異世界勇者は訝しむ
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疲れた顔を見せる受付嬢が俺に、冒険者とは何ぞやという説明をしてくれている。
冒険者にはGからSSSのランクがある、ランクは依頼なるものを達成した実績や個人の実力をもって上がっていく、冒険者同士のいざこざにギルドは関わらないが余程酷い場合は介入するなどなどなど。
他にも色々あったが、個条書きにするとこんな感じか。
「ここまでで、何かご質問はございますか?」
「いえ、特に。分からないことがあったら、また聞きにきます。あなたに!」
あなたに、というところを強調しておいた。
なぜか少し嫌そうな顔をされた。
酷いな。
「……では、冒険者証を作成します。紛失するとペナルティーがございますので、お気をつけください。また、冒険者への登録には1万ジェルかかりますので、お支払いください」
む、今何と言ったか。
「1万……ジェル」
「はい。冒険者という身元を保証するための保証金としてお支払いいただいております」
まずいな。
金持っとらん。
「……ちょっと今、先立つものがないのですが、どうすればいいでしょうか?」
「……何か素材などをお持ちであれば、買い取りも行なっておりますので、よろしければご利用ください」
「なるほど」
むう。
俺の持ち物で買い取ってもらえそうな何か。
あれしかないよな。
でも、あれって出して大丈夫かな。
まぁいいか。
俺はポケットに手を突っ込んで、アイテムトランクを使う。
ロングリー様たちが驚いていたし、あまり人前で見せるべきものではないだろう。
俺は謎の実を一粒取り出し、受付嬢に見せた。
ポケットから得体のしれないものが出てきて、彼女は少し警戒していた。
「これって売れます?」
「……」
訝しげな顔をし、受付嬢が俺の手を除き込む。
瞬間、驚きの気配。
しかし、必死にそれを隠そうとしているようだった。
ふうむ?
「……こちらの品は他にどれほどお持ちですか?」
「大したものではないんですか?」
「ええ。ただ、量によっては1万ジェルの金額には達しますが」
巧妙だ。
勘がなかったら、気付かなかったかも。
しかし、与し易いとでも思われてんのかね、俺は。
「ふうん?」
「……他にお持ちでなければ、そちらを買い取り、1万ジェルに足りない分については依頼を紹介させていただき、その達成金でお支払いいただくという方法もあります」
俺が怪しいという雰囲気を出していることを察知したのか、早口でそんなことを言ってきた。
こいつの列が少なかったのって。
「……性格が悪い?」
「?!」
「いや、失礼。こちらの話だ」
俺の性格悪い発言を聞き、一瞬般若の表情を見せた。
「おぉっと!そろそろ家の妹に薬をやる時間だ!申し訳ないが、そろそろ帰らせてもらうよ!」
「あっ、ちょっと?!」
俺は見えない腕時計を見つめながら、先ほどした嘘話にかこつけて列から離れていった。
受付嬢はこちらの手を掴もうと、その腕を伸ばしてきたが、かわしてやった、華麗に。
そして、まだ固まっているピンク髪の女に話しかける。
「いやぁ、先ほどはあんなことをして申し訳ございませんでした。知らない女の人には気をつけるよう家の妹に忠告されていましたものでね」
俺の勘が、その設定まだ引っ張るの?と言わんばかりに騒いだ気がしたが、まあいいだろう。
俺に話しかけられたピンク髪はまだ、固まっている。
「私の名前はカジマと申します。よろしければ、きれいなきれいなお嬢様のお名前を、わたくしめに教えていただけると幸甚の限りです」
俺の言葉に反応したピンク髪が、ボンと自らの二つ名に恥じないほどの爆発を表情で見せた。
「あ、あ、あんたっ……。キレイって?!」
む、そんなもん聞き慣れているだろう。
「そんなもん聞き慣れているだろう」
やべっ。
無意識に言葉に出していた。
益々、爆発する様子を見せてきたな。
「あ、あんたっ?!ワタシをナンっ……」
「パはしていないですが、名前を教えていただけませんか?」
首を縦に振ったら、見せながら蹴りが飛んでくると思ったので、即座に否定しておいた。
あ、蹴られとけば良かったかも。
そしたら、間近で見れたかもしれないのに。
俺が後悔していると。
「……エ、エイリー」
何事かをピンク髪がボソッとした。
ふむ。
「すいません、聞こえなかったのでもう一度お願い出来ませんか?」
「エ、エイリー」
「もう一度!腹の底から!」
俺が何度も聞いたため、エイリーは息を深く吸ったので。
「エ……」
「エイリーさんですね。承知しました」
「聞こえてんじゃないのよ?!」
ウガーと足を上げる仕草を見せたので、勘の赴くままに横にずれる。
「んなっ?!」
エイリーは俺の見た目からは想像もできないような機敏な動きに驚いているようだ。
俺は一言アドバイスをしてやる。
「スカートでそういうことはしない方が良いですよ?」
俺に言われたエイリーは、最初ぽけっとした顔をしていたが、意味が分かったのか。
「エ、エッチ!!」
スカートを抑えて、そんなことをのたまった。
うわっ!
痴漢冤罪はこうして起きるのか!
俺は少し焦りながら辺りを見渡すが、こちらを注目していてもエイリーの叫びに気付いている者はいないようだった。
俺の勘が、やれやれ世話がやけるというように首を振る幻視があった。
すごいな、俺の勘。
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