異世界勇者はガン見する
よろしくお願いいたします!
俺の言葉に元気っ娘の受付嬢のチャームポイントは鳴りを潜めた。
ううむ。
自分で言っててなんだが、かなり穴がある論法のような気がしなくもない。
本当に盗んで来た可能性もあるだろうと言われたら、後はやったやってないの水掛け論になるしな。
やってないことを証明するなんて、無理だろうからな。
まあ、やったっていう証拠も出てこないだろうが。
実際、グモンの実なんていう凄いものを手に入れたら、普通は黙っとくものなんだろう。
俺はそこら辺が全然分からなかったから、テキトーにほいっと出してしまったが。
ほんとに肝心な時に勘が働かないものである。
ただ、さすがに一方的に盗んで来たものだなんて言われたら、反論しない訳にもいかない。
こういうやつらは声だけはでかいから、ほっとくといつの間にか本当のことのように周りに思わせてしまうし、何より言われっぱなしというのも面白くない。
取り敢えず反論はしたから後は、相手の判断に任せるしかない。
最悪はサヨナラバイバイである。
そろそろ豚が燻製されそうなので、身体の圧縮だけは解いてやる。
「私が言えることは以上になります。後はそちらの判断に任せるしかないのですが、いかがいたしましょうか?」
「……そ、それは」
「はい!ストーーップ!!」
突然の第三者の声は恐らく女性。
声の方に目を向けると、ふむ。
ピンク髪より上があったとは、世の中は広いものである。
男どもの視線がこれまた釘付けだ。
お前ら情けないぞ。
チラチラ見るんじゃなくて堂々と見ろ!
肌は褐色、元気っ娘のように日に焼けているというような感じではない。
銀髪のポニーテールはさらさらだ。
顔は、人間じゃないみたいに整っている。
少し怖いくらいだ。
髪の合間から見えている耳は、人間のよりとんがっているので、人間ではないのかもしれない。
限りなく人間に近い容姿はしているが。
「ギ、ギルド長!」
「いやー、ごめんね!気付くのが遅れて」
あたしのとこまで情報が回ってこなくてさー。
参ったよー、なははー。
笑いながらほよほよと震わせている。
もはや凶器だよ。
それにしても随分とまあフレンドリーなギルド長である。
まあ、上司があれだと部下は仕事しやすそうだ、羨ましい。
ギルド長は元気っ娘と何事か話をし終えると、こちらに視線を向けてくる。
「おい、お前ら散れ散れー!見せもんじゃないぞー」
そう言って手をバッと振り回すもんだから、ギルド長の一部分が見せもんになっていた。
取り敢えず、ガン見しとこう。
堂々と見れば犯罪じゃないはずだ。
ギルド長の言葉に野次馬たちは渋々散らばっていく。
っていうかそう言えばここ、受付だったね。
でも、今更だね。
「それで、君がグモンの実を持ってきたっていう……」
「はい!カジマと申します!」
「そっか!いやー、ごめんね!あいつ位だけは高いからさー。みんな逆らえないもんで、情報を止められてた」
俺もこの暴力には逆らえない。
目線を上げられない!
「……ねえ、そろそろいいんじゃないかな?」
「いえ!お構い無く!」
「それはこっちのセリフじゃないかなー」
確かにそうだ。
訴えられても叶わないので視線を上げた。
「まあ、いっか!減るもんじゃないし!」
そんな有難い言葉と同時に腰に手を当て背筋を伸ばす。
震度なんぼくらいだろう。
取り敢えず拝んでおく。
いや、しかしフレンドリーなだけじゃなく、サービス精神まで旺盛とはすごい人物である。
俺の勘もざわざわと騒いでいる。
少し注意が必要みたいだ。
俺は顔をキリッと引き締める。
「何か君、変わってるねー」
ギルド長の目が興味深いものを見るようなそれに変わる。
と、それよりもだ。
「今、立て込んでたんですが、どうなさったんですか?」
「そう、その件!どうやら、あの鑑定士だけじゃなく、うちの娘も大分失礼なことしちゃったそうで、本当に申し訳ない!」
そう言って、頭を下げてきた。
周りが少し、ざわつく。
野次馬は散ったが、やはり注目はされている。
んー、トップがそう軽々しく頭を下げるのは良くないと思うんだけどなー。
でも、ここで許さないと悪者になるのはきっと俺だ。
そこら辺も計算して頭を下げているんだろう。
やっぱり要注意だ。
「ちょっとお聞きしたいことがあるんですが」
でも俺には関係ない。
悪者になろうが、知ったこっちゃない。
何より俺は悪いことをしていないのだ。
なら、堂々とするし、堂々と見る!
いや、見るのは若干悪いことのような気がするからほどほどにだな。
だから、あえて質問をする。
許すという言質は与えん!
俺の言葉にも周りはざわざわと。
「……何かな?」
ギルド長は頭を上げる。
少し、当てを外したっていうような顔だ。
それ、流行っているのか。
「あなたはどなたでお名前は?ちなみに私は先ほど名乗り上げた通りカジマと申します」
少ーし、嫌みったらしく。
「……これは失礼!ここラスカの街、冒険者ギルドのギルド長をしているナーシャと申します」
ナーシャは目礼した。
どうでもいいが、ここラスカって言うのか。
初めて知った。
「そうですか。それで、ナーシャギルド長。あなたは私に頭を下げましたが、そちらがどういったことをされたかというのはどこまで聞いていますか?」
「……まず、受付嬢がグモンの実の買い取り価格を偽ってあなたに伝えたという話は、彼女から教えていただきました」
ナーシャは元気っ娘に手を向ける。
俺は頷いた。
「私にその偽りを伝えてきた本人はどうなさっておいでなんですか?あなたに頭を下げていただかなくても、本人に頭を下げていただければ私は結構なんですが」
「……後日、謝罪させます」
「承知しました。では、それが済めば、この件に関しては終わりにしましょう」
まあ、ギルド長からの謝罪は受け取れないということだ。
「……分かりました」
それが分かったのだろう。
再びナーシャが頭を下げてくることはなかった。
「では、その件以外では、話をお聞きになりましたか?」
「……又聞きですが」
「ふむ。では、私からもお伝えしておきましょう」
そう言って、俺は豚さんに人さし指を向ける。
「あの方が私を盗っ人だと、声高々に糾弾なさりました。当然、私は盗みなど働いておりませんので、反論させていただきましたが」
「……はい。私が聞いた話と違いはないです」
「それで、疑問に思ったんですが」
俺は一呼吸置いて続けた。
「私を疑わなかったんですか?本当に盗みを働いたと」
ナーシャはピクッと耳を動かす。
それどういう仕組みなんだ。
「……正直なところを申し上げますと、あなたと話をするまでは半信半疑でした」
しかし、とナーシャは続ける。
「こうして話をしたら分かりました。あなたは嘘を言っていないと」
んー、それすごい能力だな。
「嘘をついているかどうかが分かる、ということですか?」
「……詳しいことはお話し出来ませんが、そう捉えていただいて構いません」
それ、すごいな。
俺の勘と似たような話だってことだよな。
いや、俺は人が嘘をついているかどうかが分かるわけではないのだが。
勘で何となく胡散臭そうだなというのが分かるだけだ。
そう考えると、嘘をついているかどうかが分かるというのは破格な能力と言えるのではないだろうか。
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