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異国探訪  作者: 黒井丸
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ある大工の話

この作品はフィクションです。

実在の国・団体・ハウスメーカーとは一切関係がありません。

ある大工の話


このp国について?

いい国だよ。実にいい。

この国に来てよかったよ。

仕事は全てが予定通りに事が進むし、するべき事が決まっていて迷うことがない。

本当にいい国だよ。


無理矢理言わされているんじゃないかって?

とんでもない。

実は私は、君たちの国から移住してきたんだ。


何をするのも自由、職業も自由、他人を蹴落とすのも自由。

餓え死ぬのも自由の国からね。


気を悪くしたかい?


ではひとつ面白い話をしよう。

俺はあの国では大手のハウスメーカーの下請けをしていたんだ。

大手の家の建て方を知ってるかい?



工期が命。



決められた時間に家を完成させなければいけないんだ。


そんなの当たり前だろ?って。


とんでもない。

家を建ててる時に雨が降ったら君はどう思う?


コンクリートで基礎を作るとき、屋根も出来上がってないのに大雨が降ったら床が水浸しになる。

二階を建ててる途中なら最悪天井にカビだって生えてしまうだろう。


普通ならそんな日は工事を延期するだろ?


お客様に水浸しになった床や、カビの生えた家なんて渡したくないもんな。


でも大手のハウスメーカーはやる。


例え大雨が降ろうが台風が来ようが予定通りにやる。

工期に間に合わせれば不良品でも良いんだ。

お客様から文句が出たら造った俺たちのせいに出来るからな。

でも工期が間に合わないのは自分達の責任になる。だから不良品でも造らせる。


酷いと思うかい?


大金を出して家を買ったお客様が可哀想と思わないのかってね。


それは正しい。


でももう一人可哀想な人間がいるんだよ。


雨とか台風の中で働く俺たちの待遇には酷いとは思わないだろ?


この話をすると、それくらいお金を貰ってるから当たり前だろって言われるんだよな。


怪我をしても工事が終わるまでは休めない。

あの国の人間は俺たちを家を作る奴隷か道具と思ってるのかね?

つまり俺たちはあの国では人間として扱われてないんだ。

お客様のためならどんなに過酷な状態で働いても可哀想とも思って貰えないんだよ。

で、二言目には「それはその職を選んだお前の責任だ」だ。


あの国は職業選択の自由はあるかもしれない。


でも俺みたいに頭の悪い人間には酷い職業を選んで奴隷以下の扱いを受けるか無収入で死ぬ自由しかないんだよ。



人間なのに人間扱いされず、いつ職を失うだろうかと不安にばかり襲われるあの国に比べたらここはよっぽど天国さ。

少なくともここでは餓え死ぬ自由がない。

機械の歯車のように大事にメンテされて扱って貰えるんだ。

最後は苦しまずに始末してもらえる。

俺はあの国にいた時「死にたい死にたい。いっその事、殺してくれ」と何度も呟いたよ。この国ではそんな事はない。

雨で仕事がなくても食い扶持は支給されるしどう働くかは指示がある。

人手はたいせつだから過労死や鬱にならないように管理はしっかりしている。

年老いて物乞いのような真似をしても生きられないような悲惨な状態になって、人間の尊厳を失う前に処分してもらえる。


この国にきてから「金が稼げなくなったらどうしよう」とか「工期が間に合うのか」とかの悩みに怯えて眠れない日なんて一日もない。

俺から言わせればこの国は天国さ。

なあ、あんたも無茶な締切で徹夜とかしたことのある業種の人間だろう?

人権とか人間らしさとか言いながら、使い捨ての道具のように扱われて、いつ失業するか怯えて暮らす自由のある国と

最初から道具として長持ちするように大事に扱われる自由のない国。



住むならどっちがいい?



俺は頭が良くないから、凄い夢もない。


ただ体に悪いような過酷な仕事をしたくない。

与えられた仕事して普通に生活したい。

無茶な工事の責任や損失補填を要求されたくない。


炎天下で十時間以上働いてもあの国では生活が出来なくなった俺から言わせれば逆に聞きたいね。


あなたの国は良い国かい?

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