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お遊戯

 その日すでに何度か冷や汗をかく場面を経験していた花音は、今この瞬間最も緊張していた。大地が相手の部下たちを潰し始めた瞬間、笠井と国破は同時に動き、笠井はあっという間に美雨を抱え、銃を突きつけた。一瞬呆気に取られた花音だったが、すぐに笠井を仕留めようと動こうとした。しかしそこで、花音の横から「動くな」と国破の声がした。花音が横目で国破を見ると、その手にはやはり銃が構えられていた。


「あなた、銃刀法違反よ」

 少し自分の顔が強張ったのを感じながら、花音は言った。だが、国破に「なにを今更」と一蹴された。


 笠井が大地に呼びかけたのを聞き、花音は大地の方を見る。大地の周りには、男が数人転がって呻いていた。大地がにやりと笑う。

「卑怯だなあ、おっさん」

 緊迫感のない大地に、笠井はくそっ、と声を漏らした。

「手を頭の後ろにやって動くな」

 低い声で笠井は大地に指示をする。大地は指示通りに動いたが、そのニヤニヤ笑いは止まらない。


「ほらほらどうするおっさん。次は俺に何をしてほしい?」

 ふざけた態度で大地は言った。

「黙れっ‼」

 笠井が一喝する。その迫力は笠井の部下たちを飲み込むほどのものだったが、大地を圧倒するには及ばなかった。

「なめた真似してくれたな。これは遊びじゃねえんだ」

苦い顔で笠井に言われ、大地は声を立てて笑った。周りには、何が面白いのかが分からない。


 ひとしきり笑ったあと、大地は笑いすぎて目に涙を浮かべながら笠井に声をかけた。

「おいおっさん、これが遊びじゃないって?これほど面白いゲームなんて他にないだろう!もっと楽しもうぜ!それともゲームオーバーがお望みか?」

 そんなふざけた言葉に、笠井は調子を崩される。だが、自分は美雨という弱みを持っているという事実が、笠井に自信を与えた。

「なら、この状況を打破してみろ、あんちゃん。やれるものならな」

 そしてその自信が、笠井に身の破滅をもたらした。


「おっさんドⅯだねえ」

 そう言って、大地は口を閉じた。


 次の瞬間、大地の口から何かが飛び出した。豪速で飛んだそれは、笠井の額にぶち当たって跳ね返った。笠井の頭蓋骨にひびが入り、脳震盪を起こした笠井は、後ろに倒れ込んだ。笠井が、未だ眠り続けている美雨のクッション代わりとなって、笠井と一緒に倒れた美雨には怪我はなかった。


 花音は、笠井の額に当たって地面に落ちたものの正体を見ようと、目をこらした。そして見つけたのは、

「これ、歯?」

歯だった。

「くそっ!」

 国破が悪態をつく。もはや逃げるしかないと、国破が判断したまさにその時だった。

「はろー」

国破の目の前に、突然大地が現れた。

「は?お前さっきまでそこにいただろうが!?」

そんな訴えが、虚しく響いた。

「はい、お前もゲームオーバー」

 そう言って、大地は国破の頰をひっぱたいた。触れただけのようにも見えたが、その威力は凄まじく、首がぎゅんっ、と横を向き、それだけでは勢いが収まらず、体までもがバレリーナのようにくるくる回って、国破は倒れた。当然のことながら、国破は気絶していた。


 …誰も、何も言わなかった。体が痛くなるような沈黙が、笠井の部下たちを襲った。

 そんな状況は、いくらも続かなかった。まず、1人が逃げ出し、それにつられて、男たちは我先にと走り出した。そこに、理性などなかった。


「逃がす訳ないでしょ」

 そんな呟きとともに、花音は足をふみ鳴らす。今度こそ能力が発動し、発生した電気は地面を伝って男たちを直撃した。男たちが、バタバタと倒れていく。


 決着は、着いた。


「ふ~疲れた~」

 そう呟いた大地の体が、みるみるうちに収縮していく。

「死ぬかと思った~怖い怖い」

 大地は、いつもの大地だった。


 うんと伸びをして、大地は花音に、

「美雨ちゃん起こしてあげて~。とっとと帰ろう」

と頼んだ。

「それは構わないけど、帰れるの?」

 花音が問うと、

「うん。ここに迷わせたの誰か、何となくわかった」

という答えが返ってきた。


「体に関する全てを操る能力···恐ろしいものね」

 花音の呟きが、小さく響いた。


 こうして、藤堂家は犯罪組織<非超能力者解放軍>の正確な情報を手に入れた。

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