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夏休み 決着!1

 呻く双子を見下ろし、大地は立っていた。その頭では、もはや双子との戦いは終わったこととして、すでに太刀原か花音たちに加勢することを考えていた。よもや花音たちが絶体絶命であるなどとは考えていなかったが。

 大地は、双子の二人に背を向ける。決着はついた。大地の足が扉へと踏み出されようとした、その時。


「どこへ、行くんですか」


 その背中に、声が投げかけられる。苦痛が滲んでいても、その声にはまだ諦念は感じられない。

 大地はふっ、と笑って、少女たちの方に向き直った弱々しくはなっていたが、その目は確かに大地を睨みつけていた。その脚は確かに地を踏みしめていた。


「へえ、頑張るじゃねえか。今更何ができるんだ?とっとと諦めちまえよ」

「私たちは、まだ負けていない」

「いいや、負けたね。圧倒的敗北じゃねえか」

「それでも、私たちにはまだ手は残されているわ」


 叶がそう言うと、望と叶は揃って息を吸った。大地の姿が消え、二人の前に現れる。その腕が二人の首筋を掴み、二人に言葉を発せさせない。


「詠唱か?させる訳ねえだろ」


 大地の口がにやりと開かれる。声にならない呻きが部屋に響く。


「殺したりはできねえが、別に怪我させちゃいけねえ訳でもないんだぜ?」


 余裕ぶる大地。しかし、唐突にその顔が歪められた。

 大地の片腕をナイフが貫いていた。その柄を掴んでいるのは、叶。大地にとってその程度の傷はどうということはなかったが、油断しきっていたからか、ナイフを抜こうと大地の手が二人の首から離れた。その瞬間。

 大地の前に鏡が現れる。大地の視界が塞がれた。鏡の向こう側で、双子が距離を取る音を確かに聞いた大地。しかし、焦ることもなく、まずはナイフを抜こうとする。しかし、特殊な形状のナイフはなかなか抜けない。

 しまいには、双子が詠唱を行なうのが大地の耳に届いてきた。


「まあ、もう少し遊んでやるか」


 軽い気持ちで大地は呟いた。ズボリとナイフが抜けた。

 双子の詠唱が聞こえる。


「私は望む者」

「私は叶える者」

「平穏のための破壊」

「安寧のための闘争」

「例え世界を敵に回しても」

「例え憎しみの刃を向けられても」

「私は片割れ」

「私は未完」

「私たちは二人で一つ」

「決してあなたを見捨てない」


「「私たちは、片翼の鳥(ワンウィングドバード)」」

「能力解放。私はあまのじゃくじゃない」

ミラージェイルハウス


 双子の詠唱が終わる。同時に、大地は目の前の鏡を破壊した。双子は、初めて見た時と同じ自信ありげな無表情を携えていた。

 双子の能力が発動する。大地と叶、望を取り囲むように、巨大な鏡が出現した。さらに頭上にも、天井のように鏡が現れる。

 そうして叶の能力が発動する一方で、大地の視線は望だけに注がれていた。その気配は、大地をして、それも怪物じみた「弟君」の人格をして、危険だと認知された。

 望の髪が唐突に伸び始める。その色は変色し、銀色に淡く輝き始める。額に赤い三本の角が生える。眼は血走り、鋭くつり上がり、血の涙が流れる。荒々しく吐き出される息は白い。そこにいるのは、先ほどまでいた若干のあどけなさをたたえた少女などではなく、怪物、大地のような比喩ではない文字通りの怪物、まさしく鬼だった。


「天邪鬼になる能力。そういうことかよ」


 ほんの冗談で選んだ選択が非常に危険であったことを知り、大地はすぐに意識を改めた。たちまち大地の姿が消え、望の頭上に現れ蹴りを放つ。しかし望は大地の方を見ることもせず、大地の脚を掴み豪快に投げた。大地の体が鏡を突き破り、さらには部屋の壁に激突、落下した。

 すかさず体勢を立て直し、二人の方を見る大地。破られた鏡はすぐに修復されていた。構わず大地は鏡の館へ突っ込んでいく。


 鏡を突き破り中へ入ると、先ほどとは違った様子になっていた。中に新たに鏡の壁ができていたのである。鏡の天井を取り除き上から見れば、バウムクーヘンのように何層にも鏡の壁が張られているのが分かっただろう。

 壊された背後の鏡が再び張られるのを感じながら、大地は動きを止めた。周りを見ても、大地を移す鏡があるだけで、二人がどこにいるのかを探す手がかりが全くなかったのだ。

 だから、大地は耳をすませる。大地の超人的な聴覚が、どんな音も逃すまいと集中させられる。


 そして大地は、前方から鏡が割れる音を聞いた。素早く構えようとする大地。しかしそれすら間に合わなかった。

 大地の目の前の鏡が割れ、鬼と化した望の蹴りが大地の顔を直撃した。再び大地は吹っ飛び、鏡の館から放り出された。望はすぐに鏡の館へ戻り、姿を消した。


 鼻血を流しながらも、大地は立ち上がる。その顔に、笑みはない。


「その怪力とスピードでヒット&アウェイはずるいだろ、鬼畜だな」


 ぼやく大地。しかしその頭では様々な手段が考えられている。


「しかし、どうやって俺の場所がわかった?鏡で囲まれてるのによお」


 言いながら、大地は鏡の館へと歩を進める。


「まあ、いろいろ試せばいい話だな」


 そして、唐突に大地は豪速で館へと突っ込んでいった。

 一枚目の鏡に激突し、鏡が割れる。破片が大地の頬に傷をつけるが、大地は全く気にしない。そのまま二枚目、三枚目と割っていく。

 そして突然蹴られた。鏡の破片で視界が遮られているところを、先回りしていた望に蹴り上げられたのだ。大地はまたしても館の外へはじき出される。しかしその目は、望の背後にあった鏡が透けているのを確かに見た。


 放物線を描き床に激突した大地。腕に破片が突き刺さっている。しかしその顔には笑みが戻る。


「なるほどなるほど、マジックミラーって訳か。鏡と鏡の間の空間にあいつらがいる。俺には見えねえがあいつらは俺を見ることができると。やってくれるじゃねえか」


 大地はまた、鏡の館へと歩を進める。その天才的頭脳を持ってすら、勝利の方法は見つかっていなかった。

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