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神様遊戯~光闇の儀~  作者: Riviy
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第百四ノ契約 大迷路競争遊戯



頭の上で太陽がギラギラと輝いている。午前を半分以上過ぎ、昼近くになろうとしているためか飲食店には大勢の人々が中に入ろうと群れをなしている。見上げればそんな光景が目に入るが、今の哉都にとっては食欲は二の次だった。


「絶対さぁ、壱月、澪に言ってたでしょ。じゃなきゃ、澪が迷路行こうなんて言うはずないじゃん」

「んー……ちょっとしか一緒じゃなかったけど澪さんって結構計画性あるから、聞いた時に調べたんじゃないかな」


そうかなーと微妙に納得が言っていない茶々の首根っこの服を掴みながら国久が言う。そんな二人を横目に哉都は前方で今にも左に走り出しそうな壱月とそれを止める時雨を見つめた。四方八方、何処を見渡してもあるのは涼しげな色をした壁だけ。時折聞こえてくる叫び声はまるでお化け屋敷に迷い込んだかのような悲鳴だ。天井がなく、所々に申し訳ない程度のパラソルとスプリンクラーがついている。炎天下、とまではいかないが太陽下で哉都達が今まさに挑んでいるのは大型施設の夏休み企画「大迷路から脱出せよ!」である。まぁ簡単に言ってしまえば、膨大な敷地面積をもて余した施設側が今夏から始めた企画で、遊べる施設が詰まった建物付近に巨大迷路を設置したのだ。それを前述の通り、澪が見つけ、やることになったわけである。しかも男女わかれてのチーム戦。壁に手をついて進むと云う手法は禁止というルールである。遅く着いた方が早く着いた方に飲み物を奢ると云う。お小遣いを貰っているので大丈夫だった学生達だが、壱月が無言で明後日の方向を向いたので絶対に勝たなければならないと男子全員が満場一致した。澪はにっこり笑うだけだったのであるらしい。


そんなこんな、迷路に挑み始めて早数分。壁越しに響く悲鳴に此処はお化け屋敷だったかと哉都はパラソルの隙間から見える青空を仰ぎ見る。いや、係の人に「通る道にトラップがある場合がございますのでご注意下さい(良い笑顔)」で言われた時からなにかあるとは思っていたが、いたが!屋外お化け屋敷とは聞いてない!


「ねぇ、どっち行く?僕は左だと思うけど」

「絶対に右だっつーの」


分かれ道で壱月と時雨が睨み合いつつ言い合う。国久が苦笑をもらすがなんだかんだあの二人が一番楽しんでいるのだから何も言えない。国久の手から逃れた茶々が一目散に時雨に駆け寄ると「右に一票!」と手を挙げる。挙げたところから勝手に一人で行きそうになったので慌てて時雨が捕まえる。はい、茶々も受かれている一人です。そんないつも以上に楽しむ彼らに哉都と国久は顔を見合わせるとクスリと笑った。


「大将!国久!オマエらはどっちだと思う?」

「絶対に左でしょ?さっき悲鳴がそっちから聞こえたし」

「え~左だったよ~!」


やれあっちだこっちだと言い合う三人に哉都は国久に向かって笑いかけると彼らのもとに行きつつ、国久に問う。


「国久はどっちだと思う?」

「んー僕は左かな。勘だけど」

「よしっ、時雨ー!左!」

「はぁ!?なんでだよ!?」

「国久の勘!」

「あーそういうことねー」


驚く国久とは裏腹に哉都の説明に納得したのか時雨と茶々が壱月を押しやって左の道へと消えていく。壱月は戸惑っているようだったが、哉都と国久の加勢に「ナイス!」と親指を立てていた。一方、何故か勘で決定されてしまった国久は左に曲がる哉都を茫然としていたが慌てて追いかけると肩を掴んだ。それが何故という問いかけになっていることに気づいていた哉都は国久と並びながら自慢気に嬉しそうに言う。


「結構さ、国久の勘って当たるんだよな。ほら、人間観察的な感じで国久はよく俺達を見てるから」

「……えーと、それ、鈴花の方なんじ「鈴花は自分でも言ってるけど頭脳だろ。国久は……んーなんていうか、鈴花とは違う感じの頭脳?っていうか、そういうのなんだよな。だから、自信持てって」……カナが言わんとしてることは分かった。あとで鈴花と褒め殺すね」

「なんで!?絶対容赦ねぇじゃん!」


クスクスと嬉しそうに笑う国久に哉都が怒り顔で言えば、哉都も笑う。なんだかんだ言って哉都だってみんなを見ているし国久だってみんなを見ているのだ。親友だから、というのもあれば地獄とも言うべき修羅場を乗り越えたからこそ見えてきたのかもしれない。それに国久の勘は役に立ちたいといつの間にか身につけたような、執念の証でもあった。暫し二人は笑い合うと一本道を進む彼らを追いかける。時折、脇道に首を突っ込みながら順調に進んでいく。どうやら脇道は今のところ全て行き止まりらしい。既に特攻隊長と化した茶々が全ての脇道に首を突っ込んでは「違う!」と叫んでいる。それに「うるせぇ」と肩を竦めつつも低い声で言うのは時雨でもはや日常茶飯事だ。すると茶々のあとを雛鳥のように追いかけていた壱月が突然、時雨を振り返った。


「そういえばさぁ」


その声は何処か、哀愁を持っていて。微かな怒り()を持った声色に時雨の瞳が揺れた。嗚呼、彼はあの戦いからでもきっと知っている。例え、『神祓い』と本当の意味で一人の神王になったとしても残った負は消えない。まるでそう言っているようでもあった。しかし、大丈夫と云うように壱月は微笑み、ウエストポーチからある物を取り出し、それを全員に見えるように顔の横に掲げた。それは手のひらよりも一回りほど小さな櫻紋と菊紋を模した飾りで元はピアスかイヤリングだったのだろうか、上の部分に金具らしき物が欠けて見えている。それはもしかして……そう哉都と国久が云うよりも早く壱月は口を開く。


「神王サマいるから聞くんだけどさ契約印って大体二つじゃん。なんでなのかなって、気になって」

「嗚呼ー確かに。確かに二つだよな?」

「合わせるんじゃなくて寄り添う形が多いよね」


壱月の疑問に確かにと哉都と国久も頷く。もっとも、哉都のは両手なので計四つという大所帯だが。確かに考えてみれば二つが寄り添ったり重なったりが多い気がする。寄り添ったり重なったりしてはいるが互いが互いを尊重し合い、高めあっているようで自然と混合する事なく刻まれている。壱月の持つ飾りはもしや神王の形見だろうかと思った哉都だが、それよりも先に時雨の方に意識が言った。だが彼は大丈夫だと哉都に笑いかけると快く教えてくれた。


「オレらの生まれは知ってんだろ。人からなったり神の信仰心から生まれたり。それらはどういう出生にしろ、『掛け合わせ』と表現される。それで契約印は組み合わせじゃなくて寄り添うみてぇな形になる。まっ、オレらと大将らの縁みてぇなもんだ」

「時雨の云う通りー!簡単に言っちゃえば繋がりで縁ってこと!生まれた時の紋と『神の名を冠する者()』になった紋!」


二人がそう説明してくれた。つまり、自分達みたいなものか。そう哉都が納得すれば、国久も納得したらしく、うんうんと頷きながら説明を咀嚼していた。壱月も一応納得したようだったが、また時雨に近づき、顔を覗き込んだ。不意を突かれた形になった時雨が一瞬怯えを見せながら壱月を振り返ると彼は「大丈夫大丈夫!」と笑いながら時雨に先程の飾りを見せた。壱月の様子から以前の彼についてはなにも言及しないつもりらしいし気にもしていないようだ。時雨が過敏に反応してしまっているだけで。それが安心というか不安というか。そう哉都が思ったのは内緒である。哉都は気になったので駆け足で二人のもとに行くとタイミング良く壱月が話し出す。こちらもタイミング良くトラップにかかった別のチームの悲鳴が響いた。


「この飾り、僕の神王の物なんだけど加工してアクセサリーにしちゃっても大丈夫かな?」

「……良い、んじゃねぇかな……てかなんでオレに?」

「え?んー、なんていうか、僕と契約してた神王と雰囲気似てるんだよね」


何処か悲しげな壱月の笑みにそちらに着いた哉都も時雨もハッとした。そうだ。彼は融合と云う道を選ばれた契約者だ。契約していた神王の契約印を身に付けたいと思うのは至極当然だった。例え、融合し一つとなっていても。時雨は一瞬迷ったように片手をあげるとポンッと壱月の頭を少し背伸びして優しく撫でた。えっと驚いたのはそうされるとは思ってなかったからかもしれない。


「身に付けられるっつーことは一緒にいる、縁みたいなもんだ。だから、オマエの神王も喜んでんだろうぜ」


時雨の言葉に壱月は心底嬉しそうに笑い、「そのピアスもでしょ」と言う。彼がそう言えば、時雨も嬉しそうに笑う。なんだかんだ言ってあの二人は同じなのだと哉都は感じる。


「ねぇ琴鳴くん。時雨(この子)、弟に貰っても良い?ほら、同じ雨ついてるし」

「なんでですかこの流れから言って兄でしょーが!ていうか、時雨は俺と契約してる相棒の一人なんで駄目です!」

「えー兼平ちゃんは神姫サマと仲良いのに?」

「それは女子特有の仲良しさであって姉妹じゃないです雨神さん!あと時雨はカッコいいからどっちかって言うと兄が似合う」

「あーそれは分かる。筑城くんの神王サマのお世話が妙に手慣れてたもんね。元気の良い弟と世話焼きのお兄さんみたいだった」

「ですよね。刻とは違うカッコ良さ、男らしい感じの。刻は女性らしい柔らかな中の男らしさって云うか」

「カナー雨神さーん、時雨が照れてるからそろそろやめた方が……」


いつの間にか違う方へ話が脱線していた。それに二人が気づいたのは耳まで真っ赤に染まった時雨を国久がよしよしと言うように肩を掴んで宥めている。茶々に至ってはこんな時雨は滅多に見れない!とでも言うように頭を見よう見まねで撫でている。なにか時雨が恥ずかしがることをしただろうか?哉都は首を傾げながら壱月を見たが、彼は哉都の疑問の答えが分かりきっているらしく、形見であろう飾りをどう加工しようか悩みつつもウエストポーチに仕舞い込んでいた。


「……国久、俺、なんかヤバイこと言った?」

「大将がっ!刻に感化されてる!」

「え……………!え、あ、違っ……いや違わないケドォオ?!」


時雨が言わんとしていることと国久と茶々の優しいというか生暖かい視線に哉都は理解し、頬を紅くした。間違ってはない、間違ってはないけど……!意識されればされるだけ何故か恥ずかしくて。だから、


「国久の茶々自慢と同じだよ!」

「待ってカナそれ鈴花言ってた奴でしょ?!神王バカの奴でしょ親バカみたいな!」

「まぁーみんな自分が契約した『神の名を冠する者』自慢するし褒めるよね」


巻き込みだ!哉都の言葉に国久と壱月がそう同調するように言えば、今度は茶々も嬉しそうに笑う。なんだかんだ言ってみんな嬉しいのだ。それを示すように哉都と時雨の「「迷路クリアするぞ!」」という声が被り、全員で笑う。楽しく響くまるで歌声のような笑い声を連れて哉都達は迷路に挑むのであった。

とりあえず、分けるのはなんか違う気がしたんで。時雨はやっぱりお兄ちゃん、うん。


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