異世界勇者は知らない空間にいた
よろしくお願いいたします!
気付いた時には、俺は何もない真っ白な空間に佇んでいた。
何だここは。
人間死んだ時は、どいつもこいつもこんなところに来るようになっているのか。
俺は辺りを見回す。
よく見ると、俺だけじゃなく何人か、いや、それどころじゃない。
何十人かの人間が同じように立っていた。
その人種は様々だ。
黒人、白人、自分と似たような顔をしているアジア人など、ここで何かの世界大会を開けるのではと思うほどの面々だ。
そして、俺の勘が言っている。
こいつらも俺の勘のようになにがしかの力を持っている、一癖も二癖もあるような奴らだ。
何せ、こんな状況になっているっていうのに、取り乱している奴らがほとんどいない。
いや、一人いた。
奴だ。
無様だな、あの子も取り乱していないって言うのに。
「ど、どうなっているんだここは?!い、家にいたと思ったら突然、目の前が暗くなって気づけばここにいたぞ」
知りたくもない状況説明どうもありがとうよ。
俺は奴に気づかれないよう、身を低くするが。
俺の勘は言っている、奴は俺に気づくということを。
「む、そこにいるのは根暗ではないか」
相変わらず語彙力が少ない奴だな。
そういうあだ名を使えば、俺を罵れると思ってやがる。
あと、何でお前は妙なところで勘が冴えるんだ、イラつく。
「おい、僕をとっとと家に帰せ根暗」
まるで、俺が連れてきたみたいにそんなことをほざくな。
「知らん、自分で帰れ、豚」
多分こいつは、とある目的で連れてこられたんだろうなと俺はあたりをつける。
自分の運命も知らずに呑気なことだ。
「んなっ?!ぼ、僕にそんな口を利いて、クラスのみんなが黙っていないぞ」
こういう奴らが大勢いた。
一部の人間が俺をぞんざいに扱い、それをさも自分もそこに参加して、俺をそう扱えるだけの力を持っているかのように考える、めんどくさい奴らが。
そもそも俺は、その一部の人間も相手にしてなかったけどな。
罵りたければ勝手にどうぞっていう感じだった。
「知るか。ここにそのクラスメイトがいるように見えるのか。分かったら、工場に戻って出荷される準備でもしとけ」
俺の言葉を聞いた豚が、ブホブホ鳴いていると。
「かじま君!」
俺に声をかけてくる女の子がいた。
やっぱりあの子もこっちに来てたか。
トラックから助かっても、その後のことは助からなかったか。
どう死んだかは想像がつくが、あまり知りたくない。
せっかく助けたのに意味がない。
その子は、俺のそばでブヒブヒ鳴いている豚には目もくれず、俺に向かって突っ込んでくる。
俺はそれを。
受け流す。
あっ、地面に突っ込んだ。
恰好がスカートなもんだから、中身が丸見えだ。
む、黒か。
それはまだ早いだろう。
そう思いながら、素早くスカートを元に戻す。
幸いにも、気付いた奴は一人もいない。
良かったな、下着を見られなくて。
「痛ーっ!かじま君、何で避けるの?」
「突っ込まれてきたら、それは反射的に避けるだろう」
「こんな美少女から突っ込まれる人なんて滅多にいないよ?」
確かに美少女だが。
「美少女は自分を美少女とは言わないだろう。あと、女の子が突っ込むなんて言わないように」
「何でー?」
「君が知るにはまだ早い」
「かじま君はいつもそれだよねー」
育つところはちゃんと育っているくせに、そういうところは無防備だ。
正直、俺も男だから非常に困る。
「な、なごみさん?!」
ブホブホ鳴いていた豚が彼女に気付いた。
名前を呼ばれた彼女がそちらを見ると、少し顔をしかめる。
彼女にしては珍しい表情だった。
いや、女の子であれば誰も彼もがそうなってしまうか。
「えーと、どなたでしょうか?」
彼女は学校で有名だった。
美少女だったから。
だから、彼女が知らなくとも向こうが知っているなんてことはざらにある。
「ぼ、僕は耀宗田。そ、それよりもそんな根暗と一緒にいるよりもぼ、僕の近くにいた方がいいよ!ここは何が起こるか得体がしれないし、その根暗もなごみさんに何をするか分かったもんじゃない!」
豚は自分のことを棚に上げて、そんなことを言う。
っていうかお前、無駄に名前がかっこいいな。
どこぞの恋愛ドラマに出てくる、主人公のような名前だ。
「す、すいません。勘弁してください」
彼女は豚にそう返した。
それを聞いた豚は、なぜか俺の方を睨んでくる。
恨むなら俺じゃなく、豚みたいな体型になった自分を恨むんだな。
わらの家に帰れ!
そんなやり取りをしていると、俺の勘が騒ぎ出す。
どうやらお出ましだ。
元凶が。
突然、真っ白な空間が眩しく光った。
掲げた腕を避けた先に女がいた。
そいつは人間の姿をしていたが宙に浮いており、その容貌が明らかに人間離れしていたため、一目見て人間ではないと分かった。
「人の子らよ」
そいつは口を開いた。
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