。いつ終わるかもわからない大きな戦いの中で、波に流れず、渦に巻き込まれず、殺されないようにするにはそれが必要だった。だから


「私に真実を言わせておくれ」

「私は真実を言うわ」


いつか、その扉が開かれる時まで仕舞っておこう。

いつか、開ける日が来る、その日まで。


**


シンと静まり返ったリビングで哉都は鈴花と共にソファーに座っていた。静まり返っているせいか、考え事をしているせいか、誰も話さないこの空気は居心地が悪い。いや、居心地を悪くしているのは哉都()なのかもしれない。片足は微妙にリズムを刻みながら貧乏揺すりをしており、それが一つの要因になっているには云うまでもなかった。鈴花はそんな哉都に声をかけようとするが、機嫌というか眉間のシワに遠慮しているらしく、声をかけられないでいた。内心、鈴花に悪いと思いながら哉都はリビングと廊下を結ぶ扉を見据えた。と、ドアノブが動き、扉が開いた。リビングに入ってきたのはプラスチック製の桶を持った国久だ。桶の中にはタオルが入っているのか、白いものが見え隠れしている。バッと不安そうな二人の視線と顔と目が合った国久は二人を安心させるように微笑んだ。


「大丈夫だよ。ゆっくり寝てる。疲れが出たんだろうね」

「怪我は?」

「さすが『神の名を冠する者』って言ったところだよね。夜には治ると思うよ」


そっか、と云う声は哉都の口から出ることはなかった。フッと空気を吐き出したような感じになってしまった。胸を撫で下ろし、鈴花と共にソファーの背もたれに身を委ねる。ポフンと云う気の抜けた音が今はなんとも心地好かった。


烏天狗と云う恐らくモノノケであろう人物とモノノケに花火大会を潰されて早一日。花火大会は中止を余儀なくされ、今現在も混乱は収まっていない状況だ。八咫烏警備隊の発表によると休日だったために被害と損害が大きく、会場と戦闘場所になった神社は立ち入り禁止となった。また烏天狗は八咫烏警備隊との戦闘後、全てのモノノケが討伐されたためか逃走し、現在の行方は分かっていない。だがその正体は八咫烏警備隊が以前から研究していた『モノノケの進化形態』だと判明した。本来、意思なく人間を襲うモノノケだが、そのモノノケが意思を持ち人型やモノノケとは異なる個体に変化する場合があるらしい。その研究の仮説が実証されたのが烏天狗である。烏天狗の姿形が書物にある、それこそ妖怪に似ている事から「意思を持ったモノノケ」はカタカナ表記のヨウカイと命名された。なお、烏天狗のように他にもヨウカイがいるとは限らず、また強いため八咫烏警備隊も警戒を強めている。


一方そんなヨウカイと戦闘を繰り広げた刻と茶々だが、薬の効果で逃走までは出来た。出来たが疲れが出たのだろうか、それとも薬の副作用か、熱を出してしまった。鈴花によると神王・神姫で薬の体質が合わない者が多少いるらしく、その場合は熱を出すこともあるらしい。まぁ多分、両方だろう。怪我の治療も同時進行なため、痛みが強烈で茶々に至っては奇声を発してしまう始末だ。そこで哉都は刻を連れて国久の家に泊まることにした。刻は「精霊型でいれば治る」と言っていたが、熱のせいか人型になったり精霊型になったりとうまくコントロール出来ていないようだった。哉都の家では昨日から弟は部活で泊まりだし、叔母も仕事の都合上、刻の看病は難しい可能性がある。だからこその国久の家だった。ちゃんと連絡も入れた。昨日は一応で鈴花を一旦帰らせたが、今は全員集合していた。茶々は国久の両親の部屋で熱と戦っている。刻も人型になったり精霊型になったり、どうにかコントロールしようとしており、同じ仲間が近くにいた方が良いだろうと茶々と同じ部屋に引きこもっている。ちなみに哉都と刻の行動範囲内なので回復は出来る。また茶々も人間の治療法が効く傍ら治りが早い。昨夜はなにかあった時のためにと久しぶりに夜更かしをしたのでちょっとだけ眠い哉都である。まぁでも


「(……良かった)」


二人が治りつつある事に安心すると共に喜びを感じていた。誰も欠けなかった、安心しかなくて。自分に出来ることが少なくて歯痒い気持ちにはなるが、少しずつ出来ることをやったつもりだ。お粥作り手伝ったり。でも……安心した途端、哉都の心中に浮かんできたのは『神祓い』や烏天狗の微かな停止だった。


「……なんで」

「?カナ?」

「なんで、『神祓い』も烏天狗あいつも逃げる時間を与えるみたいに動きが止まったんだろう」


哉都の些細な疑問に台所で作業していた国久も隣にいる鈴花も哉都を見た。不思議そうな、怪訝そうな、真剣な表情に二人は身動きを止めた。確かに哉都の言う通りかもしれない。


「ヨウカイは変化後、脳と体が変化について行かなくて動きを止める事もあるらしいわよ?まぁ、まだ烏天狗しか確認されていないし、微妙だけどね」


哉都の方へ身を乗り出し鈴花が言う。うん、と頷き、哉都は言う。


「ヨウカイはそれで分かるとしても『神祓い』は?以前の怪我で動きが止まるって変じゃね?攻撃しても全部かわしてるようなもんなのに、動きが止まるって可笑しいと思うんだよな」

「……嗚呼、確かに。攻撃をなにも受けてないっぽいのにそれは可笑しいか。でも知らないところで受けたとかは?」

「背中を打ったとか、打撲系の影響は?神社を壊した後でしょ、動きが止まったの」


哉都の疑問に二人がその時を思い出しながら言う。少しの怖さと、不思議な違和感が何日もの月日を越えて彼らを覆い、隠して行く。市販のお菓子を皿に入れ、それを哉都と鈴花の前のテーブルに置くと二人の向かいの床に座った。うん、と鈴花の言葉に頷き、哉都は続ける。


「それもあるかもしんねぇけど、けどさ、そんなんで止まる?結界が壊れる……壊される寸前までさぁ。普通、強制破棄が目的なら獲物って言っちゃあ悪いけど逃がそうだなんて思うか?」

「確かに。壊されてから動くのは違うか……」


国久がうーんと唸りながら顎に手を当てる。『神祓い』の情報はインターネットで探した。多くはそこから得たが中には偽情報も混じっている。最初は逃げた時と同様、以前の怪我が原因だと思っていたが、今は……そう今は、ヨウカイを目の当たりにした今はその考えが変わっていた。お菓子を取ろうと身を乗り出す鈴花の隣で軽く手を挙げ、哉都は自分の考えを吐き出した。


「これは俺の推察……っていうか考えなんだけど、『神祓い』ってヨウカイみたいなもんなんじゃないかな」

「?それってどういう事?カナ」

「ヨウカイはさ、まだそんなに種類が発見されてないから微妙だけど、動きは止まったじゃん?鈴花が言ってたみたいに『神祓い』も"脳と体が変化について行かなくて動きを止めた"んじゃないかなって」


哉都の考えに国久と鈴花は顔を見合わせた。確かにその可能性もなきにしもあらずだ。『神祓い』が突如として自然発生したわけではないのならば、脳と体の変化についていけず、または拒絶したために動きが止まったとも考えられる。だからこそ、結界という唯一と言っても良い自らの空間に亀裂を入れられた事で我に返った……そう考えても可笑しくはない。その考えを聞き、鈴花は慌ててスマートフォンを手に取るとなにかを検索し始めた。その傍らで国久は言う。


「あり得るかもね。でもあんなに強いのに噛み合ってないってのは不思議じゃないかな?」

「嗚呼、『神祓い』はモノノケやヨウカイよりもどっちかっていうと人間よりだよな。でも身体能力は神王・神姫に寄ってる。八咫烏警備隊にいる雨神 壱月みたいに融合したってとかなら」

「!考えられる!」


哉都の発言に同意を示して国久がパチンッと指を鳴らす。雨神 壱月と云う前列がある以上、この世界では何が起こっても可笑しくはない。召喚もモノノケもいるくらいだし。すると鈴花が「ねぇ、ちょっとこれ見て」と二人にスマートフォンを見せた。画面に映っているのは何処かの情報サイトのようで強調するように太文字になった題名には「八咫烏警備隊、『神祓い』の真相に気づく!?」と書かれていた。内容は先程哉都が考えた通りのほぼまんま。『神祓い』とヨウカイの共通点に八咫烏警備隊も気づいたらしい。この共通点は多分、両者に遭わなければ決して発見されなかっただろう。幸運か否や哉都達は両者に遭遇していたためにわかった。


「ま、でも正体は分かんないみたいよ。ヨウカイっていう新しい脅威が出ても『神祓い』は強制破棄の被害者を増やしているみたいだし」

「結局、倒されない限り真実は闇の中って事だね」

「……まぁでも、自惚れても良いなら、俺達なら大丈夫だろ?」


ニィと自信満々に笑う哉都に国久と鈴花も笑い返す。そう例え、モノノケだろうとヨウカイだろうと、『神祓い』だろうと大丈夫。この縁を結んだその時から。運命を、(願い)を望んだその瞬間から。なんて、運命論だろうか?ガサッと市販のお菓子を開ける鈴花。その音に刺激されたかのように国久がテレビをつけ、哉都もお菓子を手に取る。


「にしてもカナがそこまで考えるなんて。恐れ入ったわー」

「本当にねぇ。冴えてるねカナ」

「……なんだよ二人共。貶してんのか?」

「「褒めてまーす」」


ムゥと睨み合って、クスクスと笑い出す。三人の楽しげな笑い声がリビングに響く。楽しげな声に混じった()()()()もきっと、()()は気づいていて待っている。だって、仲間(親友)でしょう?尊重するように、そっと。



ずっと、待っている。開ける日が来るその日まで。



暑さがヤバい!皆さんも熱中症に気をつけてくださいね!水分補給だ!

そして説明分かんなかったらスルーです。

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