異世界勇者はギルドを出る
よろしくお願いいたします!
「それじゃあ、おとがめなしということで構いませんか?尤も、私は盗みなどという犯罪は犯してないので、おとがめなしというのも変かもしれませんが」
「……ええ。結構です。この度は誠に申し訳ございませんでした」
ナーシャはまた頭を下げた。
この世界のお偉いさんは簡単に頭を下げるなあ。
んなもんだから、深いところが見えること見えること。
いくら俺とは言え、視線を向ける場所に困るほどだ。
ま、見るんですけどね。
「頭を上げてください。鑑定の件については、結構です。今回で終わりにしましょう」
その言葉を聞いて頭を上げたナーシャは不思議そうな顔をしていた。
いや、だって。
「あの方は自分の非を認めて謝るような方ではないと思うので」
「……確かに」
あの受付嬢には直接謝ってもらうようお願いしたが、さすがにあのイベリコにそれを期待するのは難しい。
まだ、豚が言葉を喋る可能性の方が高いくらいだ。
実際に喋っているからな。
それに、立て続けにギルド長に頭を下げられたのに要求をまた出したら、周りからやいのやいの言われるに違いない。
なら、ここは素直に謝られておこう。
うむ、めんどくさい。
「では、とりあえず」
俺は豚の圧縮を解いた。
汗だくだ。
湯気まで出ている。
近寄りたくない。
「帰りますね!」
「……はっ?」
「んじゃ!」
俺は爽やかな笑顔を浮かべながら手を上げ、堂々と帰宅の宣言。
正直この場にいたら、あのブーヒーブーヒー言ってるやつにどんな難癖をつけられるか分かったもんじゃないし、周りから注目を浴び続けるのもやかましい。
「そのうちまた来ます!」
「そ、そのうちっていつ?!」
「出荷されたら」
豚がな。
「しゅ、しゅっか?」
ナーシャは俺が何を言っているか分からないといった具合だ。
大丈夫。
俺も時々分からんくなる。
それだけテキトーに喋っているということだ。
俺はギルドの押し引き扉の出入口に向かう。
まさかの展開に周りはざわざわしている。
そりゃ、するよね、こんな破天荒なやつがいたら。
俺だってするだろう。
でも自分がやる時には、ちゃんとした理由があるもんで、別にいいやっていう感じだ。
あ、エイリーがこっちを見ていた。
その顔は相変わらず美人だがまだ少し赤くなっており、手には俺が押し付けたグモンの実一房が大事そうに飾られている。
どうでもいいが、あんだけ人目にさらして大丈夫かね?
結構なものなのに。
まあ、爆弾王女なんて言われているだけあって実力はありそうだし、自分から絡みに行く勇気のあるやつは酒飲んだ酔っ払いくらいだろうから、心配はいらないか。
俺はまた爽やか、と自分では思っているギコッとしたぎこちない笑みを浮かべ手を一振り。
彼女は身体ごとぷるんと勢いよく横を向いた。
ふむ。
最後まで素晴らしい光景を見せてくれるものだよ。
お姉さん治るといいね。
そんなことを思いながら、ようやく出入口に着き。
やおらにギルド内に振り返り、丁寧に一礼。
呆気に取られている雰囲気だね。
そのまま出ていった。
しかし、そこで思い出した。
金がない!
一万でどのくらいもつのだろうか。
……。
なんかすぐに戻ることになりそうである。
しまった。
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当方のもう一作「その箱を開けた世界で」もどうぞお楽しみください!




