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夏休み 決戦!9

「花音!!!」

「分かってる!!!」


 花音は、呼ばれただけで源竜に何を求められているかを理解する。すかさず能力を発動した。


 花音の能力は、花音を起点に技を生み出すわけではない。何メートル離れていても、間に障害物があっても、能力は自由に発動できる。それこそが花音が藤堂たる所以であった。


 花音の右手の指がパチン、と鳴り、左手が振り下ろされる。風の斬撃が男へと飛んだ。見えない攻撃に気づく様子もなく、不敵な笑みを浮かべる男。その後ろの空間に炎の玉が発生し、男を狙う。


絶命の指揮(デス・コンタクト)!!!」


 技を放ってなお花音は油断せず、すぐに身構える。花音の目が、ぎらぎらと男を睨みつける。


 攻撃の結果は、簡単に得られた。男は振り返ることもしなかった。それなのに、花音の作り出した風も炎も、一瞬で消滅した。

 それは、視界に入っていなかろうが、同時攻撃であろうが男の能力は関与するということだった。


「じゃあ連続なら!」


 男の能力が常時発動できるとは限らない。消滅させる度に能力を発動させているのだとしたら、発動の合間は必ず存在する。連続攻撃は有効であるはず。花音は手を広げ、指を男に向けて構えた。全ての指の先で炎と電気が混ざり合い、弾を形どる。


「エレクトリック・マシンガン!!!!!」


 一斉に発射された弾は尾を引いて流れるように飛んでいく。しかし、それらは全て男の前で消滅する。それを気に留めることもせず、花音はすぐに第二射を生成、発射した。その後も結果を見ずにどんどん撃っていく花音。しかし。

 その甲斐虚しく、弾は全て消滅した。第五射まで放ち、花音は息切れとともに攻撃を止めた。連続攻撃も、有効打とはなりえなかったのだ。


「ああ、くそ!」


 花音が呻く。その顔には焦りと苛立ちがにじみ出ていた。諫めるように源竜は言う。


「落ち着け花音。どんな超能力にも弱点はある。これだけのことができる能力だ。おそらく消滅できる威力には限度がある」


「でも、どれほどの威力を出さないといけないのか分からない。それまで体力が持つか分からないわ」


花音は答える。花音の声が疲労を帯びる。


 源竜が組織のリーダーに走り寄る。腕を構え、男を殴り飛ばそうとする源竜。

 源竜が殴ってしまえばあるいは、男に加わった衝撃を増幅することで男にダメージを与えられるかもしれなかった。源竜はそれを狙ったのだ。

 しかし、さすがは組織をまとめている者であると言うべきか、男は戦闘にも長けていた。源竜の拳を体をひねってかわすと、すかさず膝蹴りを食らわそうとする。源竜は殴ったのとは別の手でそれを受け止め、足を男の地面についている方の足にかけて後ろに倒そうとする。だが、男は蹴りに使った足を素早く下ろし、重心を変えて踏ん張る。

 源竜は特に鍛えてはいない。それでも、藤堂の一人ということもあり筋力も戦闘センスも人並みではない。そんな源竜の足技を受けて体をぶれさせない男は、間違いなく手練れだった。


 源竜の能力が発動し、男の脚の力が減少する。結果、男が倒れかけた。

 だが、男の能力は脚力の減少という事実さえ消した。突然男の力が戻ったことで、今度は源竜がよろめく。

 危うく倒れそうになった源竜をとっさに花音が支える。男が源竜に追撃を加えることはなかった。男と源竜が一度離れる。男の後ろにはすでに美晴が回り込んでおり、静かに跳びかかる。

 だが男は、花音と源竜のささいな目の動きとかすかに聞こえた足音で美晴の存在に気付き、すかさず後ろ回し蹴りを放った。

 跳びかかった勢いで止まれない美晴は、手を体の前で交差させなんとか蹴りを防いだが、後ろに飛んでいった。

 男が美晴に気を取られているすきに、源竜がかかと落としを食らわそうとする。だが男は、一瞬視界がかげったことで源竜の動きに気付き、ひらりとそれを躱した。

 一瞬体勢が崩れた源竜の後ろから、花音が現れ男に触れる。能力を発動させ電気ショックを起こそうとしたのだ。

 だができない。能力が発動しない。


「くそ!」


 能力による攻撃をあきらめ、素早く殴ろうとする花音だったが、逆に深く腹を殴られた。数歩後ろによろめき、うずくまる花音。

 男の後ろから美晴が飛び蹴りを放つ。男はかがんで避け、そのまま着地した美晴の足を払う。

 男が立ち上がったところで、源竜が男の首に手刀を食らわせようとするが、その手を逆に男に掴まれる。

 手を引っ張られよろめく源竜の腹に、今度こそ男の膝蹴りが入った。源竜が呻く。


 男の次の攻撃を受ける前に、何とか源竜と美晴は距離を取った。男はどこか、楽しむように、自分の余裕さを示すようにして、自分からは攻撃しようとしない。


 この苦しい状況を打開できそうなのは、花音だけだった。花音が最も高い攻撃力を持っており、男の消滅できる容量を超えることができるかもしれなかった。

 だが、花音の体力が切れてしまえば、花音は超能力を発動できない。もし全力で男に超能力をぶつけて、男の容量を超えることができなければ、花音は超能力が発動できず、完全に打つ手がなくなる。それこそ、一番避けなければならない事態だった。そして、花音には打開策が思い当たらない。


 花音たちが窮地に追いやられているのを見て、男は笑った。


「こんなものか?こんなものなのか、藤堂というのは。世界最強と言われるほどだ、もっと強いものだと思っていたんだがな。少し失望したぞ」

「くっ······」


 花音には、返す言葉が無かった。

 花音は何とか解決策はないのか考えるが、焦るばかりで何も思い浮かばない。こんな奴に負けてたまるかっ、と自分を奮い立たせるが、結果は同じだった。


「くそっ、何かないの、何か······」

「落ち着け花音」


 そう言う源竜とて、焦っているのに変わりはない。もはや絶対絶命であった。

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