異世界勇者は女神に会う
よろしくお願いいたします!
「人の子らよ。そなたらは死にました」
宙に浮いた女はシンプルに、今の状況を説明した。
自分で殺したくせに、よくそんなことを言える。
ただ、ここで突っかかるような真似はしない。
まだ奴には勝てないと、俺の勘がしつこく忠告してくるからだ。
しかし、身の程も知らない豚がブヒブヒと騒ぎ出す。
木の家に帰れ!
「し、死んだって?!う、家に帰してください!まだ、見ていないアニメが沢山あるんだ!」
「無理です。元の世界のあなたたちの体からは魂が離れ、既に数日経っています。いくら私でも、それを元に戻すことは出来ません」
「そ、そんな?!うそだうそだうそだ!家に帰せ!」
「静かにしてください。さもないと……」
女が手を掲げたかと思うと、豚の方からヘギョッという音がした。
俺は女が手を挙げそうになった瞬間、勘に従い目をつぶったため何が起きたか分からないが、十中八九ロクなことは起きてないだろう。
彼女の目も隠しておいて良かった。
良かったな、豚。
レンガの家に帰れて。
小声で彼女が話しかけてくる。
(ど、どうしたのかじま君?!急に私の目を覆って)
(だ~れだ)
(かじま君!)
(そうだ、これをやりたかったんだ)
(ほ、ほんと?言ってくれればいつでも付き合ったのに)
なんて、やり取りをしていると。
「潰してしまいますよ」
豚の声は聞こえない。
目を開けると、そこにいたはずの奴がいなかった。
きっと出荷されたのだろう。
ここに来た役割を果たしたということだ。
あと、この女、それは潰す前に言ってあげた方が良かったんじゃないだろうか。
本人への忠告にはなっていないと思うんだが。
まあ周りの者たちへは、効果が十分あったようだが。
彼らは豚のようにならないよう、声を抑えているようだった。
「分かっていただけたようですね。何よりです」
全然そう思って無さそうな表情で、女はのたまう。
「さて、あなたたちには今、2つの選択肢が用意されています」
女はピースする。
「1つ。モンスターが跋扈し、魔法の使えるふぁんたじぃな世界へ、新たな身体とともに転生する」
中指を折り曲げた。
「1つ。先ほどの方のようになってしまうか」
人さし指を折り曲げ、拳を捻り曲げるような仕草をした。
それを見た周りの人が、ビクッとなっていた。
どうやら、豚は弾けて混ざったようだ。
魔法って言ったな。
って言うことは、さっきのも魔法を使ったのだろうか。
俺も使えるようになりたいもんだ。
俺の勘によると、余裕で使えるようになるみたいだ。
「2つ目を選ばれる方はこちらに集まってください。時間がないので、まとめて対応して差し上げます」
当然ながら、女が指定する場所に行く者はいなかった。
なごみさんは不思議そうに首を傾げていたが。
「皆さん、転生するということで良いみたいですね。良かったです」
全然そう思って無さそうな表情で、また女はのたまった。
実質、一択だからな。
酷い選択肢もあったもんだ。
「では、過酷な世界に挑む皆さんには、特典をいくつか与えましょう」
そう言うと、女は両手を掲げた。
その両手の先を見ていると、キラキラとしたものが落ちてくるのが分かった。
勘に従い、宙にあるキラキラを拾えるだけキャッチする。
地面に落ちたキラキラは、溶けるように消えてなくなっていた。
「そしてこれです」
女は俺たちの方に手を向けると、謎の何かを送ってきた。
ああそう言うことね。
「言葉が分からないとしょうがないですからね」
特典はすべて終わったのか、女神は満足したというように頷く。
無表情だったため、全然そう思って無さそうだったが。
「さて、勇敢なる者たちよ。最後に1つあなたたちに伝えることがあります」
なんだろう。
ロクなことじゃなさそうだが。
「もし、とある条件を満たせば、あなたたちの願いを1つ何でも叶えましょう」
周りにいる者たちがどよめく。
女が拳をキュッとすると途端に静かになったが。
「とある条件とは……」
女がもったいつけるように途中で言葉を止めた。
「自分で探してください。それではさようなら」
唐突な別れの言葉とともに、辺りが真っ白に染まった。
彼女とは別の場所に行くことになりそうだが、多分大丈夫だな。
と、俺の勘が言っている。
ほんとに大丈夫かな。
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