表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/34

異世界勇者は迷い込む

 宿探しが振り出しに戻ってしまった。

 まさか、あんなに怒られるとは、俺が何をしたんだろうか。


 裸を見ただけのはずだ。


 怒られるに十分である。

 自業自得だ、しょうがない。


 まあ、償いはしたはずだ。

 一応、グモンの実あげてきたし。

 物で解決出来ることなのか、甚だ疑問ではあるが、やってしまったことは仕方がない。

 何とか許してもらえますように。


 それはともかく、俺の勘よ。

 頼む、仕事してくれ。


 すると、勘はこっちこっちと言うように、俺をまた導いていく。

 信じていいのだろうか。


 しばらく勘の赴くままに歩いていると、ここだと言うように騒ぎだした。


 ふむぅ。

 ただのボロ屋にしか見えないが。


 とりあえず、扉を開けよう。

 ギシギシ。


 あれ、中身は割りと綺麗だな。


「あら、お客さん?」


 綺麗なアルトの声に振り向くと、頭に角が生えたお姉さんがこちらを見ていた。

 あの角どうなってんだ?


「多分そうだ」


「多分? 誰かの紹介じゃないのかしら」


 紹介?


「いや、勘の赴くままに歩いていたらここに着いた」


 すると、そのお姉さんは目を点にした。

 そんなに驚くようなことなのか。


「ここがどういう店かは知ってるの?」


「いや? 宿を探していたらここに着いた」


「な、なにそれ……」


 お姉さんは呆れたように笑った。


「ここは宿なのか?」


 とりあえず、俺はお姉さんに確認する。


 すると、彼女はなぜか俺の方に手を差し出してくるではないか。

 とりあえず、お手をする。


「違うわよ、カジマさん」


 む、何で俺の名前知ってるんだ?


「何で俺の名前知ってるんだ?」


 思ったことをそのまま聞いた。


「タダでは教えられないわ」


 なるほど。


「情報屋とか、そういった類いか」


 すると、お姉さんは少し、驚いた表情を見せる。


「……本当に勘が良いのね」


「まあ、それだけが取り柄なもんで」


 お姉さんはうん、と頷いた。

 うーむ、やっぱり気になる。


「お姉さんの頭に付いている角はどうなっているんだ?」


 聞いてしまえ。


「あら、魔族を見るのは初めてかしら」


「魔族……」


 うむ、初めてだ。

 人間以外はいなかったからな、前世には。

 そも、魔族なんていう言葉自体、意味が分からん。


「初めてだな。何か字面的に人間と仲が悪そうだな」


 すると、お姉さんはまた、手を差し出してきた。

 俺はグモンの実を一粒、ポッケから取り出して、お姉さんに聞く。


「これ一粒でどのくらい答えてくれる?」


「……そうね。3つまでの質問には答えてあげる」


 すごい。

 グモンの実をメチャ凝視している。

 やっぱりこれが欲しかったのか。


 しかし、三つか。

 何だか足下を見られている気がするが。


 ま、情報って大事だしな。


 俺は実をほいっと、お姉さんに放り投げる。

 お姉さんは丁寧にキャッチ。


「……昔は争っていたこともあったわ。尤も、一部の国では未だに争っているけどね」


「へぇー。俺たちとそんなに変わらないように見えるんだけどな」


「人間なんてそんなものよ」


 うむ。

 それは否定できないな。

 何せ前世でも人間同士、暇さえあれば争っているんだもんな。

 諸行無常。


「あと2つ。何を聞きたい?」


「えーと、じゃあ5000以下で泊まれる宿を教えてほしい」


「そんなことでいいの?」


 お姉さんは目を丸くしている。


「今一番の死活問題なので」


 何せ、このままだと寝れる場所がないのである。

 シスターに言われたように、ほんとに野垂れ死にするしかない。


「……ここから2軒、左隣にあるお店は、私の紹介だと言えば格安で泊めてくれるはずだわ」


 お、素直にありがたい。


「ありがとう。助かります」


「それほどでも」


「じゃあ、あと1つは……」


 言葉を区切った俺に対し、身構えるお姉さん。


「お姉さんの名前は?」


「へ?」


「だからお姉さんの名前」


「からかってるの?」


「うん」


「からかってるの!?」


「すんません、冗談です」


 おっと、悪いクセである。


「俺にとって、お姉さんの名前にはそれほどの価値があるということだ」


「……口説いてるの?」


「自意識過剰だな」


「辛辣すぎじゃない?!」


「すんません、冗談です」


「……ほどほどにしてほしいわ」


 お姉さんは困ったというように、頭に手をやっている。

 その顔が少し、赤く染まっているように見えるのは、俺が自意識過剰だからだな、きっと。


「……メストよ」


「メスト、さんですね。俺はご存知のとおり、カジマです。よろしく」


「……よろしく」


 よし、これで心配ごとがなくなったな。


「それじゃ、俺はメストさんが紹介してくれた宿に行ってきますね」


「……ほんとにいいの?こんなので」


「ええ」


 腐るほどあるからな。

 あれ、そう言えば、あのトランクの中っていつまで物を入れておけるんだろう。

 結構、置いておけるらしい。

 さすがに、ずっとそのままっていう訳にもいかないか。

 まあ、物を収納しておけるだけで、破格の性能だろうからな。


「ま、これからもよろしくお願いします、ということで」


「……分かったわ」


 今後お世話になることもあるだろうからな。


 よし、そうと決まれば。


「んじゃ!」


 俺は手を上げ、メストさんに別れの挨拶をする。


「え、ええ。それじゃ」


 メストさんが困惑気味に返してくれたのを確認し、俺は扉の前に立ち、ノブを回した。


 ギシギシと、入った時と同じ音を聞きながら、俺は外に出ていった。

 

 

お読みいただきありがとうございました!


よろしかったら、ページ下部にあるブクマや評価を付けていただけると嬉しいです!


当方のもう一作「その箱を開けた世界で」もどうぞよろしくお願いいたします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ