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神様遊戯~光闇の儀~  作者: Riviy
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第二十九ノ契約 愛憎の物語、閉幕


空間が歪んだと言うことはつまり、なにか起きたと云うことだ。誰にでも分かる。が、それは一体誰か?考えなくても分かるのは、鈴花の怯えようからだろうか?それとも異様な雰囲気が突如として神社を覆い尽くしたからだろうか?答えは


「みーつけた」


そこにあったからだろうか。

鳥居の真ん中、階段付近。まるで出口を塞ぐように立っている一人の人物。風になびくマフラーがまるで翼のように見えるが、今はただ恐怖を煽る要因の一つでしかなかった。先程まではいなかったはずなのに、空間の歪みと共に現れたその人物は異様なほどに可笑しくて何処か美しかった。そうして背筋を駆け巡る悪寒と殺気。人物から放たれる陽炎のような殺気に誰もが息を呑み、恐怖した。


「……『神祓い』……!」


学ランにマフラー、そして死神の鎌の如く真っ赤に染まった大幣。これほどまで一致する情報に誰が『神祓い』ではないと言えようか?鈴花は二日連続の恐怖のあまりか、哉都と国久の背後に隠れ、震える手で二人の服の袖を握っている。こんなすぐに『神祓い』が現れるだなんて誰が分かるか!そういう怒りも籠めながら哉都は人物を睨み付ける。かなり距離があるにも関わらず、人物の瞳には光がなかった。あるのは特定の人物に向けた憎悪だけ。その感情に国久の感情を糧としていたあのモノノケを思い出してしまい、思わず武者震いした。


「どうする?ってか、これってさぁ」

「嗚呼、主君達だけでも逃がしたいのは山々だが……くそっ、結界か」

「結界?二人共、それどういうこと?」


三人を背に隠すようにして立っていた刻と茶々の言葉に国久が問いかける。それに刻は奇妙なほどに微動だにしない人物を一瞥すると言った。


「此処ら辺一帯に結界が張られている……いや、あくまで結界は物の例えだな。その結界が邪魔で主君達を簡単に逃がせないようにしてる」

「……袋の鼠ってことか」


なるほど。ニュースで言っていたように八咫烏警備隊が『神祓い』の強制破棄終了時にしか駆けつけられないのは人物自身が張った結界のせいだったと云うわけだ。どういうわけかその結界は周囲からの異変を遮断し、身を隠してしまうらしい。つまり、袋の鼠という表現が適切過ぎてこれ以上の表現がない。逃げ場をなくした。後ろは神社、前は『神祓い』。どうする?いや、選択肢は戦うしかないが……ないが。


「(もし、強制破棄されたら?)」


あり得ない話ではない。強者が集まる八咫烏警備隊でさえも強制破棄に巻き込まれているのだから可能性としては大いにあり得る。だが、迷っていてはなにも始まらない!


「刻、強制破棄ってどういうの?」

「武器が私達の契約印……心臓に突き刺されてしまえば破棄だ。この場合は人物の大幣だな。だが、破棄には召喚と同じ詞が必要となるし両者の同意も必要だ。だから一概に刺されただけでは破棄とは言わない」

「あ、そっか。だから強制破棄なのね……詞を無視して大幣を突き刺す……」


鈴花が震える声で告げる。震えている、それほどまでに『神祓い』の力は強烈と云う事実を突きつけられたのだ。怯えない方が可笑しかった。詞を無視し、大幣を突き刺すからこそ大幣は血塗れなのだろうし、その事実を知っているからこそ自分達は絶望するのだろう。失ってしまった絆と未来を憂いて、嘆いて、欲して。だからこそ八咫烏警備隊が撤退するという事態にまで発展するのだろう。と云うことは、だ。無理に戦えば強制破棄の二の舞に成りかねない。人物がどうしてまた鈴花の前にー哉都達の前にとも云うー現れたのか?やっぱり、気配を感じ取ったのだろうか?今はそれくらいしか分からない。なんとも焦れったくて、哉都は舌打ちをかました。


「てかそっちにも契約印ってあるんだね?」


今云うべきかはちょっと迷ったが、聞かなくては()()が練られないので聞くしかない。国久の問いに茶々がプクゥと場違いながらも頬を膨らませて彼を振り返る。


「主様!ちゃんと説明したでしょ?!」

「ごめん茶々。されてない」

「……あれ?」

「まぁそこまで重要案件じゃなかったからね。茶々が忘れてても普通だよ」

「刻ちゃん、それ普通って言わないと思うわ」


おや、と首を傾げた刻とごめんねと謝る茶々にちょっとだけ殺気まみれだった雰囲気が緩んだ。ていうか刻もしてなかったんだと云うのがちょっと驚きである。契約印が刻まれている左手を哉都が何気なく撫でると同時に刻が言った。


「私達の契約印と言うのはさっきも言ったように心臓を指す。契約者と同じ紋はすでに刻まれている(持っている)からね。少しだけ事情が違うんだよ」

「動物型とかたまに心臓じゃない人もいるよ!なんていうか、契約印じゃなくて命だよね!」

「「「へぇ~」」」


なるほど~と云うような三人の声が重なる。というかある意味、茶々の言い分は合っている。だが、今はそんな場合ではない。いまだに動く気配を見せない『神祓い』を全員で見やる。


「刻」

「倒せるかどうかはいまだ不明だ。ただ……絶対に主君達は守る」


真剣な、力強い言葉に嬉しいと思ってしまったのはしょうがないと思う。哉都は小さく笑い、後ろ手に差し出された刻の手を叩く。ハイタッチだった。「大丈夫!」と笑いかける茶々に国久も鈴花も安心したように笑いかける。刻と茶々は武器をかまえ、『神祓い』を睨み付ける。


「茶々、油断するんじゃないよ」

「わぁかってるよぉー倒しちゃえば良いけど……」

「嗚呼、()()もんだね」


怖い、とは何が怖いと云うのだろうか?二人が哉都達を一瞥して振り返ったのが全ての答えだ。前方を睨み付け、『神祓い』と対峙する。その時、ようやっと人物が動いた。


「♪~」

「!?」


響き渡ったのは美しくも何処か悲しげな歌声。なにかを訴えるかのような、叫ぶかのようなそんな歌声。だが、それ以上に恐怖を増幅させるかのようなかな切り声にも似た形容し難い騒音でもあった。咄嗟に哉都達はその歌声から耳を塞いだ。歌声が脳内をぐちゃぐちゃに掻き乱していくような不快感と表現の仕様のない恐怖。足から、そう例えば虫が這い上がってくるようなむずむずとした違和感。聞いてはいけない。聞いてしまえば、()()()()!そんな、異様な歌声だった。耳を塞いでも指と指の隙間から潜り込んでくる歌声。一体なんのつもりだ?哉都はチラリと『神祓い』、人物を見た。だがそこに人物はいなかった。しかし歌声は何処からともなく流れていて……いや、目の前に刻と茶々(獲物)がいるのに逃げる方が可笑しいか。それに此処は人物の狩り場なのだ。行動を開始したと云うことだろう。だが、一体どこに?歌声から逃れるように耳を塞ぎながら哉都は周囲に視線を配り、恐怖した。前方から「此処だよ」と主張するように漂う殺気と()()()()()()()()()()()()()()。嗚呼、嘘だろ。


「刻!茶々!」


歌声に負けず劣らず大声で哉都は叫んだ。ハッとしたように歌声に顔を背けていた茶々が顔を上げた。次の瞬間、茶々が消えた。いや、消えたのではない。人物の動きが速すぎて目が追い付かなかったのだ。素早すぎる動きで茶々を蹴り上げ、回し蹴りを放ったようだ。なにも出来ずに吹っ飛び、木に背中をぶつけ呻き声をあげる茶々に全員は我に返った。刻がなにかを云うよりも早く、哉都は国久と鈴花の手を自分の方に引っ張った。途端、刻の目の前に人物がマフラーをはためかせながら現れる。先程もいたはずのにこの動きはなんなんだ?そう思った哉都の目の前で大幣の衝撃では絶対にないであろう甲高い音が響く。刻が薙刀で大幣を防いだのだ。火花が散るほどの威力に『神祓い』と呼ばれる人物の強さを目の当たりにする。


「主君!」

「分かってる!絶対に、死ぬなよ!」


哉都達から距離を取ろうと人物を力いっぱい弾き、跳躍しようとする刻に哉都は叫ぶ。哉都からの声援に刻はクスリと嬉しそうに微笑み、吹っ飛ばされた状態で空中に漂う人物に向かって跳躍した。


この頃、二つ投稿していますがそのうち三つになりs……言ったら本当になりそうなんで言いませんわ……色々判明しますよ~

次回は木曜日です!

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