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異世界勇者は実を譲る

よろしくお願いいたします!

 深いところだった。


 俺のお願いをうやむやにするため、結局はエイリーの続きの質問に答えた。


「……やっぱりね」


 ようやく納得したというようにエイリーが頷いた。

 ついでにぷるんと。


 エイリーはその下で両腕を組み乗せた。


 ふと気になったんだが、冒険者やってて、それはきつくないのか?

 重くて。


 たださすがにそれも質問にしてしまうと、冗談では済まなくなりそうなので、目に収めるだけにする。


 いや、まっこと絶景なり!


「……グモンの実」


「はい?」


 俺はその声が聞こえないフリをして、耳に手を当てた。


「グモンの実」


「ワンモアタイム!腹のそこから!」


 俺の言葉に律儀にも深呼吸を一つ。


「グ……」


「グモンの実ですね。分かりました」


「聞こえてんじゃないのよ?!って、さっきもこのやり取りしたじゃないの!!」


 分かってないなあ。

 被せた方が面白いだろ?


 俺は首を横に振った。


「何で、こいつ何もなってないなあ、っていう顔をしながら首を振ってんのよ!!」


 やはり洞察力とツッコミが優れている。

 俺たちコンビを組んで、天辺取ろうぜ!


 俺がどうやって、そちらの道に引き摺りこもうかと誘い文句を考えていると。


「……100万ジェルよ」


 何を言っているのだろう。

 耳掃除は死ぬ前日にしたはずなのだが。


「何がですか?」


「それの値段の相場。一粒ね」


 どうしよう。

 値段を崩壊させるような勢いでこれを持ってしまっているのではないだろうか。


「何でそんなに高いんですか?」


「場所のせいよ。採ることの出来る」


 あんたは森って言ったわね。


 エイリーは俺の先ほどの言葉を引き取り、俺の疑問について説明をし始めた。


「確かに森だわ。浅いところであれば、低ランクの冒険者でも入って問題ないほど安全な場所」


 だけど。


 エイリーは続ける。


「あるところを境にあそこは幻惑を見せるようになるわ。1度入ったら、出てくることは難しいし、討伐ランクAランクを超えるようなモンスターがうじゃうじゃいるわ。Sランク以上の冒険者でさえ、あそこには行きたがらない」


 ふむ。

 じゃあ、ロングリー様たちってかなり危ない、際どいところにいたんじゃないか。

 一歩間違えれば、幻惑されていたかもしれない。

 確かに、あの豚だか何だかよく分かんないようなモンスターも強そうな雰囲気があった。


 本当に命を懸けていたようだ。


「……あんたはどうやって戻ってきたの?」


「どうやって、って。強いていうなら勘ですね」


「……はい?」


 俺の答えにエイリーが目を白黒させる。


 まあ、そうなるわな。

 俺だっておかしいと思うもん。


「勘です」


 俺は強調するようさらに言葉を繰り返した。


「……勘だけで戻ってこれるほど、あまいところじゃないはずなんだけど」


 ふざけて答えていると思われて怒られることも覚悟したが、意外と冷静だ。


 話せばわかるタイプなのかもしれない。

 もったいない。


「まあ、ここに私がいるということが全てですね」


「……」


 エイリーはそれ以上、何も言ってこなかった。


「……ねえ。それなんだけど売っ……」


「じゃあこれお礼にあげます」


 俺はもう片方の手でポッケから実を一房取り出し、エイリーの手に握らせる。


 もともと持っていた一粒は口に含む。


 うん、うまいけど。

 肉とかもガッツリ食べたくなってきた。

 

 グモンの実を買い取ってもらって今夜はパッーと行くかなどと、ウキウキしながらその場を離れようとしたが。


「ま、待ちなさいよっ?!」


 なぜかエイリーが俺を引き留めてきた。

 手まで握ってくるおまけ付きだ。


「どうしました?」


 俺は取り敢えず手を気持ち握り、その感触を堪能する。

 うむ、柔らかい。


「受け取れないわよ!!」


 俺のそんなセクハラ気味な行動には気付かず、そう言って俺が握らせたグモンの実を突っ返そうとしてきた。


 俺はそれを。

 受け流す、どんくさく。


 でんぐり返しである。


「あんた何してんの?!」


 俺の行動にエイリーは引き気味だ。

 それでいい。


 俺がウンウン頷きながら、しれっとその場を離れようとするが。


「ま、待ちなさいよ?!」


 今度は俺の前に回り込んできた。

 ぽよよんんと。


 素晴らしい。

 鼻血が出そうだ。


「……あんた何で上向いてんの?」


「気にしないでください」


 それより。

 俺は続けた。


「何で受け取れないんですか?」


「何でって……。あんた話聞いてた!?一粒100万よ?!これだったら、下手したら何千万になる可能性だって」


「だからお礼です」


「……はっ?」


 またも呆とした表情を見せるエイリーに向かって、俺は続ける。


「あなたは私に嘘を教えることも出来たはずです。この通り冒険者にもなれていないような初心者だ。騙すのは簡単なはずです」


「……」


 エイリーは沈黙を守っている。


「あなたに嘘を教えられたら最後。私は大量のグモンの実を売り払っていたことでしょう。1万ジェルなどというお金を作るために」


 でも、そうはならなかった。

 まあ、そうなる前に俺の勘が止めてくる可能性はもちろんあったけどな。


 しかしながら、実際俺は感謝していたのだ、この少女に。

 言動は荒いが、根は良い娘なのだろうきっと。

 色々すばらしい光景も見せてくれるし。

 ちゃんと感謝出来る人間なのである、私は。


「恐らくあなたはこの実が欲しいのでしょう。だから売ってほしいと。嘘を言って安く手に入れることも出来たはずなのに」


「……打算で本当のことを言ったのかもしれないわ」


「打算で結構!先ほどの受付嬢より特段マシ、というか、別に悪いことはしてないと思いますが」


 俺の言葉にも、まだ納得した表情を見せないエイリー。


「それでも、タダでなんて受け取れないわ……」


「じゃあ、1万」


「……はっ?」


「それ以上を払いたいって言うんなら身体で支払ってもらおうかな~」


 俺はニターと嫌らしい笑みを浮かべながら、エイリーの身体を舐め回すように見渡す。


 まごうことなき変態の所行だ。


 まあ何はともあれ、これで俺に一万だけ渡し、変態!って罵りながら去っていただけることだろう。


 俺はそんな期待を込めてエイリーを見つめていたが。


「……分かったわ」


「……ワット?」


 なんだこいつ。

 痴女か?


「ワタシの身体でどのくらいの代金が支払えるか分からないけど」


 そう言いながら、恥ずかしそうにチラチラとこちらを見てくる。


 ハハーン。

 さては惚れたな?

 グモンの実に。


 違うらしい。


 なるほど。

 じゃあ、俺に惚れたな?


 そうらしい。


 正直、エイリーに惚れられる要素が全く見当たらないんだ。

 俺がエイリーに対してしたことと言ったら、うん。

 セクハラのオンパレードだ。

 前世だったら、お縄になっても文句は言えないだ。


 俺が黙っていたためだろう。

 またもエイリーが何事かを言ってくる。


「それとも、ワタシみたいに経験が1度もない生娘の身体じゃ満足できない?」


 なぜかショボーンとした表情で、こちらを見つめてくる。


 経験がないとは。

 まっこと美人の持ち腐れである。


「ええと……」


 どうしよう。

 何か大変なことになった気がする。


 かくなるうえは。


「とりあえず、1万くださいな」


 俺は手をエイリーの方に向けた。

 慌てた様子で懐をガサゴソ。


 うん。

 柔らかそうだ。

 自由自在に形を変えている。


 この光景だけで、グモンの実一房分の価値があるのだ、私にとっては。


「……ほら」


 エイリーが俺に何かの紙幣を渡してきた。

 一万って書いているな。


 俺は満足げに笑顔を浮かべて頷くと。


 突然のダッシュ!


 エイリーは呆気に取られている。


 一番列が少ない受付に並ぶ。


 ここまで来れば、さすがにもう大丈夫だろう。


 と思ったが。


「ちょっと?!話はまだ終わってないんだけど!!」


 後ろに振り返ればピンク髪である。


「なんだよもー。1万もらったんだから、それで良いじゃないかー」


「だ、ダメなの!そんな、ただタダ施しを受けたなんて知ったら、ワタシの姉様が怒るの!」


「お姉さんが病気なの?」


「……うん」


 なんかしおらしくなってる。


 これも可愛いけどね。


「エイリーさんが自分の身体を売って手に入れたなんて知ったら、それこそ怒ると思うんだけど?」


 セクハラな要求をしたのは棚のどこかに放り投げ、そんなことを言ってみる。


「……でも、ワタシにはそれくらいしか払えるものが」


「楽しかった」


「……へ?」


 恥ずかしっ。


「エイリー、さんと話せたのが楽しかった。それは私にとって、その実一房分の価値があったということです」


 お姉さんにもそう説明すればいい。

 男にこんなことを言われて、実をもらったって。


 俺は付け足した。


「……」


 エイリーは顔を赤らめ、ポーとした表情を見せている。

 いつもそれが出来れば、今の数倍はモテることだろう。


 俺は最後にニコッとぎこちなく笑み、前に進んでいった。


 エイリーはその場を動かなかった。

 

お読みいただきありがとうございました!


よろしかったら、ページ下部にあるブックマークや評価をつけていただけると嬉しいです!


当方のもう一作「その箱を開けた世界で」もどうぞお楽しみください!


よろしくお願いいたします!

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