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夏休み 決戦!3

 タチハラの会。


 二十年ほど前、そんな名前の武装集団が存在した。その目的は、民のために国を変えること。あくまで民のために存在するので、一般人が彼らの行動に巻き込まれることはなかったものの、幾人かの政治家といくつかの企業が襲撃され、壊滅する前は国会襲撃計画というものまでもあったことが確認されている。そんなグループを国民が恐れない訳もなく、大層な目標だけが団体に残された。結局、タチハラの会は解散、幹部を含む大勢が逮捕されることとなった。


 しかしこの事件を語る際に注目されるのは、決してその行動の派手さや目標ではない。この団体を壊滅状態へと追いやったのが、警察隊などではなく、たった二人の人間である、ということだ。

 その二人の名は、藤堂源竜と、藤堂美晴。結婚してばっかりだった若かりし二人は、何か景気づけに派手なことをやろうと、二人だけでタチハラの会本拠地に潜入し、散々荒らしまくって帰っていったそうだ。これが痛手となり、その後に美晴に誘導されやってきた警察にもろくに対応できなかったらしい。結果、この事件はすでに広く知られていた藤堂の名の偉大さを、人々により深く認識させる足掛かりとなった。


 さて、この事件のその後だが、タチハラの会の幹部たちは当然刑務所送りとなったのだが、リーダーである太刀原だけは、刑務所行きを免れた。太刀原の能力の特異性と有用性に目をつけた源竜が、裏で金を使いごねて、太刀原を無理やり藤堂邸の召使いにしてしまったのだ。太刀原としては、もちろん決定権など与えられはしなかったが、藤堂は裏で日本を操っているといっても過言ではない者たちである。そんな彼らに関われば、日本を変えることもできるかもしれないと、むしろ召使いとなることに積極的だった。

 だが、この事実は、タチハラの会の元幹部たちに、太刀原に裏切られたという印象を与えた。もちろん、幹部の家族たちにも。


「その一人が、俺だ」

 疎及は憎々しげに行った。太刀原は、眉一つ動かさず静かに聞いている。

「だがまあ、別に今はあんたを憎んじゃいない。その理想自体は認めているしな」

「なら、何故私の前に立ちふさがるのですか。従者は主人の側にお仕えしなければならない。何故、私に勤めを果たさせてくれないのですか」

 太刀原はからかうように言った。


 疎及の額に青筋ができる。

「当然、組織のため。それから、けじめをつけさせるためだっ!!!お前が親父を裏切ったことへのなっ!!!!!」

「なあるほどなるほど」

 太刀原は朗らかに笑い、拍手を送る。そして、

「知ったことではないですね」

はっきりと言った。


「そうかよ」

 疎及が身構える。それに応えるように、太刀原もファイティングポーズをとった。見つめあう二人。


 特に合図はなかった。突然に、ごく自然に、二人は動き出した。


 まず仕掛けたのは太刀原。一瞬で間合いを詰めると、豪快な回し蹴りを放った。疎及の頭へと伸びた蹴りは、しかし腕で防がれる。脚を掴まれる前に、太刀原はすばやく脚を戻した。そして今度は、顔めがけて思いきり殴る。疎及は、首を振って避けつつ、かがんでさらに太刀原との距離を詰めた。ところが、疎及は殴るでもなく、ただ太刀原の体に触れた。ごく自然に触れられただけだったために、太刀原は避けることもままならなかった。そして、これこそが、疎及最大の武器だったのだ。


 疎及は無造作に手を横に振った。だが手が太刀原から離れることはなく、太刀原も一緒に横に動き、そして突然手から離れ宙に浮いたその体は、猛スピードで壁に激突した。壁が陥没する。


 息を詰まらせ、床にうずくまる太刀原。しかし、そうしているのも数秒だった。前回り受け身でそこから離れると、素早く疎及の方へ向き直る。その表情には緊迫感はあるが、余裕が損なわれた訳でもない。

「坊ちゃまが吹っ飛ぶほどですから、一体どんな技を使ったのかと思いましたが、なんとなく分かりましたよ」

 一方で、こちらも余裕からか、太刀原が話すのを止めようともしない疎及。そんな疎及の様子を眺めながら、太刀原は話を続ける。

「あなたの能力、それは吸着と脱着を操る能力ですね?言うなれば、分子の過疎を操る能力。見た目に似合わず、繊細な能力だ」

 太刀原の言葉に間違いなくイラっとした疎及だが、声を荒げることはしない。代わりに、

「分かったあんたはどうする?」

と、挑発的に言ってのけた。


 そして再び、両者は動き出した。

小分けですみません、眠くなりました。

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