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夏休み 海水浴!3

 日光を受けて煌びやかに輝く海のそば、白い砂浜の上、小さなパラソルの下で。


「花音の水着可愛いですね!よく似合ってます」

「美雨もよ。大地に見せるにはもったいないわ」

「一応先輩に見てもらおうと思って選んだんですよ、これ」

「美雨は健気ねー」


 花音は、白に赤のラインが数本入ったタンクトップ型に紺の短パン型の水着を組み合わせて、防水仕様の青色キャップをかぶって立っていた。水着から伸びる白く長い手足は、どうしても周りの目を引いてしまっていた。

 一方美雨は、フリルの付いた水色のビキニを着ていた。ところどころ小さな白い猫模様が入っているビキニは、美雨の魅力を最大限引き出していた。美雨のカチューシャの小さな猫耳が、ぴょこぴょこと動く。


 花音たちが、周囲の視線を華麗にスルーしながら話していると、間延びした声とともに大地が駆け足でやってきた。

「お待たせ―お2人さーん」

 花音が表情を暗くして

「来なくていいのに······」

と悪態をついたが、美雨が

「先輩早く~」

と大地を迎えてしまった。


 間もなく、大地が息を切らしながら花音たちのもとへやってきた。

 大地がなかなか息を整えられないので、美雨が声をかけよろう近づく。すると突然、大地がガバッと上体を起こした。驚いてよろける美雨に、大地は

「可愛いね、その水着!」

と言い放った。直後、沈黙が3人を包んだ。


 そんな状態が少し続いた後。

「······いや、きもい。本当に怖いからやめてくれる?」

 花音の壮絶な悪態が炸裂する。だが、美雨が照れた様子で

「あああ、ありがとう、ござ、ございます······」

と言ったために、花音の言葉の効果は完全に打ち消された。これが恋の魔力とやらか、と花音は少し新鮮な気持ちになった。


とりあえず場が収まったかな、と感じた花音は、なるべく軽い口調にしようと意識しながら、口を開いた。

「ま、取り合えず兄ぃの発言は置いといて。浮輪借りにいきましょ。海の家にあるはずだから」

 花音がそう言うと、美雨は

「海の家、ですか······」

と不安そうに呟いた。海の家の経営者が以前美雨を襲ったグループの1人と分かっているのだから、当然の反応である。

 それを理解している花音は、心底申し訳なく思いながら、美雨を励ます。

「大丈夫よ。絶対に美雨は守るわ。それに、私たちが来ているのは知らないはずだし、人目も多いから、多分私たちを襲うとしたら帰り道ね」

 すると美雨は、

「じゃあ、今は安心ですね!」

と笑顔で言った。その声が、その手が微かに震えていたために、美雨が強がっているのはすぐに分かった。大地が美雨の手を握る。美雨がその手を握り返し、にこりと笑った。

「大丈夫です。自分でも不思議なぐらい、落ち着いているんですよ」

 大地は、ただ

「無理はしなくていいからね」

と言った。



 3人が海の家に行くと、レストランのようになっている場所の横の、倉庫のようなところに、浮輪やビーチボールが所せましと置かれていた。予想外に普通なその格好に、美雨たちは少し驚きを感じた。

「すみませ~ん、浮輪1つ貸してほしいんですけど~」

 大地が奥に呼びかけると、あいよ~と声が返ってきた。そして現れたのは、中年のマッチョな男だった。

 男は、花音たちの顔を見て一瞬驚いたようだったが、すぐに経営者スマイルに隠してしまった。

「浮輪ね。好きなのを選んでくれ。1つ1300円だ」

「あら、安いのね」

「安いですか?」

 花音が海の家の男との会話を担当し、美雨は極力花音と大地とを見るようにしていた。


 白の無地の浮輪を手に取り、男に渡そうとした花音に、男が

「お嬢ちゃんたち可愛いね、この辺りの子?」

と訊いた。花音は、男が予想通り花音たちが藤堂であることを確認しようとしているのを内心ほくそ笑みつつ、

「違うわ。ここには初めて来たの」

と答えた。そこで、大地が

「藤堂って知ってる?実は僕藤堂って名前なんだよー」

と口をはさみ、花音は

「この馬鹿あにぃ。余計なこと言わないで」

と叱った。もちろん、自分たちの正体を知らしめるための演技である。

「へえ、あの藤堂さんとこの子なのかい。この海の家が繁盛するように親御さんに頼もうかな」

と言って男は豪快に笑った。一見すると、不審な様子は全くなかった。


 男をてきとうにあしらった後、花音たちは再びパラソルの下へ向かった。借りた浮輪を置いた花音は、未だ表情の晴れない美雨に、

「まあ、とにかく今は楽しみましょう。折角の海なんだし」

と、花音にしては珍しく明るく言った。美雨は、少し時間を置いてから、はい!、と笑顔で言った。



 それからは、ごくごく普通の、特別な一日を3人は過ごした。


「行きますよー!」

 そう言って、美雨はボールを構えた。

「来るがいいわ」

 花音が不敵な笑みで身構える。花音対美雨と大地の、2対1のビーチバレーである。

「せーのっ!」

 美雨が花音の方へボールを打ち込む。放物線を描いたボールは、花音によってさらに高く打ち上げられ、そして花音がジャンプしてシュート。

 その恐ろしく速いボールを、美雨が前方に飛び込む形でどうにか取った。たまたま高く上がったボールを見て、美雨は転がってその場から退き、そして叫んだ。

「先輩っ、お願いします!」

「任せて!!!」

 勇んで行った大地だったが、シュートを撃とうとして返したボールは、あらぬ方向へ飛んで行った。

「はあっ!?どんだけ運動できないのよ!」

 花音が喚く。

「先輩、さすがに今のは······」

 美雨もフォローできない。

「ぼ、ボール取ってくる~!」

「あ、逃げた」

「逃げましたね」

 何をしても、大地は大地だった。


 その後しばらく遊んでから、3人は一度休憩を取った。パラソルの下の日陰で、会話が弾む。

 そんな中で、美雨は大地に尋ねた。

「そう言えば、先輩の能力ってどんなのなんですか?」

「急にどうして?」

 大地が訊き返す。

「先輩の能力分からないから、単純に気になっただけですよ」

「そっか~、実はあんまり言いたくないんだよね~」

「どうしてですか?」

「あんまりぱっとしないんだよ」

 大地は恥ずかしそうに言った。

「いいじゃないですか。それも個性ですよ」

 美雨が優しく言う。それに励まされ、大地は口を開いた。


「んっとね~、僕の能力は、まあ、体調を万全にする、みたいなものかな」

「······」

 その微妙な能力に、美雨は押し黙った。それでも、なんとか言葉を見つけ出し、

「行事があるときとか、便利ですね!」

と言った。その無理やり感のある誉め言葉に、大地と花音は声を出して笑った。戸惑っていた美雨も、そのうちつられて笑いだした。3人の声は、青い空に遠く響いた。




 楽しい時間はあっという間に過ぎ去り、太陽の位置は低くなって、3人は帰ることを決意したのだった。

ビーチバレーのルールがおかしいことについては、まるべく気にせず読んでくださると助かります(懇願)。

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