異世界勇者はお嬢様と会う
よろしくお願いいたします!
ドナドナされていった先にいたのは、先ほどの馬車の主だった。
場所は街の出入りの邪魔にならないところだ。
「お礼が遅くなってしまい申し訳ございませんでした。わたくしキューテ・ロングリーと申します」
「ご丁寧にありがとうございます。僕はカジマと申します」
「カジマ、様でございますね」
「はい!そうです!ではロングリー様もお忙しいでしょうし、僕はここでおいとましますね!」
俺は爽やかな笑顔を浮かべて、別れの言葉を述べる。
そのまま颯爽と去れるかと思ったが。
「あいや待たれい!」
女騎士からまた抱き付かれた。
中々いいものを持っている。
「あなたは何でそんな満足そうな顔をしているんだ?」
「いやー、柔らかくて」
女騎士は俺の正直な感想を聞いて、恥ずかしそうにバッと離れる。
なんだ無意識にやっていたのか。
「んじゃ!」
改めて別れのあいさつをする。
「お前ら、逃がすな!」
今度は自分で抱きついてくることなく、部下の男どもにその役割を命令していた。
はぁ。
「な、なんだ、あの動きは?!」
俺の動きを見た女騎士が驚いた声を出す。
俺は受け流していた。
来る男、来る男を。
上から来る男には姿勢を低くし、下から来る男には横へ移動し、横から来る男には縦に移動し。
って言ってて、どっちが縦でどっちが横か分からなくなった。
とまあ、勘の赴くままに避けていたわけだ。
そしたら、いつの間にか掛かってくる男がいなくなった。
「あいにくと、男に抱きつかれて喜ぶ趣味はない!」
女騎士はあんぐりと口を開けていた。
お嬢様はあらあらと口元に手を当てて、笑んでいた。
「んじゃ!」
再度、別れの言葉を述べる。
「あ、あいや待たれい!」
女騎士が恥ずかしそうに身体を張って止めにきた。
俺はそれを。
受け流す。
「なんで?!」
女騎士は地面に突っ込んだ。
形の良い、ってこのくだりさっきもやったな。
「いつまでもチャンスがあると思うな!甘えるな!」
俺は怒鳴る。
女騎士は、俺にいきなり理不尽に怒鳴られビクッとして、こちらを仰ぎ見る。
抱きつかれるのも捨てがたいが、女騎士が涙目になるのもいいよな。
そんなことを思っていると勘が少し騒ぐ。
危険を訴えるものではなかったので、待っていると。
トスッ。
軽い衝撃。
「わたくしは柔らかいですか?」
「ひ、お嬢様お止め下さい?!はしたありませんよ?!」
「いかがですか?」
お嬢様は女騎士の注意を聞き流し、俺に再度、聞いてくる。
うむ。
柔らかいかそうでないかで言えば。
「ボリュームが足りない」
「んなっ?!」
「そうですか……」
お嬢様はそう言うと、ショボンとして俺から離れていく。
「あ、あなたはお嬢様に何ていうことを言ってるんだ?!」
「君の方が柔らかい」
「んなっ?!わ、私の話はいいのだ!そ、それよりも……」
「君に引き止められたら、話を聞くかもしれないなあ」
「んなっ?!」
「んじゃ!」
俺は素晴らしい笑顔で別れを告げる。
「あ、あいや待たれい……」
すごく恥ずかしそうにしながら、俺を控えめに引き止めてくる。
俺はそれを。
受け流した。
そのまま地面に突っ込む。
「なんで?!」
「聞くかもしれないなあ、としか言ってない」
「ひ、ひどい?!」
俺は女騎士が本気で涙目になっているのを見て、満足な笑みを浮かべて頷く。
「な、なんであなたは、そんな満足そうに笑っているんだ?」
「満足したから」
「何に!?」
「教えない」
俺は女騎士の質問に答えなかった。
俺の顔を見た女騎士はガクリと。
「わたしに抱き付かれた時より嬉しそうな顔をしている……」
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