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夏休み 決着!4

 一方、花音たちは組織のリーダーたった一人に対し、何もできずにいた。


 男の能力の限界を超える威力で男を攻撃すればいい。だがそのためには、今の花音の能力では足りない。そこで花音は、詠唱による能力の強化を考えていた。だがしかし、花音は未だ、詠唱を経験したことがなかったのだ。花音はらしくもなく、自信を失っていた。


 そんな時である。


 不意に、花音たちの上でかすかに轟音が聞こえた。それは、大地が闘っていることの証だった。大地が、花音たちの勝利を信じ闘っていることを示す音だった。


 そうか。バカ兄ィも頑張っているのか。


 そう思うと、花音は自分の心が落ち着いていくのを感じた。


 この戦いは、藤堂だけの問題ではない。美雨も氷崎さんも、ついでに花川も巻き込んでしまった。それでも皆、死力を尽くして協力してくれた。私たち藤堂のために。なら、当事者である私が諦めてはならない。


 世界の希望である藤堂が負けていいものか。私は、なんとしてもこの組織を潰さなくてはならない。この男を倒さなければならない。


 そう考えたとたんに、花音は自分の内側から力が湧いてくるのを感じた。これならいける、と花音は確信した。


「お父さん。今なら、いける」


 花音の囁き声に驚いた様子の源竜だったが、すぐに頷き言葉を返した。


「分かった。一発かましてやれ」

「了解」


 花音は静かに目を瞑る。自然と花音の口から言葉が零れた。それが詠唱であると、花音自身も気付かないほど自然に生まれた言葉だった。


「我は求む者」


 私は今、力を求めている


「我が血族」


 私を産んでくれた親、そして兄ィ。


「我が朋友」


 いつも笑顔を作ってくれる美雨。氷崎さん。ついでに花川。


「決して死にたもうことなかれ」


 私がみんなを守る


「私が愛する者たちよ」


 今の私を作ってくれた人たち


「決して、死にたもうことなかれ」


 私が、みんなの希望となる


「我は力を求む者」


 私は、守る力を求める者


「神よ、我に力を与えたまえ。私こそが天使エンジェルオブホープ!」


 たちまち、花音を中心に風が吹き荒れた。一番近くにいた源竜はおろか、一番遠くにいた美晴ですらよろめくほどの爆風。無論、巻き込まれたのは男も例外ではない。


 男は今、微かに畏怖の念を抱いていた。花音から感じるプレッシャー。それは、何物をも破壊する化け物のようなものではなく、救いの手を差し伸べる天使のような。


 だがしかし、天使というのはいつも慈愛に満ちている訳ではない。


 花音は男に問う。


「さあ、あなたに絶望を教えてあげるわ。燃える溺れる斬られる感電する。どれでも好きなのを選びなさい」


 花音が見せた冷笑。その不気味さに、豪胆であるはずの男の背筋が凍る。


「まあ、選ぶ暇なんてあげないけどね」


 そして、花音は能力を一気に解放した。


 爆炎が巻き起こり、たちまち男を包んだ。男が能力を発動させる。確かに一瞬は炎が消え失せた。男の顔に笑みが浮かぶ。


 しかし、炎はすぐにまた現れた。男の体が消しきれなかった炎にふっ飛ばされる。


「ぐうっ······」


 男が呻き声を漏らす。


 だが、男が落ち着く暇もなく、男の頭上に巨大な水の塊が現れた。視界がかげり、上を確認した男の目が大きく見開かれる。

 水の塊から、洪水にも滝にも似た、大量の水の放水が起きた。男の能力で、今度も一瞬水は途切れた。


 しかしやはり、すぐに消滅しきれなくなって滝が男を襲う。その圧力で男は床に叩きつけられた。


 十秒ほど、水圧の苦しみに耐え抜いた男はようやく解放される。


 そこで、続けざまに竜巻が発生した。


「今度は何だ······!」


 呻く男などお構いなしに、攻撃は続く。


 男の体が竜巻の方へ吸い寄せられ始めた。何とか踏ん張ろうとする男だが、足元にできた水たまりで失敗し、足を滑らせた。結果、男の体は天井近くまで舞い上げられることとなる。


 落下し始めた男はどうにか受け身を取ろうとするが、衝撃は抑えきれず床に叩きつけられる。


「がっ······」


 男が再度呻き、身をよじる。すぐに立ち上がることができない。


 間髪入れず、花音の片手を包むように電気が発生する。それを見て、男は焦った様子で立とうとする。


 花音が手を振る。すぐさま電撃が男へ伸び、男の肌に触れた。男の体は水で濡れていた。気絶は免れないはずだった。


 花音が能力を解除する。


 男の服からシュウウという音が聞こえる。男の体が、ゆっくりと床へ倒れていった。それを見て、花音はようやく戦いが終わった、安堵し、床に座り込んだ。詠唱など初めての体験である。体力は尽きかけていた。


 だが。


 男は、気絶してはいなかった。再び男が立ちあがる。その顔が、ニヤリと歪められた。


「惜しかったな。お前たちの負けだ」


 男の着ていた上着がはらりと落ちる。その下には、黒く分厚い服があった。


「この服は防弾チョッキの代用としても使っているがな。そのためだけに着ているわけではない。お前なら、この意味が分かるだろう?」


 男が不敵な笑みで話す。そして実際、花音はその言葉の意味を理解せざるを得なかった。


「まさか······不導体?」

「そのまさかだ。言っただろう、お前の技は監視カメラで散々見たと。俺が何の対策もせず、ここで呆けて待っていたとでも思ったのか?」


 男の着ていた服は、不導体を素材にしていた。つまり、電気を通さない。

 そして、男の能力。電気全てを消滅させることはできなかったが、ダメージはいくらか軽減できているはずだ。


 あと一歩届かなかった。花音は再び能力を発動しようとした。だがもはや体力は尽きてしまった。花音は何を発生させることもできない。もはや、万事休すであった。

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