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夏休み 決着!3

「妙な姿をしていますね。これは、角ですか······角が生えている方は、館の中央にいます。もう一人は、屋根裏部屋とでもいいましょうか、鏡の屋根の下に隠れていますね」

「なるほどね」


 太刀原の言葉に頷き、大地はクラウチングスタートの構えをとった。鏡の館をどうにかしたいので叶を倒したいが、どのみち望に妨害されるので、まずは望をどうにかするしかない。


 そんなことを考えつつ、大地は脚に力を入れた。そして飛び出そうとしたその時。


「おや?」


 太刀原の声に大地の動きが止まる。


「どうした、爺」


 突然止まったので顔を床にぶつけそうになり、不服そうな大地に、太刀原は諭すように言った。


「鏡の館の構造が変わりました。バウムクーヘン状だったのですが、中の鏡は全て無くなりましたね」


 その言葉に、大地はほう、と唸った。


「俺たちの会話が聞こえてたんだろう。望の聴覚も強化されてたって訳だ。場所がばれたんじゃあマジックミラーの意味はないからな、望と俺との一騎打ちにするつもりだ。しかし随分潔いこった」

「なるほどなるほど。しかし坊ちゃまと一騎打ちとは、大胆なことを」


 太刀原が真剣にそう言うのを聞いて、大地はふっと笑った。太刀原への賛同の意味を込めて。


「行くぞ、爺」

「承知しました」


 そんなやり取りの後、今度こそ大地は走り出した。初速が最高速度の大地の体は一瞬で鏡の館に迫り、壁を突き破って中に入った。遅れて、太刀原も素早く侵入する。


 館の端に立つ大地と太刀原。二人の視線の先には、目を爛々と輝かせる望の姿があった。先ほどまでのような幾枚もの鏡の壁は全てなくなっている。


「爺、腕に掴まれ」


 言われるがまま、太刀原は大地の腕を掴んだ。大地の口がにやっと崩れる。


「上は任せた!」


 そう言って大地は勢いよく腕を振り上げた。その勢いのまま太刀原の体が真上に吹っ飛んでいく。

 それを望が見過ごすはずもなく、すぐに跳び上がり太刀原の体に迫る。叩き落そうとした望だったが、足首を掴まれ体勢を崩した。


「お前の相手は······」


 大地が、望を握る腕に力を入れる。


「俺だっ、クソガキ!」


 望の体が地面に投げられ、豪速で叩きつけられた。床が陥没する。


 息が詰まった様子の望だったが、落ちてくる大地の姿を確認して床を転がり、どうにか大地の下段突きを回避した。落下の勢いそのままに繰り出された大地の拳は床を貫通し、大きな亀裂を入れた。


「危ねー危ねー、床抜けるとこだった」


 普段通りの口調で独白する大地の顔面に、望の正拳が迫る。ボゴッ、と嫌な音がして、大地の頬に直撃した。一方で大地の手が、望の首をがっしり掴む。

 大地は大きく振りかぶり、望を今度こそ床に叩きつけようとした。しかし望の頭が床に達する前に望が無理やり放った蹴りが首筋に直撃し、望の脚が首に引っかかって失敗した。


 どうにか振り払おうとする大地だが、望は脚で大地の腕を挟むとぎりぎりと締め上げ、終いにはバキ、と折ってしまった。望の首から大地の手が離れ、望の体が落ちる。


 その背中めがけ大地の蹴りが直撃し、ピキピキと音を鳴らしながら望の体が床を転がっていった。


 うつ伏せになり唸る望の頭部へと、大地のかかとがまっすぐに下ろされた。望は避けられず、顔が床に激突する。パキリと音がした。


 床に顔を付けたまま大地の足首を掴み、望は体を転がした勢いで大地を投げた。宙に浮く大地だが、床に指を触れさせブレーキをかける。


 立ち上がる望。三本あった角のうち中央の一本が折れていた。


 再び向かい合う二人。望はおもむろに四つん這いにになった。


 その体勢のまま、獣のように走り出す。たちまち距離が縮まり、飛びかかった望は大地の首筋に噛みついた。

 ブチブチと音がして、凄まじい勢いで大地の首から血が噴き出す。より一層強く食らいつく望。しかし大地は笑顔のまま。


 唐突に望の口が開いた。その顔が、苦痛で歪められる。腹に、大地の拳がめり込んでいた。望の顔に大地の頭突きが決まり、望の体が大地から離れる。


「損傷部位入替」


 大地の呟きと共に、首の傷が時間が巻き戻るように治り、代わりに折れた方の腕が爆発して目も当てられない状態になった。


「今のは効いたなあ、兄貴じゃ死んでたなあ。ま、相手が悪かったなクソガキ。内臓破裂でもしてんじゃねえか?」


 そんな大地の言葉に、無表情を返す望。しかしその額には脂汗が滲んでいる。他方、笑う大地の口からは血が流れた。双方、満身創痍。


 突然、二人の顔が上を向いた。天井の鏡が割れ、人が落ちてくる。


 落下する影の一つはろくに受け身もできずに床に衝突した。息絶えているようにも見えたが、間もなく息をむせ返し上体を起こした。

 もう一つの影は宙でくるくると回転し、音もなく着地した。それは、太刀原であった。


「おや、あの女まだ生きていたんですか。随分頑張りますね」


 そう言って手を打ち払う太刀原の傍に、大地が歩み寄る。


「さすが爺、衰えちゃいねえな」

「なに、相手がかなり疲労していましたのでね。この程度こなせないようでは、藤堂家の召使いは名乗れませんよ」


 そんな会話のそばで、望が膝をつく。その唇から、弱々しい声が漏れた。


「降参します。姉には手を出さないで」

「そうかい、分かった」


 大地は満面の笑みを浮かべた。


 藤堂家長男大地、対、非超能力者解放戦線最高戦力叶、望姉妹。勝者、藤堂大地。

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