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神様遊戯~光闇の儀~  作者: Riviy
32/127

第三十一ノ契約 鏡から響く歌声



「「歌?」」

「そう、歌よ。多分だけど歌だけが『神祓い』の武器じゃないでしょうね。あくまで援護用と見るべきよ」

「つまり……本気じゃないってこと?」

「多分ね」


『神祓い』と戦う刻と茶々が消えた反対側の木々を睨み付けるように凝視しながら鈴花が言った。その方向へ哉都と国久も視線を向けるが、何処か不気味で悲しそうな歌声が聞こえるだけで二人の姿は木々に隠されて見えない。それがなんだが異様に恐怖を煽られてしまい、不安になってちょっと怖かった。人物の攻撃から身を隠すように神社近くの木々の中に逃げ込んだは良いが、結界を破らなくてはどうにもならない。哉都と国久が何か策はないかと考え込んでいると鈴花が唐突に言ったのが冒頭である。確かに結界を張られ、袋の鼠状態になってからも変わらず人物は攻撃の合間に歌を紡いでいる。歌声が、歌がなんらかの効果があるのは間違いない。今にも隠れている場所から隙を見て出て行こうとする鈴花を国久が慌てて引き止める。


「ちょっ、ちょっと鈴花!危ないよ!?」

「ええ、分かってるわ。でも、思い出して?人物が最初に歌った場所は?」

「……階段」


冷静に云う鈴花の問いかけに哉都は呟くように言った。鈴花がそう!と頷いた。『神祓い』が哉都達の前に現れた時、最初にいた場所であり歌ったのは階段のところだった。つまり、鈴花は最初に人物がいたあの場所に何かあると見ているのだろう。だが、いくら鈴花が元陸上部で足が速いからと言ってもただいま戦闘真っ最中だ。あの二人が鈴花と同じ事に気づいていないはずもないが、相手は思考が読めない強者『神祓い』。絶対に階段付近に現れないとも限らない。危険すぎる。だが、『神祓い』を倒せない以上、これ以上の策はなかった。いや、倒せるかもしれないが八咫烏警備隊が手を焼く人物だ。可能性としては信じたいが低いだろう。茶々はやる気だったが、無謀な策には出ない。刻と茶々がやられてしまえば、終わりだ。


「刻と茶々が勝つまで粘っても良いけど……勝てる保証はない、か」

「ええ、勝てるかもしれないけれど、あの現状見ても言える?」


ドッガン!と大きな音がした方向を鈴花が指差す。土煙と共に刻が空中に投げ飛ばされる。そのあとを人物が執拗に追いかけ、そのさらにあとに茶々が大太刀を振りかぶりながら続く。遠目からでも刻と茶々の怪我が多いことが見てとれる。その一方で人物には怪我が見当たらない。戦力はこっちが上だろうが、負傷も圧倒的威力も一方的過ぎる。とその時、刻の目が哉都を捉えた。人物の攻撃を薙刀で防ぐため、すぐに哉都から視線を逸らしてしまったがそれでも刻の口は哉都になにかを伝えようと聞こえない言葉を紡ぐ。人物に気づかれてはいないが、気づかれてしまいそうで哉都は気が気でなかった。


「(……結界を、)壊せ?」

「?カナ、なに?」

「いや、刻が結界を壊せって……ってことは、は!?」


刻からの伝言に哉都は一瞬混乱してしまった。逃げる手段は、結界を壊すのみ。戦う前、怖いと二人が言っていた意味がなんとなく分かった気がした。哉都は少し恐怖を宿した瞳を国久と鈴花に向けた。哉都の言葉から全てを理解した二人は力強い表情で頷いた。嗚呼、さすが。そう言うしかなくて、哉都はちょっと嬉しかった。スッと片手を差し出し、国久は言う。


「無理だけはしないようにね」


差し出された国久の手の上に続けて鈴花が、哉都が手を重ねる。


「怪我もしないように、かしら?」

「違うだろ。絶対に、全員で帰る」


真剣な、強い意思を感じさせる哉都の言葉に二人は頷いた。怖いのは当たり前で、でも一人じゃないから。大丈夫。重ねた手のひらから伝わってくる温もりがその証拠だ。三人は視線を合わせ、そして一斉に駆け出した。階段のところへ三人のうち誰かが辿り着きさえすればこっちのものだ。哉都達が動き出した事に気がついたのか、人物の視線が三人を見下ろした。刻も茶々もそれに気付き、同時に人物に向かって武器を振る。槍のような薙刀のような長物になった大幣でまた塞がれてしまったが、今度は違う。茶々が大太刀を長くなった大幣に絡ませると大きく弾いた。人物の手元から大幣が弾かれ、大きく弧を描きながら落下する。カランカランッと石畳の上を滑って転がると大幣は階段近くで()()()に止まった。普通ならばそのまま滑るようにして階段下に落ちていくはずなのに、そこに壁があるのかの如く、コトンと音を立てて止まったのだ。ということはそこに()()あると云うことだ。哉都達は大幣の行方を見ると勢いよく、飛ぶように強く地面を蹴った。


武器をなくした人物に向かって茶々がしてやったりと嘲笑う。これでなにも出来まい!と。だが人物も笑っていた。かと思うと自分に向かって向けられていた大太刀の刃を迷わず掴み、驚く茶々を尻目に片手を刃に添えた。途端、人物の両手から黒い影のようなものが伸び、大太刀に絡み付いて行く。突然のことに茶々は悲鳴を上げるが、次の瞬間、人物は彼の懐に潜り込んでいた。刻にも使った幻だと言うことはすぐに分かった。だがほぼゼロ距離にまで接近されてしまっては茶々に手立てはなかった。人物は片手間に茶々の片手を捻りあげつつ、その腹に蹴りを放つ。茶々は抵抗出来ずに勢いよく落ちていく、が痛む腹を押さえながら人物に向かって大太刀を振った。恐ろしいほどの浮遊時間を持つ人物はまるで空を飛ぶ鳥のようで、茶々の攻撃を後方に軽く仰け反っただけでかわす。そんな左側から跳躍し直した刻が薙刀を振る。がそれも軽々とかわし、人物はクルリと回るついでと云うように刻の頭を掴み上げると彼女が抵抗するよりも先に石畳へと叩きつけた。ドゴン!土煙が上がり、石畳にもうひとつのクレーターが出来上がる。


「刻!」

「っ」


凹んだクレーターの中、体全体を打ち付けてしまい痛みで身動きが取れない刻が倒れ込んでいた。その表情は痛みと血で歪み、顔の右半分を覆う布も紅く染まっていた。翡翠色の瞳が閉じられているように見えた。嘘。哉都は思わず立ち止まり、刻に駆け寄ろうと踵を返す。が晴れてきた土煙の中から現れた『神祓い』の姿に血の毛が引き、咄嗟に足が止まった。刻の首元に手をかけた状態で人物が彼女の上に立っていたのだ。馬乗りになって首を絞めていないことだけは幸いかもしれないが、哉都には恐怖を煽るものでしかない。またその手に武器を持ってはないが、人物が指先に少しでも力を籠めてしまえば刻の息の根は確実に止められてしまう。つまりどちらにしろそれは強制破棄と同じ。その事実を目の当たりにし、ヒュッと息を呑んだ。いや、呑んでしまった。体の中から血の気が引いていく。自分でも顔が青白くなっていくのが分かる。刻が死ぬ?嫌だ、やめてくれ!この感情はあの時と同じだった。親友達を失うまいと抗いだ、あの時と。嗚呼、だから


「刻!!」


手を伸ばし、哉都は叫んでいた。哉都の鬼気迫る声に苦痛の表情を浮かべる刻が反応した。何故か人物も微かに反応していた。それは些細な隙だった。翡翠色の瞳が、()()()


「やれ」


ガンッ!!破裂音にも似た甲高い音が刻と人物の間に滑り込む。と土煙を真っ二つに裂くように銀色に輝く刃物が人物に向かって振られた。突然のことに反応出来なかったようで人物は意図も簡単に神社の方へ吹き飛ばされてしまう。ガシャン!と音を奏でながら神社が真ん中から崩壊するほど勢いよく吹っ飛ばされたようで、場違いながらも弁償とか勘弁と国久と鈴花は思ったとかなんとか。まぁ、それを茫然と見送った哉都はクレーターを振り返った。


「……ッハハ!刻もなかなかの策士だよねぇ!」

「そうかい?ま、これで隙は作れただろうしね」


そこにいたのは大太刀を肩に男らしくも担いだ茶々だった。格好は男らしいが表情が無邪気な笑みなだけに少し異様だ。茶々は刻に手を差し伸べ、彼女がその手を掴むと勢いよく引っ張り上げた。立ち上がった刻の体は傷だらけだったが、無事だった。


「……良かった」


二人の無事に、刻の無事に哉都は胸を撫で下ろした。刻も哉都に気づいていたようで彼の方を向いて笑いかけた。が、背後でした不吉な音にすぐさま表情を引き締めた。真っ二つに割れた神社から人物が起き上がったのだ。起き上がった拍子に神社は半壊を越えたようで狛犬までをも破壊されてしまっていた。それでも人物には頬の傷一つしかついておらず、その頑丈さに驚きを通り越して呆れてしまう。すぐさま武器を構える二人の無言の圧力に促され、哉都は急いで階段のところへ走った。すでに国久と鈴花が到着していたが、変わった様子はなかった。足元に不自然なまでに動きを止めた大幣がある以外は。


「なにかあったか?!」

「此処っていうのは分かってるんだけどね!方法が分からない!」

「あ、そっちもあったか!」


哉都の問いになにもない空間を必死に叩きながら国久が言う。やはり刻も鈴花も思った通り、そこには壁ー結界がある。だが、肝心の破る方法がなかった。懸命に見えない壁を叩く国久の隣では鈴花が何か方法はないかとぶつぶつと呟きながら考え込んでいる。ゴンッと哉都も蹴ってみるとそんな音が返って来た。哉都自身、どのくらいかは分からない素人だが強力な結界と言うことだけは分かる。蹴った足が痛い。人物が完全復活する前に早く……!


「(……ん?)」


見えない壁を蹴り、足の痛みに俯いていた哉都は自分の靴が見えない壁に写り込んでいる事に気がついた。だが、自分の真っ正面にはなにも写っておらず、見えない壁に阻まれた向こう側が広がるのみだ。


「(……もしかして)」


いや、それはただの憶測にしか過ぎないし、鈴花が気づいていないのもあり得な……そこで哉都は大幣に目が行った。そうして目を見開いた。大幣が見えない壁に写り込んでいたのだから。


「分かった!下だ!」

「「下!?」」

「下が鏡になってる。だから!」

「!茶々!来て!」

「刻ちゃんも!早く!」


一歩足を後方に引き、叫ぶ哉都の言葉をすぐさま理解した二人は人物を睨み付ける刻と茶々を呼ぶ。二人は立ち上がった人物を哉都が駆け出す前同様に睨み付けていたが、何故か人物は壊れた神社の中から出てこず、静止していた。何故?不気味だ。そう誰もが思ったが、腹に背は変えられない。茶々が刻の視線の促しを受け、人物を警戒しつつも哉都達のもとへと素早く駆ける。足元付近を指差す哉都と鈴花を国久が「危ないから」とまるで父親のようにして下げさせる。さすがとしか言いようがない光景に茶々は大太刀を大きく振りかぶった。ガシャン!とガラスが割れる甲高い音が響いた。と共にピシピシと見えない壁にヒビが入っていく。なにかを振り切った、壊した音にようやっと人物が反応した。反応しなかった理由は、よく分からないが刻は薙刀を構えた。ピシピシと音を奏でながら割れて行く壁。ついには人一人通れるくらいの穴が空いた。穴の向こうは雲が晴れたのか仄かに明るいオレンジ色の空が広がっていた。嗚呼、逃げれる。そう思ったのは誰だっただろうか?きっと、全員だ。


「よっしゃ空いた!」

「逃げるわよ!」

「主様たち先行って!」


結界の破壊に喜ぶのもつかの間、人物が今度こそ行動を開始した。崩壊した神社から大きく跳躍し、刃物のように変貌した自らの両腕を刻に振り回したのだ。薙刀で防ぐ刻だったが全体を殴打したためか、腕が震える。


「刻!」

「カナ危ないわよ!?」

「分かってるっ!」


「先行って!」と哉都達を押し込む茶々の脇を縫って哉都は飛び出した。バッと人物を弾いた刻が哉都の声に振り返った。


「主君!」


自分の背後で人物が石畳を蹴り直し、跳躍してくるのが気配で分かる。嗚呼、でも。国久と鈴花がオレンジ色に染まる空から手を伸ばし叫んでいる。茶々がそちらへ行こうとつつ、二人の名を叫んでいる。哉都は、俺は刻に手を伸ばしている。

刻は哉都の伸ばされた手を嬉しげに、


「勝ちだ」


取った。


もう少しでこの章も終了です……あれ、今夏か?

ってことで(なにかってことでだ)次回は来週月曜日です!

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