入学時テスト!
花音が入学して3日後のこと。
花音たち新入生は、入学時テストなるものを受けていた。内容は、筆記と実技。このテストでの実技試験とは、超能力と身体能力の力量を測るためのものだ。このテストの結果が反映された順位表をベースに、今後の学校での立場が決まってくると言っても過言ではない、重要なテストなので、新入生たち(特に名家のものたち)は、冗談ではなく死ぬ気でテストを受けている。
そんな中、筆記試験を終えた花音は、面接室の代わりとして使われている教室の横の廊下で、パイプ椅子に座ったまま、こっそりあくびをしていた。筆記試験から受ける組と実技試験から受ける組に分けてテストは行われているが、何せ人数が多いので、実技を受けるまでの待ち時間はかなり長かったりする。おまけに、花音は気を緩めているわけではないが、特に緊張しているわけでもないので、こうした態度をとってしまうのも、仕方ないとも言える。
そんな状況の中、ようやく目の前の教室から、花音の前に試験を受けていた生徒が出てきた。そのすぐ後に、案内係に
「次の人、入ってください」
と言われ、花音は席を立った。
ドアを四回ノックし、花音は入室する。教室の奥には、校長を含めた三人の教師が座っていた。彼らの前の机には、各々の採点用紙と見られるものがある。
自分だけ試験会場の教室を指定されたので妙だと思っていたが、どうやら校長が直接花音の能力を見るための措置だったようだ、と考えながら、花音は軽く会釈をし、教室の中央まで進んでいく。
花音が立ち止まったのを確認して、校長の隣の何とか先生が、口を開いた。
「これから、入学時テスト実技試験を始めたいと思いますが、確認のために組、番号、名前をお願いできますか?」
どうせ間違ってないことぐらい分かっているくせに、と思いつつも、花音は気だるげに答えた。
すると、やはり分かっていたようで、何とか先生はすぐに言葉を継いだ。
「えー、それでは、試験の説明を始めます。一つ目は、超能力に関する試験です。これから、天井から少しずつ木片を落としていくので、できるだけ多くの木片を避けてください。木片は破壊しても構いません。ここまでで、何か質問は?」
設備のこととか、いろいろと聞きたいことはあったが、とりあえず「ありません」と答えた。
先生が再び話し始める。
「それでは、第一試験を開始します。準備ができたら教えてください」
「できました」
花音は即答した。実際、花音の能力に何か準備が必要なわけではない。ただ、いささか礼儀を欠いていたかと思い、花音は
「······準備はいらないので」
と付け足した。
呆気に取られていた何とか先生だったが、すぐに気を取り直したようだった。
「では、始めます」
先生が言葉をかける。花音は立ち尽くしたままである。おもむろに、校長が手を突き出した。
校長はそれ以上何かする訳でもなかったが、花音の頭上に、天井を埋め尽くす程度の大きさの、黒い正方形の何かが、突然現れた。それは、まるで空間自体にぽっかりと穴が開いたようだった。というか、実際そうだった。
その穴から、ばらばらと木片が落ち始めた。なるほど、校長の能力はテレポート系か、と勝手に納得しつつ、花音は、落ちてくる木片の少なさに驚愕した。後から次々に落ちてきてはいるが、それにしても少なすぎる。
なめてるのかっ、と憤慨しつつも、花音は少し集中する。途端に、木片は燃え上がった。木片は全て花音に触れる前に燃え尽き、散り散りになった。うっとうしいので、花音は風も発生させ、炭化した木片を自分にかからないように風で集めた。能力二つの同時行使という荒業をやってのけながらも、花音に焦りといった感情は一切見受けられない。花音の能力は、体力切れが起こらない限り制限がない。そのため、能力の同時行使のための集中力は必要だが、このような試験など、花音にとっては遊びにもならない。
······はずだったのだが、一分も経過すると、花音は内心焦り始めた。
木片の数がどんどん増えていくのだ。初めのうちは木片一つ一つを、ピンポイントで狙って燃やしていたが、段々と難しくなってきた。
やむを得ず、花音は作戦を変える。
花音の頭上に風の渦ができ、落ちてきた木片が空中で留まった。ある程度たまった木片を、一気に燃やしてしまう作戦だ。
この作戦変更が功を奏し、体力の消費は抑えられたが、それでも限界というものがある。この作戦を繰り返すうち、花音の額には汗がにじみ始めた。
そんな状態になった時に、ようやく木片の落下が止まった。花音は安堵から、息切れを抑えることができない。
そんな花音に、淡々と先生は告げる。
「お疲れ様です。それでは、次のテストに移ります」
ちょっとぐらい休ませてくれてもいいでしょ、と思いつつ、花音は
「試験はあといくつですか」
と尋ねた。すると、
「あと3つです」
という素気ない答えが返ってきた。このしんどい試験があと3回、時間がかかるのも納得ね、と花音は一人勝手に理解した。
その後、花音はどうにか試験をクリアし、解放されたのであった。




