異世界勇者は疑われて反論する
よろしくお願いいたします!
「……お、お待たせいたしました……」
なんだ?
元気っ娘が元気なさげだ。
「ふん、貴様がグモンの実を持ってきたという輩か」
「……だとしたら?」
「持っているものを全て出せ!」
「なぜ?」
「ふん!冒険者にもなっていないヒョロッチくて弱そうな男がグモンの実など持っているはずがないであろう!大方、盗みでも働いて売りにきたのだ!盗品を取り締まるのもわしらの役目である!今なら全てここに出せば、盗みの件について不問にしてやらんでもない」
だから、とっとと出すんだな!
そいつは最後にそう付け加えた。
んー、金にがめついやつが多いな。
俺はそいつを無視して、うつむいている元気っ娘に話しかけた。
「すいません、元気っ娘さん」
俺の声に顔を上げた彼女は、自分のことを言っているのかというように人さし指を自らの顔に向けた。
俺は頷く。
「少しお聞きしたいことがあるんですけど?」
「おいっ!わしをむっ……?!」
でっぷりの口に圧縮と。
自分の口を開こうと、力を込めている様子が滑稽だ。
あの女に出荷された豚よりも醜い豚だ。
養豚場に帰れ!
「最近、ここら辺でグモンの実って販売されてましたか?」
「……いえ」
俺の問いに不思議そうな表情を見せながら、否定の答え。
「オークションか何かで売りに出されたとかは?」
「……ぼ、じゃなくて、私の知る範囲ではありません」
「グモンの実を手に入れることが仮に出来るとすれば、物凄く強い人かその物凄く強い人を雇った大金持ちのどっちかくらいだと思うんですが、どうですか?」
「少なくとも普通の人物には難しいと思われます」
豚はまだ暴れている。
醜いから身体全体に圧縮で、身動きを取れなくさせる。
あれだ、圧縮がいい感じにかかってボンレスハムみたいになっている。
しかも、何かさっきより圧縮できる範囲が広まってる気がしなくもない。
「さて。そこの豚……じゃなくて、豚は先ほど私に向かってフゴフゴ鳴いてきました。ブヒ!゛冒険者にもなっていないヒョロッチくて弱そうな男がグモンの実など持っているはずがないであろう!大方、盗みでも働いて売りにきたのだ゛ブヒ!と」
「……はい」
「可能でしょうか?」
「……はい?」
「冒険者にもなっていないヒョロッチくて弱そうな男が、普通の人物ではないような物凄い方たちの目を掻い潜って、盗みを働くことは」
「……」
「よしんば盗めたとしても、大変な出来事です。もしグモンの実を手に入れることができるような大金持ちの貴族の方であれば、お触れを出して大々的に公表する。もしくは、それが貴族としてまずいと判断された場合は、凄腕の刺客を雇うなどして私に報復してくるでしょう」
大したことない私のことなどすぐにバレてしまうことでしょう。
そうなれば大したことない私にとっては一溜りもありません。
豚は未だに蠢いている。
顔が赤くなって苦しそうだ。
圧縮解除。
「……っブヒッー?!っ……」
また圧縮、と。
ちょうど面白いタイミングで圧縮を解除できたものである。
「もし、物凄く強い人から盗んだとすれば、同じように報復だ。今ごろ私はきっと、ここにはいない。そう思いませんか?」
「……はい」
「と、言うことはだ」
俺はさらに畳み掛ける。
「仮にこのグモンの実が本物だとすれば。私がそれを持ってここにいるという理由として考えられるものは2つ」
俺は指を二本立てた。
「1つは盗みを働いた。グモンの実を手に入れることができるような方たちの目を掻い潜って」
つまり、私は彼らよりもさらに物凄いということになる。
人さし指を折る。
その状態で手の甲を豚の方に向けてやる。
豚はさらにわめいた。
口を圧縮しているので、何て言ってるか全く分からないが。
「2つはグモンの実を実際に取ってきた。この街の近くの森のさらに奥に生えているという話は私も聞きました」
当然、私は盗みを働いていないので、こちらの方法でこの実を持って、この場にいるということを断固主張しますが。
中指を折る。
元気っ娘は呆気に取られている。
「さて、元気っ娘さん」
「……は、はい!」
「先ほどここら辺でグモンの実が流通したという話はないとおっしゃっていましたよね」
「は、はい!」
「なら私は、どこでこの実を盗んで来ればいいのでしょうか?」
「そ、それは……」
「どこかの誰それがグモンの実を盗まれたという話は聞いていましたか?」
「い、いえ」
「そう考えると、私がグモンの実を取ってこれるほどの実力を持っていて実際に取ってここに来た、という話が1番現実的な答えだと思うんですが、いかがでしょうか?」
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