表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/34

異世界勇者は熱くなる(柄にもなく)

長いですが、よろしくお願いいたします!

 ようやく女騎士の用事が終わり、馬車の方へと戻ってきた。


 ロングリー様は律儀にも、先ほど話をしていた場所と同じところで待機していた。

 

 馬車の中に入って待っててもらっていても、問題なかったんだけどな。


「お待たせいたしました!申し訳ございません!」


 自らの主を待たせていたことに今更ながら気付いた女騎士は、慌てて走り寄る。


「いえ、問題ありませんよ。それで彼は何と?」


 不安そうな表情を見せながら、ロングリー様は女騎士に問いかける。


 うーん、あの表情は演技なんだろうか。

 演技らしい。


 すごいな。

 勘がなかったら、確実に騙されているぞ。

 なぜか俺の勘が、失敗したというようにチッと舌打ちしたのが聞こえたような気がした。

 おい。


「え、ええ。取りあえず、話は聞いていただけるとのことでした」


 先ほどの俺とのやり取りを思い出したのか、少しどもりながら報告しているな。

 耳が赤くなっているぞ。


「?そうですか」


 そのせいで、お嬢様が不思議そうな顔をしているぞ。

 年相応な表情に見える。


 いや、彼女は俺よりも相当、年上なんだろうな。

 特徴があるし、勘も言っている。


「ごほん。えーと、カジマ様?」


 気を取り直すように一咳入れ、ロングリー様が俺に話し掛けてくる。


「はい。なんでしょう?」


 俺はものすごい爽やかな良い笑顔でロングリー様に返事をする。

 女騎士が俺の笑みを見て、ますますその顔を赤くする。

 うん、やっぱり鼻水ないとすごいな。


「お話を聞いていただける、とのことでしたが」


「はい。僕の力で対応できそうなお話であれば協力させていただきたいと思います」


「ありがとうございます。助かります!」


 そう言って頭を下げてきた。


 取りあえず偉い人が頭を下げてきたんだから、上げさせた方がいいよな。


「いえ。頭を上げてください。その立場にいらっしゃるような方がそう簡単に頭を下げるものじゃないですよ。それに、まだ手伝うと決まった訳じゃない」


 それを聞いたロングリー様は頭を上げた。

 まるで少しあてが外れたというような顔をしている。

 

 俺の言葉を聞いた部下らしき人間が俺を怒鳴ってくる。


「き、貴様っ!ロングリー様にそんな口を利いて何様のつもりだ!?」


 そっちを見ると、見覚えのない男がいた。

 ああ、さっき女騎士に命令されても一歩も動かなかった男か。

 どうりで見覚えがないわけだ。


「たわけがっ!!」


「なっ?!」


 俺に葛を入れられた男は突然のことにあ然とした表情を浮かべる。

 勘に従い、口を回す。


「自分の主が頭を下げているのに貴様はそこに突っ立ているだけか?本来ならば、貴様が主と仰ぐロングリー様が頭を下げるような事態になる前に貴様が何とかすべきだったんじゃないのか?それこそ、貴様が俺に頭を下げるくらいのことはしてしかるべきだろう!貴様が本当にロングリー様を主と仰いでいればだ!」


 勘によると、こいつはロングリー様の対立勢力の家の関係者か。


 って言うことは。


「さっき死んでた4人はあいつとの関係者か」


 うわ。

 話がめんどくさそう。


 いや、勘によるとどうやらそうでもないらしい。

 どういうことだ?


 勘は教えてくれない。

 おい。


「一体、何を言っている!?」


 んー、焦ってるなあ。


「ただの独り言よ!それで、どうする?」


「どうするとはどういう意味だ!?」


「今、正式に決めた!貴様がロングリー様の代わりに頭を下げるのなら、この話を受けてやる!ロングリー様の部下として、頭を下げないのならこの話はなしだ!」


「なっ?!」


 ロングリー様は驚愕の表情を浮かべる。

 それはしてほしくなかったという顔だ。


 案の定、俺に怒鳴ってきた男は、かかった、というような顔を隠してるつもりなんだろうなという顔で再度、俺に怒鳴ってくる。


「ふっ!どこの馬の骨とも知れぬ者に私が頭を下げるか!ロングリー様のためにも、貴様には引き下がってもらう!」


 口ではロングリー様のためと言っておきながら、表情はしてやったりというものをしている。


 ロングリー様も本物の絶望を滲ませた。


「ふっふっふっ」


 あまりにも可笑しくて笑いが込み上げてきた。


「な、何がおかしい?!」


 そんな俺を薄気味悪く思ったのか。

 その感情を隠すように強い口調で叫んできた。


「ロングリー様」


 俺は男を無視して、ロングリー様に向き直る。


「は……い」


 ロングリー様は何とか、俺に答える。

 自らの協力要請を断られることを想像しているのだろう。

 その顔は真っ青だ。


「聞きますが、あの男はあなた様の部下でしょうか?」


「……はい?」


 ロングリー様は何を言われているか分からないというような顔をする。


 いや、先ほどまで俺に突っかかってきた男も含めて全員が同じ顔だ。


 劇団「貴族様ご一行」でも開いた方がいいんじゃないかというほどの息の合いっぷりだ。


 俺は畳み掛ける。


「あくまで勘ですが……」


 そんな前置きを入れて。


「ロングリー様たちは大変困っていらっしゃる?」


「え、ええ」


「それこそ、藁にもすがる思いだ。可能性があるなら何でも試したい」


「は、はい」


「それが例え。森の中で急に現れて自分たちと戦っていたモンスターに魔法を使った、得体のしれない男の手を借りることでも」


「そ、そうです」


「貴様っ!何が言いたい?!」


 俺の不穏な空気を感じ取ったのか、男いや奴が俺に剣を振り上げて襲いかかってきた。

 とっさのことに女騎士たちは反応できない。


 襲いかかってきた奴。

 俺はそれを。

 背負い投げ。


 身動きできないように服を圧縮してやろう。

 その上から土をかけてやる。

 この、この、この。


 奴を海でカップルが悪ふざけしたような状態にしてやった。

 頭だけは外に出してやる。

 ついでに、股間の辺りにちょこんと一センチほどの棒を立ててやった。


「ぶふっ?!」


 女騎士たちの方から吹き出す音が聞こえた。

 どうやらお気に召したらしい。


 俺はそちらにお辞儀をしてやる。

 ヒューヒューと指笛が聞こえた。


 よく見ると、隊長の男運が悪いと言っていた部下Aと部下Bだった。


「な、何がおかしい!」


「ぶふっ?!」


 俺は思わず吹き出した。

 女騎士たちも同様だ。


 何がおかしい、って?

 おかしくないところがないぞ。


 よく見ると、ロングリー様も笑いをこらえていた。


「わ、私にこんなことをしてタダで済むと思うなよ!!家の者が黙っていないぞ!」


「ぶふっ?!」


 また、笑わしてくれる。


「ほう?一体どんな目に合わせてくれるっていうんだ?」


 やばい、可笑しすぎて口調が崩れる。


「なっ?!そ、それは……タダでは済まさない!!」


「100円か?」


「はっ?」

 

 この世界でも同じ単位なのか分からないが、そんなことを言ってみた。


「タダでは済まさないんだろ?100円あげれば許してくれる?」


 舌を出し、テヘッと可愛くお願いしてみる。


 女騎士たちはもう立っていられないみたいだ。

 笑いは世界の次元を越えていくな。


「きっ、貴様ーーーっ?!」


 意味が分かったのか。

 おちょくられてる。

 奴は俺を憎々しげな顔で睨んでくる。

 身体が砂に埋まっているせいで全く恐くないんだけどな。

 ついでに、ちょこんと立っている棒が良いアクセントを醸し出している。


 俺はまだ一人で大騒ぎしている間抜け奴をほっといて、ロングリー様に話しかけた。


「それでロングリー様」


「?!はっ、はい」


 ロングリー様は姿勢を正した。


「えーと、どこまで話をしましたっけ?」


「得体のしれないカジマ様の手を借りたい、というところまでです」


「ふむふむ。ならば、続きです。その得体のしれないカジマの手を借りたいという話はあなたたちの部下には伝えている?」


「はい!例えわずかな可能性だとしても何でもやるということを、カジマ様へ協力をお願いするということを、みなさんにはお伝えしております。例え私が頭を下げたとしても」


 表情を見ると、嘘を言っていないことが分かる。

 勘もそう囁いてくる。


「ならばもう1度お聞きします」


「は、はい」


「奴はあなた様の部下か?」


 今もまだ、間抜けな恰好で醜く騒いでいる男を指差して、ロングリー様に再度、問う。


「?!」


「あなたのその心意気を知り、それでもなお、あなたの代わりに、自らの主であるはずのあなたの代わりに、その頭を下げなかった奴はあなたの部下か?」


「そ、それは……」


「私は先ほど奴にこう伝えました。゛ロングリー様の部下として、頭を下げないのならこの話はなしだ゛」


「っ?!」


「奴があなたの部下でないなら、私の問いはその前提条件から間違えていることになる」


 俺は再々度、同じことをロングリー様に聞く。


「奴はあなたの部下か?」


 もはや指すら差さなかった。


「いえ、奴はわたくしの部下ではありません」


 その答えを聞いて、再度問う。

 今度は回りに聞こえるような大声でだ。

 はあ、なんか柄じゃないような気もするが。


「ならば、少し条件を変えて再度、問おう!」


 勘はもう仕事をしていなかった。


「ロングリー様の部下として、ロングリー様の代わりに頭を下げる者がこの場にいるのなら!」


 大きく息を吸う。


「私が持ちうる限りの力を持って、ロングリー様に協力しよう!」


 これで誰も頭を下げなかったら、俺は一人で熱くなったタダのイタイ男だと心配したところだが。


「「「お願いします!!!」」」


 どうやらお嬢様は随分、慕われているようだ。


「み、みなさん!」


 俺はロングリー様に向き直る。


「協力させてください」


「あ、ありがとうございます」


 泣き笑いの表情でお礼を言われたが、笑ってくれたほうがいいんだけどな。


 ほんとに柄じゃないな。

 その場のノリって怖いね。

 まあ、いいか。

お読みいただきありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ