game over
よし、見捨てよう。
妥当な判断である。
無理なものは無理だ、勝てるわけがないボコボコニされて終わりだ、怪我をするとお風呂で後悔するものだ。勝算もないのに突っ込んでいくのは他の主人公に任せよう。
「ちょ、ちょっとぉ......い、いたたったたぁ」
「うるせぇぞガキ、黙ってこい」
「いぁ、い、痛いですぅ」
(いや、まて......)
(せっかく異世界召還をしたんだ、なにか特殊能力の一つや二つ持って召還されたはず!!)
振り返り数歩進む
手が湿ってきているのがわかると選択を後悔しそうになる
気づくな気づくな
必死に言い聞かせる
イベントをこなしてこそ異世界召還だ......
(緊張しすぎだろ)
たかが女の子一人のために殴られる覚悟をするのも難しいのか
主人公気取りの浅はかな考え、非日常が起こっただけで自分が何かしたわけではない
何か自分の中の何かが変わったわけでも継続していた努力が実ったわけでもない
きっと不安はそこから来るのだ
なにもしてない
なにも変わってない
変わったのは背丈と汚い言葉のボキャブラリーだけ
(ここで動けたらこんな人間になってない)
(神様にでも背中を押してもらわないと自信が持てない)
(自分より優れた人の後ろ盾がほしい)
進むことも引き返すこともできない行き止まりが俺
ちらりと見る
薄汚いその道の奥に少女はいた。肩を組まれ、口を閉ざされ連れて行かれる
口下手な彼女の声も姿も遠くに消えていく
見るに耐えない光景を視界から消そうとした
そのとき
見えた気がした少女の助けを求める目が、彼女の視界に僕が俺が映りこんだ
そんな気がした
「クソッ!!!」
(そんな目で見られたら俺が主人公だと勘違いするじゃないか)
息は荒い
走る。
普段運動をしていない足は突然の衝撃に驚いている
(相手は2人どうする)
考える。
自分の将来さえ考えることをやめた脳で
町はきれいに清掃され武器にできそうなものはない
露店が目に入る、迷ってられない
「おっさん!!!なんか硬いモノはないか!!鉄パイプとか!!!」
声は裏返り息はこの100メートル足らずで切れた
「んだこのガキ、これから昼時は忙しくなるんだ暇人にかまってられないんだよ」
どいたどいた と手をひらひら動かす
「おっさん、何でも手伝う金はいらねぇ!!!頼む!!!」
人生で初めて本気のお願いをした。
不安と焦りのみが頬を伝う
「へぇ話は悪くないが得体がしれねぇ。お前は何だ、何に使う、手伝う保障は?それとなテツパイプ、そんなもんはしらねぇ」
呆れ顔で俺を見る
「お、俺は日本人で歳は18!!あと、えーとモノは人助けに使う!!
手伝う保障はない。でも頼む信じてくれ...」
いきおいだ、それしか持ち合わせがない
「わけのわからんことばかりだなオイ......」
目を見るそれしかできない
「いいよ、ほれ木箱をあける棒だ逆恨みされてもしかたねぇしな...はぁ...ただ面倒事には巻き込むな?いいな?」
「わかった。ありがとう、約束は必ず守る」
さびた鉄の棒、重さも強度も心ともない
だが少しは可能性があがった
路地を入る姿はない
足音を殺し急ぐ
「手間かけさせんなよ!!!!」
男の声
下る階段奥から聞こえる
忍び寄ると男は一人だった少女を縛り大きな樽へ押し込んでいる
(もう一人はどこだ)
近くに影はないもっと奥にいるのだろうか
握り締めた鉄の棒にさらに力をこめる
「おらぁ!!!」
背後に近寄り思い切り振り下ろす
ギィィィィィン
金属音が鳴り響く
「!?」
確かにあたったはず
気絶させようとした男は言う
「おーい、なんかガキが入ってきてるぞ」
鉄の棒は男の後頭部から10センチほどの位置で止まっている
いやーこれは無理だわ
だって知らないもん
「ア?マジカ」
奥から別の声
(まずいまずいまずいまずい殺されるか身売りの流れだこれどうするどうする)
頭は真っ白になり来た道を見る
「はぁーつんだわ、むりむり」
考える気も失せた。
来た道はきれいにお風呂に入ったことすらなさそうな男で埋められている
(はぁーあ、力なき主人公はここで敗れました。)
「こいつどうします?」
「とりあえずイレギュラーだ地下に女と同じくつるしとけ」
意識はそこで切れた
ひどく血を流した気がする
とりあえず異世界召還一日目にして見事終わりを告げた。
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