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異世界勇者は実を譲る2

よろしくお願いいたします!

 マリと美人がいた部屋を追い出され、ちびっ子たちと一緒に最初に入った部屋で待っていると。


 先ほどの扉から、マリと彼女に身体を支えられた美人がやって来た。


「……お待たせ」


 テーブルに備え付けられた四脚の椅子のうち、ちびっ子たちに占領されている以外の椅子に、美人を座らせたマリが言葉をかけてくる。


「ああ、全然待っていない」


 何だか待ち合わせ場所で待ち合わせしたカップルみたいになったが、マリがまだ小さいおかげで何とも思わないのが救いである。


 しかし、改めてこうして見ると何ともちぐはぐな一家(?)である。


 一番年上の美人、シスターっぽい服装をしている、は俺と同い年くらい。


 マリは恐らく、前世で言うと小学校高学年くらい。

 ちびっ子三人組み、いや四人組みは上から小学校低学年、幼稚園の年長、年中、年少っていう感じだろうか。


 何はともあれ、今も俺をガン見しているシスターへ向かって、自己紹介しとこう。


「先ほどはどうもありがとうございました。いい光景を見せていただいて。俺はカジマです」


「死にてぇのか?」


「死にてぇのか、さんですか。変わったお名前ですね。よろしくお願いいたします」


「名前なわけねぇだろうが!」


 病人っぽいのによくこんなドスの利いた迫力ある声を出せるもんである。

 ほんとに病人か?

 あっ、でも凄んだ後ゴホゴホ言ってるから一応は無理してたみたいだな。


 あと、シスターみたいな恰好をした人がそんな強い言葉を使わないでほしい。

 ほら、ちびっ子たちも恐がっている、と思っていたが、変態を見るような目でこちらを見ている。

 うん、それで合ってるよ。

 警戒心がなくて不安だと思っていたが、何だやればできるじゃないか。


 俺が満足したと言わんばかりに笑顔で頷いていると、マリから咎めるような目線が。


「……真面目にやって」


「いや、すまない。自分に正直に、をモットーに今まで生きてきたもんで」


「ふん、おめでたいもんだな」


 うるせぇ!

 この病人が!

 とっとと俺にもらったグモンの実を食べて、元気になるまでベッドで寝てやがれ!


 あれ?

 そう言えば、ベッドとベットってどっちが正しいんだ。

 いや、全く違う意味か。

 そんなことはどうでもいい。


「それで、そこの美人さんは起きてて大丈夫なのか?」


 俺はマリに聞いた。

 ふるふると首を横に振る。


 ふむ。

 そもそもだ。


「俺があげたグモンの実はこの人にあげたのか?」


 またもふるふる。

 うーむ。

 まあ、得たいの知れない男からもらったものを警戒するのは分からなくもないが。


「グモンの実が欲しかったのは、この姉ちゃんにあげたかったからだよな?」


「……そう」


「グモンの実がどういったものかは?」


「……知ってる」


 マリは寂しそうに頷いた。


「ええーと、シスターさん」


「んだよ変態」


「グモンの実食べなかったの?」


「……よく分からない男からもらったもんなんか食えるか」


 ケッ、と横を向くシスターは服装と言動がまったく一致していない。


 そのギャップ、○だと思います。

 出来れば、その足首まで隠しているスカートに長いスリットを入れてくれれば言うことはない。


 とまあ、それは置いといて。


「シスターさんは病気なんですよね?」


「……気持ちわりい呼び方をするんじゃねえ」


「シスターさんは何の病気なんですか?」


「話聞け!!」


 ゴホゴホ。


 あーあ無理するから。


「病人なんだから無理するもんじゃありませんよ。ほら、子どもたちも心配そうな表情をしているじゃありませんか?」


「……どう見ても、お前を冷めたで見てんだろうが」


 あっ、本当だ。

 ちっちゃい子たちにそんな目で見られると、本当に変態に目覚めてしまいそうなのでやめてほしい。


「そもそも、ここはどう言った施設なんです?孤児院?」


「……聞いてどうする」


「いや、単純に気になっただけなんですが」


「……なら首を突っ込むな」


 中々の頑固さんである。


「マリ。ここは教会?」


 なので、俺は標的を変えてみた。

 すると、シスターは俺にギンと強い視線を向けた後、マリにも一瞥した。


「……余計なこと言うんじゃねえぞ」


「……」


 マリはどうすればいいかという困った表情になっている。


 俺もどうすればいいか教えてほしい。


「ここに泊まりに来たんですが」


「野垂れ死ね」


「この家でですか?」


「外でだ」


 ふーむ。

 取りつく島もないとはまさにこの事だ。


 となると。


「ふむ。マリ」


 俺は手を差し出した。

 マリはギクッとした表情をする。


「……だめ?」


「だめも何もそう言う条件であげたんじゃないか」


 宿がないとなると、実は返してもらうしかない。

 あげてもいいんだが、タダでたかることが出来ると思われるのもうまくない。


「それにシスターさんが食べないにしても、マリがそれを売り捌くのは出来ないんじゃないか?」


 何せ、冒険者ギルドでさえあんなことが起きるのだ。


 俺よりも小さく、しかも少女のマリなのだからなおさらである。


「可哀想になぁ。姉ちゃんを治すために、せっかく見ず知らずの男へ盗みを働こうとしてまで実を手に入れようとしたのになぁ。しかも、失敗したらどうなるか分からないってのに」


 俺はただ思ったことを口にする。

 その話は若干盛り気味だが。


「これ1粒で100万だぞ?それをこの家に泊まらせるっていう破格の条件で譲ってもらったっていうのに当の本人がこんな態度だ。報われないよなぁ?」


 俺は畳み掛ける。


「そりゃあ、自分のことだけを考えればだ。こんな得体の知れない男からもらったものを断るのもしょうがないと思うがな」


 シスターさんは強い視線で俺を射抜いてくるが、お構いなしだ。


「こいつらのことも考えたら、素直にもらっといた方が良かったと思うんだけどなぁ」


 まあ、俺を信用出来ないっていうならしょうがない。

 実際、自分でも胡散臭いと思うからな。


 俺はそう補足した。

 マリは諦めたように、俺の手にグモンの実を乗せてきた。

 俺は受け取ったそれをパクっと食べた。


「……あっ」


 マリが思わず小さな声を漏らした。

 うん。

 やっぱりうまい。


「んじゃ、マリ。ありがとな」


 俺はマリに声をかけて家から出て行こうとする。

 あっ、その前に。


「そう言えば、マリ」


 俯いていたマリは俺の声に反応する。


「お前の姉ちゃんにはいいもんを見せてもらったから、これお礼だ」


 俺は一房、グモンの実を取り出して、テキトーに二、三粒をもいで食べると、マリに放り投げた。

 マリは目を見開いて、空中にあったそれを丁寧にキャッチする。


「うまくやれ。要らないって言うなら、捨ててもいいぞ」


 まだまだ腐るほどあるからな。


「んじゃ!」


 俺は呆然とした様子のちぐはぐな家族に、笑顔を浮かべながら別れの言葉をかけた。

お読みいただきありがとうございました!


当方のもう一作「その箱を開けた世界で」もどうぞよろしくお願いいたします!

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