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決着! 2

「マジックミラーであっちから見えるなら、中央に行けば逆に俺の方が有利になるんじゃねえか?」


 大地の呟きに呼応するように、鏡が微かに光る。大地は静かに走り出す。そして、十分な勢いを付けて跳んだ。

 大地の体は天井すれすれに接近した。大地の眼が鏡の館を見下ろす。そして中央の位置に見切りをつけ、天井を蹴った。天井が陥没し、体が霞む速度で大地は落ちた。


 鏡を突き破り、一瞬で床が目前に迫る。と同時に、横から蹴り足が来るのが見えた。だが今度は吹き飛ばされない。同じことを繰り返すほど、大地は馬鹿ではない。

 伸びてきた蹴りを掴み、大地はその脚を自分の方に引き寄せた。蹴りの勢いが減じ、蹴りを放った望がバランスを崩し、大地は無事に着地した。望は足を振り下ろして、無理に足を戻した。


 無言で向かい合う二人。空気が張り詰められる。


 最初に動いたのは大地だった。腹、首、顔に向けて三発の拳を一度に放つ。その全てが確かに決まったが、望は気に留める様子もなく、大地の横腹に回し蹴りを放った。結果、大地の体が回転するが、その勢いで大地の蹴りが望の顔に炸裂した。望が少しよろめいた隙に、大地は着地し体勢を立て直す。

 そして大地が構えようとしたところに、望が突進する。大地はどうにか望の体を抑えるが、望の額に生えた角が大地に深々と突き刺さった。

 しかし大地はうろたえることもなく、望の頭に肘鉄を喰らわせた。さすがに効いたのか、望が呻き声とともに膝を折る。

 そこで大地は望の首を持ち、体を半回転させて思いきり望を投げた。望の体が鏡を突き破り、鏡の館の外へと飛んでいく。大地がにやりと笑う。大地の目論見通りいけば、大地からは望の姿は見えるが、望からは大地の姿は見えないはずだった。そして、実際大地からは鏡の館を囲む一番遠くの鏡が見えていた。ところが。


「叶!反転してください!」


 望が叫ぶのが聞こえた。途端、壊れた鏡は修復し、マジックミラーの見える側が逆になった。つまり、また大地には自分の姿しか見えなくなったのだ。

 そして、鏡の割れる音が聞こえる。身構える大地。


 矢のように望が飛んできた。その勢いに耐えられず、大地の体が飛んでいきそうになるのを、望が腕を掴んで引っ張り、部屋の扉の方へと投げた。大地の体はまっすぐ扉へと飛び、激突した。部屋中が激震する。

 めりこんだ扉から落ちるように床にへたり込む大地。


「これは背骨やったかもなあ。ちょっと休むか」


 そう言って大地がさする腹には、望の角による穴が。だが、どくどくと流れる血はすでに収まりつつある。


「しかし、こんなにしてやられたのはいつ以来だ?ったく、苦労するぜ」


 大地の呟きに応える者はもちろんいない。人の気配すら感じられないように思える静けさ。


「今来ねえってことは、あの嬢ちゃんも疲れたか?しっかし、あの叶とかいう姉の方はどこだ?」


 独白を続ける大地。唐突に立ち上がると、ゆっくり腰を回した。すでに背骨は治っていた。


 扉の向こう側から人が来る気配を感じ、大地はその場を離れ、扉を見た。扉の向こうの人物は少々焦った様子で扉に近づき、扉をガチャリと開けた。その人物が部屋の中に顔をのぞかせる。それは、太刀原であった。


「坊ちゃま!大丈夫ですか?今、轟音がしましたが」

「ああ、大丈夫だ。ちょうどいいところに来た」


 大地が笑みを浮かべる。それは、何か性の悪いことを考えた悪ガキのような笑みだった。


「爺の能力がありゃあ、あいつらの姿が見えなくても戦える。これは、希望が見えてきたな」


 なんのことか分からない様子の太刀原に、大地は経緯を簡単に話す。事を理解した太刀原は能力を発動した。

 そして、太刀原の頭の中に、望と叶の位置の情報が流れ込んでくる。


「分かりましたよ、坊ちゃま」

「よし、反撃開始だぜ」


 大地は、実に楽しそうに構えたのだった。

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