異世界勇者のいない部屋で
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「……あの少年は一体」
苦しみながらも精一杯の驚きの表情を見せたキューテの父親は、それだけを呟いた。
「不思議な方です」
キューテはカジマが出ていった扉を見続けている。
「……すまない」
すると突然、自らの父親が謝ってきたことにキューテは驚いた。
「……あの少年の言った通りだ。私は病の苦しさに負け、無責任にも全てを放り出そうとしたんだ」
お前がどれだけ、私を治そうと頑張っているということを知っているにも関わらずな。
彼は自らの罪を懺悔した。
「そ、そんな?!謝らないでください!!娘が自分の父親のために頑張るのは当然のことではないですか!」
涙目になりながら、キューテは自らの父親に言い募った。
「わたくしはお父様がどれほどの苦しみを味わっているのか知ることが出来ません!だからその分、わたくしも命を懸けてでも頑張ろうと決めたのです!」
だから、お父様。
諦めないでください……。
生きてっ……。
ついには涙を流しながら、キューテは懇願する。
「……ああ。私は諦めない」
その声は震えていた。
「お父様、これを食べてください」
「……これは」
「先ほど部屋を出ていかれた方、カジマ様がおっしゃっていた奇跡の正体です。これでさらに奇跡が起きなくても……」
わたくしは諦めません。
さらにさらに奇跡を起こすまでです。
キューテの表情には、強い決意がこもっていた。
父親はそんな娘の様子を、眩しいものを見るかのように目を細めていた。
「……ああ。娘が奇跡を起こしたんだ。私も奇跡を起こしてみせるさ」
父親はもう、病の痛みを忘れていた。
痩せていながらも力強く、娘に差し出されたその実を手に持ち、勢い込んだ。
変化は劇的だった。
「な、なんだこれは?!」
最近聞いていなかった父親の大きな声に、祈るように面を伏せていたキューテは期待を込めて彼に視線を向けた。
キューテは仰け反った。
自らの父親がめちゃ光っていた。
「お、お父様?!だ、大丈夫なのですか!?」
父親の見た目の明らかな異変に、キューテは取り乱すが。
「全く問題ないぞ!キューテ!」
父親は笑顔を浮かべて、自らの最愛の娘に近付いた。
キューテは離れていった。
「ちょっ?!なぜ離れるのだキューテ!?」
「ぶ、不気味です!収まってから近寄って来てください!」
「酷いぞキューテ?!」
その間にも父親が放つ光は、ますます強くなっていく。
やがて一際、目映くその身を光らせると、徐々にそれは収まっていく。
その後。
キューテの目の前にいたのは、元気だった頃の父親の姿だった。
「きゅ、キューテ」
「お、お父様」
二人は抱き合った。
彼女らの目には、雫が何粒も垂れていた。
それを見たシェーリーとマサムネも、二人以上に感極まるのだった。
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