第二十八ノ契約 感情詣り、感情祭り
哉都と国久、鈴花の家は分かれ道によってわかれている。途中まで帰り道は同じなのだが分かれ道でわかれてしまう。哉都と国久は分かれ道の右、鈴花は分かれ道の左となっている。だが今日は鈴花の護衛なのでみんな一緒に左の道である。哉都の家からは遠回りになってしまうが仕方がない。鈴花の両親も今後は様子を見ながら早く帰ってくるようにするらしいが、二人ープラス二人ーが一緒に帰ってくれることに多大な安心感を得たと云う。鈴花に至っては恐怖から解放されたためか「一週間くらいあれば十分よ」という謎の宣言をしていた。なまじ嘘ではなくなるので、本当に怖いと思いつつも苦笑である。
はてさて、そんな彼らだが、曇っているためほぼ沈んだように見えて感じてしまう空の下、楽しげに会話をしながら歩いていた。刻の手には以前鈴花と話していた文庫本の最新刊が握られており、左半分の顔は心底嬉しそうに笑っていた。
「良かったな刻」
「嗚呼!図書室には最新刊まではなかったからね、続きが楽しみだ!」
「ふふ、良かったわぁ」
今にも歩きながら文庫本を読み始めてしまいそうな刻の手から哉都はちょっと背伸びをして文庫本を引き抜くと、「家でな」とスクールバックにしまった。刻は今読んでしまいたかったようで不貞腐れてしまっていたが、哉都の言うことももっともだと分かっているのか、うんと頷いた。家に帰ったらすぐにでも読みそうだなと思い、哉都は文庫本を取りやすい一番上に配置した。
「そういえば、国久。この間本屋行ったらさ、お前がいつも買ってる料理本の最新刊出てたぞ」
「うっそマジで!?うわー……買いに行きたい!」
哉都が唐突に思い出して言うと今度は国久が大興奮だ。こちらも今にも本屋に駆け出して行ってしまいそうだったので茶々が「落ち着いて落ち着いて!」と肩を掴んでいた。国久も分かっているのか、スマートフォンのメモアプリにメモを作成していた。速すぎてなんて書いてあるかは見えなかったが。
「主様、本当に料理好きだね!」
「ん、そりゃあまぁね。自分用で色々作ってたのが凝って行っただけだけど……食べてくれた人が喜んでるのが嬉しくてねー」
「それって……」
「うん。カナと鈴花。二人が美味しそうに食べるからさぁ、それもあって」
まさかの事実と云う国久のデレに哉都も鈴花も嬉しさを通り越して恥ずかしくなって来た。国久がよく料理をご馳走してくれるのは知ってた、知ってたけどさぁ!そこまでは知らなかった!嬉しさと恥ずかしさに顔を覆う鈴花を横目に哉都が言う。
「国久の料理の腕が上がったのは俺達のおかげってわけか?」
「そうだねー刻も茶々も増えたから余計に腕が鳴るよ」
「私だってそうなんだからね!」
「鈴花ちゃん、何を対抗しようとしてるんだい!?」
茶々のように勢いよく挙手して鈴花が言えば、茶々もノって手を上げる。なんだこれ、みたいな状況に哉都が思わず、楽しくて腹を抱えて笑い出す。哉都に釣られて刻も小さく笑い出し、その笑いの連鎖は国久、茶々、鈴花へと続いて行く。楽しげな笑い声が夕暮れーと云うよりもちょっと曇りーの中、響いていた。が、何処か楽しげな中に交じっていたそれは、次第に彼らを侵食しているようで哉都はちょっとだけ落ち着かなかった。杞憂であれば良い、なんて思ってしまうくらいには。それからも彼らはお喋りしながら帰路についた。鈴花の家までは分かれ道からそんなに距離があるわけではないはずなのだが、今日はなんだかいつもよりも遠く感じてしまう。それは恐怖か好奇心か。分かりゃしない。
「!あ!神社!」
その時、茶々が嬉しそうに声をあげ、ある場所を指差した。住宅街に囲まれ、ひっそりと云うよりも堂々とした面持ちで建っていたのは紅い鳥居だった。その奥には少し古びた紅い神社が建っている。茶々はその神社を見つけると言うまでもなく、トントンッと石畳の階段を登り始めた。
「神社好きなの?茶々」
「うん!神社はボクの故郷!」
国久が階段下から聞くと茶々は笑顔で答えた。茶々の言葉の意味が分からず、一瞬キョトンとしていた刻除く一行だったが神王・神姫の誕生は謎が多いことに気づいたらしく、一応納得した。
「ちょっとお詣りしても良い?」
「うーん、どうする?」
茶々が行きたい行きたい!と鳥居の向こうを指差す。哉都が二人に、特に鈴花に同意を求めると彼女はニッコリと笑って「良いわよ」と言った。
「これからの事を願っておかない?それに、此処前から行ってみたかったのよねー」
トントンッ、と石畳の階段を軽快に駆け上がる鈴花に哉都達が続く。安心しておきたかったのかもしれないし、ただ単に寄って行きたかっただけなのかもしれない。
「もう暗いんだから、早く終えないとね」
「あら、急がば回れって言うでしょ?ついでよついでよ。みんなで此処まで来るなんて滅多になさそうだし」
「ねっ」と振り返り様に柔らかく鈴花に微笑まれてしまえば、国久はむぅと唸るしかなくなってしまう。だが国久も気になっていたのか、その足取りは軽い。鈴花と茶々が踊るように階段を軽快なステップで駆け上がって行く。その後にゆっくりとした足取りで哉都達が追う。
「此処は、前からあったのかい?」
「え?うん、そのはずだけど……そうだよな国久」
「うん、そうだけど……刻どうかした?」
階段を上がっていると刻がそう聞いてき
た。なにか不安や疑問でもあったのだろうか?確かにこの神社は前からある。住宅街から切り離すように木々が生い茂っているため、夏は格好の涼みスポットだし、神社を拠点に夏祭りを開催することもある。だが、あまり行ったことはなかった。木々で切り離されたのがまるで俗世から切り離れてしまうようでちょっと怖かったと言うのは哉都の意見だが。だが、刻の疑惑はそんな簡単なものではなかった。
「いや……ちょっと違和感を感じてしまってね。本のちょっとの、本当に些細なものなんだが」
ステップを踏みながら階段を駆け上がる二人を見上げながら刻は言う。布から除く翡翠色の瞳がまるで刃物のように鋭く輝く。哉都は国久と顔を見合せ、既に上りきってしまい、こちらに手を振る二人を見上げる。二人の不安そうな表情が出ていたのか、刻は慌てたように表情を崩した。
「でも、勘違いかもしれないしね。気にしないでおくれ」
胸元で両手を振って弁解する刻に二人は気をつけようと気を引き締めた。警戒するに越したことはないのだから。それを伝えるように二人が笑えば、刻もホッとした様子だ。
「早くー!」
「時間なくなるわよ」
「はいはい今行くって!」
階段の上から哉都達を今か今かと待ちわびる二人が文句を飛ばす。哉都達はクスリと笑い、しょうがないなぁと二段飛ばしで駆け上がった。
緑の木々に囲まれた鳥居を抜けると古びた紅い神社がひょっこりと顔を現した。神社の両脇には阿吽の狛犬がおり、哉都達を出迎えてくれる。緑色の木々が神社を守る羽衣のように見えて、何処か神秘的に感じると共になんで今まで来なかったのだろうと言う後悔の念にさらされてしまう。哉都達を急かしていた二人は神社にお詣りをしようと一足先に向かっており、哉都達も慌てて向かった。
全員でお詣りを済ませ、クルリと鳥居の方を振り返る。
「さっ、帰ろっか」
「はーい」
国久が言い、茶々が元気に返事をする。とその時、空間が歪んだ。こう、グニャリと。同時にキーンという耳鳴りがしたような気もした。哉都は見間違いかな?と目を擦ったが隣で鈴花が眩暈を起こしたかのようにフラリとよろめいたので違うと確信した。それは刻と茶々も同じで、瞬時に警戒と武器を出現させる。刻の警告は、違和感は当たっていた。
「っ、無理矢理にでも引き返せば……!」
「刻のせいじゃねぇからな」
「そうだよ。っていうかすぐ来るなんて思わないだろーし」
「それなー」
薙刀を握りしめ、顔を歪ませる刻に哉都と国久が言う。それに刻は暫くしてうん、と頷いた。空間が歪んだと言うことはつまり、なにか起きたと云うことだ。誰にでも分かる。が、それは一体誰か?考えなくても分かるのは、鈴花の怯えようからだろうか?それとも異様な雰囲気が突如として神社を覆い尽くしたからだろうか?答えは
「みーつけた」
そこにあったからだろうか。
さあさ、どうなることやら?!ですね……書き溜めているのが多くなってきてはいるのに話進まない……




