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入学時テスト その後

 入学時テストの後。まだ空は青いが、太陽の位置は正午に比べれば随分低い。


そんな中、試験を終えた新入生たちは、部活がないのですることもなく、ぞろぞろと帰っていた。それは、花音と美雨も同じであった。ちなみに、大地たち上級生は今日は登校していない。


 そうした状況の中、通学路に花音の愚痴が小さく響く。

「なによあの試験!無茶苦茶よ!」

 そんな花音に、苦笑とも言えない微妙な顔をしながら、美雨は言った。

「でも、全部クリアできたんじゃないですか。やっぱりすごいですよ、私なんて初めのテストから、ぼろぼろだったのに」

 美雨のカチューシャについた、小さな猫耳はちょっぴり垂れ下がっていた。


 花音は、

「美雨はいざというときに動けるから大丈夫よ。それに、一つ目のテストは美雨の能力とは相性が悪いもの」

となぐさめてみる。だが、美雨は

「大抵のことは努力でなんとかなりますよ。やっぱり努力が足りないのかな…」

と、余計に落ち込むばかりである。美雨の努力志向な姿勢には感服するばかりなのだが、時々こうしてネガティブになるのはいただけないわね、と花音はこっそり思う。


 美雨と花音は、大地の一件以来よく話すようになり、それなりに親しくなっていた。美雨が素直なので質問には必ず答えてくれるおかげで、花音は美雨の人柄をだいたい理解していた。


 瀬織美雨は、全てが平均とも言えるような、平凡な家庭に生まれた。父親も母親も非能力者であるにも関わらず、美雨が能力を持っていたのは単なる偶然である。だがその能力も地味なもので、到底鳳凰学園に入れるようなものではなかった。

 だが、美雨には一つだけ、才能があった。それは、努力である。彼女には、努力をするという一点において、非常に優れていた。花音は、努力次第で天才に近づくことはできるという考えのもと、必死の頑張りで鳳凰学園に入学するに至った。鳳凰学園を選んだのも、鳳凰学園は望む者には奨学金を与えるので、多少は親の負担を減らせるだろうという、実に親孝行な考えからである。

 そんな美雨の能力は、「雨を自在に発生・操作する能力」である。元はただ雨を降らせるだけの能力だったが、修練の結果、自分には絶対に当たらないようにすることができるようになった。花音が感服するのも納得の人物なのである。


 だが、そんな美雨にも、花音は一つ、許せない(というより心配な)ことがあった。それは、周りからすれば些細なことだが、花音からすれば大問題なのであった。


 美雨が口を開いた。相変わらず、猫耳は垂れ下がったままである。

「そう言えば、大地先輩は試験の内容教えてくれなかったんですね」

 花音は、ついにその話題かっ、と勝手に緊張した。そして、なんでもないような口調で

「まあね。兄ぃは妙なところで真面目だから。それに、試験の内容が去年と同じとは限らないしね」

と答えた。すると美雨は、ぼそりと

「そうなんだ······真面目なんだ······」

と呟いた。よく見ると、若干顔が紅いのがわかる。花音は急いで

「別にいつも真面目な訳じゃないのよ」

とフォローを入れたが、あまり効果はなさそうだった。猫耳がパタパタ動く。


 花音が気にしている大問題とは、美雨の恋のことである。

 美雨は、大地に恋をしてしまっていたのだ。それが、花音には気がかりなのだ。花音は、本音を言ってしまえば、大地が失恋でもして落ち込むのなら別に構わないし、勝手にしろと思うのだが、恋をしているのが美雨ともなると、話が変わってくる。花音は、美雨があのろくでなしの大地に振り回されるのが嫌なのだ。素直な美雨が大地のことで悩むのは見ていられないし、よりにもよって大地は自分の兄なのだ。花音は必死で、大地のダメダメなところを伝えようとするのだが、なかなかうまくいっていない。


 そんな事情があり、花音は、とにかく今は話題をそらそう、と思い、考えを巡らせていた。だが、焦っていたせいもあるのか、花音らしからぬ失態をおかしてしまった。

 花音が必死で探したすえ飛び出した言葉が、

「この後私の家来てみる?」

だったのだ。言ってすぐに、馬鹿か私は!大地に近づけてどうする!と自責の念にかられつつ、今のは無し!と言おうとしたのだが。


 猫耳がピンっと立っている。明らかに美雨の様子が異常だった。眉間にしわを寄せ、下を向いて何やらぶつぶつと呟いているのである。

 まだ家に行くのはっ、でも気になるっ、ああどうしよっ、という言葉が聞こえてきた時には、花音は説得をあきらめていた。

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