第二十一ノ契約 戦闘終了!
素早い動きで凄まじいスピードで迫ってくるモノノケを見据える二人。かと思うとクルリと後方を振り返り、茶々が走り出す。何事かと思うと背後にあったジャングルジムに向かって跳躍すると回し蹴りを放ち、空中を滑る。滑るように行動する茶々の靴底を狙い、刻も回し蹴りを放ち、勢いを上げる。スピードが上がった茶々とモノノケが真っ正面から激突する。ギギギ、とガラスの破片のような刃物が茶々が振り切った大太刀を擦って気味の悪い音を上げる。その音に茶々は耳を塞ぎたくなるが、ニィと笑いそんな弱さを弾く。両足をモノノケの肩に乗せ、背後に回ると思わせるかのように大太刀を振り切る。背後に回られると思ったモノノケが振り返り様に刃物を罰印を描くように振り下ろす。ちょうど着地しようと回転がかかっていた茶々に刃物が襲いかかる。大太刀で防御するがあまり効果はなかったようで左腕と右足に一線刻まれてしまった。先程の仕返しとで言うようにモノノケがニヤリと笑う。着地した途端、ズキリと足に痛みが走り、茶々は思わず顔をしかめ、足を押さえた。これじゃあ、逆じゃん。そう内心笑いながら大太刀を横に構え、自分の頭より上に掲げた。ガキン!殴り付けるように振り下ろされたモノノケの攻撃を大太刀で防ぐ。腕にも怪我をしたので大太刀から来る振動が傷に響き、痛い。モノノケも笑っている。嗚呼、でも、笑うのはやはりこちらだろう。
ズサッ。鈍い音がした。それと共にモノノケの動きが一瞬鈍った。そうして茶々が笑う。モノノケは茶々に気を取られて忘れていたようだが、此処には刻もいるのだ。モノノケの鎧に覆われていない部分、腹辺りから薙刀の切っ先が突き出ていた。モノノケの背後に回り込んだ刻は力を振り絞ると薙刀とモノノケを持ち上げ、茶々から引き離す。と言っても少ししか浮いていないし、少しだけ右に動いただけだったがそれでも良かった。少しだけ移動したモノノケは背後にいる刻をどうにか攻撃しようとするが薙刀がそれを邪魔する。刻はモノノケの背後に迫ると滑り込みながら足元を通り過ぎる。だが、それだけではなんとも物足りない。そう言わんばかりに突き刺していた薙刀を容赦なく抜き、滑り込みと共に蜘蛛の足を切りつける。痛みに後方に仰け反った所に足への痛みは相当痛かったらしい。モノノケが後方に転がった。こう、まん丸のだるまのようにコロッと。しかも足を一本、刻が切り離していたらしく、立ち上がろうにもバランスが取れずに倒れてしまうと言うことを繰り返している。
「ハハハハッッ!だるま、だるまみたい!ハハッ!」
「茶々、笑ってる場合じゃないだろ」
膝立ち状態でモノノケを指差しながら茶々が大笑いしていた。ちなみに哉都も笑っており、鈴花に至っては口元を押さえて震えていた。敵ではあるがモノノケに謝罪したくなった刻である。いや、しないけど。なんのこれしき!と胸を張るようにモノノケはようやっと足を踏ん張って立つことに成功した。それを横目に刻は茶々の無事な方の腕を掴むと立たせる。笑いが止まらない茶々を呆れたように肩を竦めると……うん、置いて行く事にした。トン、と爪先を弾くようにして跳躍し、上段から薙刀を振り下ろす。上段からの衝撃にも加え、上空から刻の踵落としが炸裂する。しかし、それらをモノノケは刃物で軽く受け流すと二人が視界に入るよう真ん中に陣取った。バッと腕を振るえば、ガラスの破片のようで心許なかった刃物が突然、ガラス状の刃物となった。持ち手部分以外全て破片のように鋭利で、触れるだけで切れてしまいそうだ。モノノケもそろそろ決着をつけたいと言うことだろう。
「刻!」
「嗚呼、分かってるよ!」
二人が頷き合った瞬間、同時にモノノケへと駆け出す。が途中で茶々は大太刀の切っ先を地面に擦りつけると勢いよく振り上げる。砂煙と衝撃波がモノノケに襲いかかる。モノノケは腕を振って吹き飛ばすとガサガサッと蜘蛛の足を動かし、何故か後方に下がった。何故?と首を傾げる哉都達には死角になって見えていなかったがモノノケの背後にはフェンスがあった。ガシャガシャとそのフェンスを後ろ足でよじ登り、脇から来た刻の攻撃を足で絡め取るようにして防ぐとグイッと引っ張り、吹っ飛ばす。その際に忘れずに刻の背中を攻撃して。忘れても良いものを。背中に響く痛みを堪えつつ、足をストッパー代わりにして止まるとその足を軸に半回転。再び接近する。その間に砂煙に身を潜めつつも茶々が真っ正面から攻撃を仕掛ける。しかし、前方を向いていた蜘蛛の足に絡め取られてしまう。ニヤッと笑うモノノケにムッと茶々が頬を膨らまし、
「バァカ」
残酷に笑った。それはもう笑顔で。茶々は大太刀が絡め取られているにも関わらず、グルッと描いてさせると振り上げた。突然、振り上げられた大太刀に成すすべなくモノノケの足が切り落とされて行く。上へ突き上げられた攻撃にモノノケの胴体も切り刻まれて行く。がそれでもモノノケは倒れない。残った腕を勢いよく茶々に振り下ろす。それを紙一重でかわすと大太刀を軸に足を蹴り上げる。顔に命中した一撃を受け、モノノケはフェンスにしがみついた。一回転し、大太刀を抜き放った茶々は片手を掴まれた感触を感じ、その感触を力強く上空へ投げ飛ばした。そして、背後に迫った刃物を大太刀で防ぐと片手を伸ばし、その手首を捻り上げた。茶々が力を入れれば、腕は脆くも簡単に捻られ骨が姿を現す。それに茶々がニヤリと笑う。そんな様子を見て哉都が呟いた。
「……茶々ってもしかして馬鹿力?」
「いやー多分、戦闘だけじゃない?あの力」
「嗚呼……火事場の馬鹿力的な」
「ちょっと何よー!」
鈴花には刺激が強そうだったので塞がせていただきました、はい。哉都の思わず出た、と言うような言葉に国久が苦笑しつつ言う。
痛そうに顔をしかめるモノノケの頭上から刻が薙刀を振り下ろす。フェンスに引っ掛かっている状態だったモノノケが上からの衝撃となくなった体のバランスで簡単に落下する。落下してきたモノノケを茶々が大太刀の刃でフェンスに押し付けると脳天目掛けて刻が薙刀を突き刺す。グシャリ、嫌な音と共に濁った眼球が異物を突き刺されたことによりまるでゾンビのように飛び出す。思わずもう一度、哉都が鈴花の目を塞いだのは気のせいではない。国久はソッと自分の目を塞いでいた。刻は容赦なく薙刀を抜き放つとフェンスを蹴って着地し、大太刀を握り直した茶々と共にモノノケに向かってトドメを刺しにかかる。もはや動けないモノノケに二方向からやってくる武器を防ぐ手立てはない。フェンスに寄りかかる、と言うよりもぶちまけられたと言った方がしっくりくるような残骸となり、モノノケは動きを止めた。刻と茶々は敵が本当に動かなくなった事を暫し見つめて確認すると、二人は顔を見合せ、ハイタッチをかわした。
「終わったー!」
「そうだね。怪我、大丈夫かい?」
「んー……ちょっと痛い」
武器を消し、茶々に問いかける刻に彼が苦笑する。顔にモノノケの返り血がかかっているが気づいているのだろうか?
「刻!」
哉都が刻の名を呼びながら彼女の手を取る。それにびっくりする刻を哉都は不安と心配そうな表情で見上げて言う。哉都を追いかけてガサガサと袋を鳴らしながら国久と鈴花もやってくる。
「刻、怪我しただろ?一緒にいれば自己再生能力?が上昇して治るだろ?」
覚えていたのか。昨日は軽傷だったのですぐに治ったが、それを言ったのは約二週間ほど前だ。まるで緊急で吸収しても構わないと言っているようで刻はクスッと小さく吹き出した。そうして「ありがとう主君」と哉都の頭を優しく撫でた。また照れたように哉都は身を捩ると「後ろ向いて」と刻を促す。抵抗することもなく、素直に背中を晒した刻の背中には一線傷が刻まれている。見るからに痛々しいが、哉都といるためか自己再生能力が上昇しているようで服の修繕と共に治療されていっている。便利だな。それと共に痛みに刻の表情が時折歪んだ。
「ねぇ、茶々って人の治療法効くの?」
「あー、どうだろ。茶々、こっちおいで」
その時、国久と鈴花がやって来た。荷物である袋をゆっくりと置き、国久が茶々を手招く。その後ろの消滅しつつあるモノノケの残骸を視界に入れないようにしながら。チョコチョコとまるでヒヨコのように国久のもとに歩いて行く茶々がなんだか戦闘時とは違って可笑しくて、ギャップを感じてしまい、哉都は刻と一緒に笑ってしまった。
「ボク、一応人型だから効くよ。ちょっとだけ感情型?も混じってるけど」
「なにそれ?」
はい、と茶々にハンカチを渡して国久が問う。感情型?初めて聞く言葉だ。哉都と鈴花が「なにそれ?」と刻を見上げると彼女はクスリと優しく微笑んだ。
「人型から派生した型で、感情によって左右される場合がある型の事さ。あまりその形はいないから認識が薄いのは当然だね」
「つまり、茶々?」
「茶々だな」
「茶々ね」
「ボクだね!」
刻の説明に哉都達が茶々を振り返ると彼も「自分!」と挙手した。それがあまりにも勢いが良すぎて国久が渡したハンカチを落としそうになってしまった。鈴花が慌てて援護に入り、なんとかなったがそれに楽しそうに二人が笑った。それを見ながら哉都はよくモノノケに遭うなぁなんて、ちょっと悲観すると共に苦笑し、内心大笑いした。モノノケのことなんて分かるはずないのに。日常茶飯事なのに、なんだが可笑しかった。
「主様!どうだった?」
「どうだったって……カッコ良かったよお疲れ様」
「!へへ」
「良かったわねー茶々」
ハンカチで顔を拭く茶々の質問に国久は多少困った様子だったが、そう笑顔で答えた。それに茶々も嬉しそうに笑い、鈴花から荷物の袋を受け取りかけ、怪我のことを思い出した。国久が持ってきたバックから救急セットを探る。その間、哉都達は会話に花を咲かせていた。
刻と茶々の共闘はこんな感じな気がします!相手のこと読みまくる的な。
次回は木曜日です!




