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夏休み 海水浴! 2

 全く雲の無い快晴、うだるような暑さの中。


 どの部屋にも冷房完備の藤堂邸の食堂で、花音と大地は朝食をとっていた。献立は、エッグトーストとコーンスープ、具だくさんのサラダと、比較的簡単なものだった。


 その日の花音は、黒のタンクトップの上に七分袖のGジャンを羽織り、紺のハーフパンツを履いただけの、かなりラフな格好をしていた。そのため、その長い脚と腕がかなり目立ってしまっているが、特に気にする様子もない。

 そして、その格好の割に、気の抜けている様子はなかった。これからすることが、花音の気を重くしていた。


 そんな状態で追加の食パンにバターを塗り始めた花音の前で、大地はいつもの気の抜けた表情で3枚目のパンを頬張っていた。大地は、道化師の柄の入った黒のTシャツとカーキのハーフパンツを着ていた。


 気合の入っていない大地を見ているうちに、不安になった花音は、

「兄ぃ、さすがに大丈夫だとは思うけど、もちろん行く用意は済ませてるんでしょうね」

と真剣に訊いた。だが、大地はいつものやる気のない口調で、

「いや~全然~」

と答えた。花音の眉間にしわが寄る。


「馬鹿なの?1回死んでみる?」

 吐き捨てるように花音が言っても、大地は悪びれる様子もなく

「大丈夫だよ~間に合うって~」

と言い返した。

 もともと機嫌の良くなかった花音は大地の態度にいらいらして、

「まったく、なんで兄ぃなんかが美雨の彼氏になれたわけ?」

と、きつく言った。それでも

「恋に理由などいらないのだよ君」

と大地にふざけて言われたので、花音はますます渋面になった。

 朝食の最後の1口を終え、花音は勢いよく立ち上がり、自室に帰った。その際、後ろから聞こえてきた、大地の

「ちょっと待ってよ~」

という言葉は完全に無視した。


 それから数10分経ち、花音は藤堂邸のチャイムが鳴ったのを聞いた。

「時間ぴったりね」

 花音は微かに笑って、リュックを背負い、紺のキャップをかぶって部屋を出た。


 開いた状態になっていた門の外に、美雨は立っていた。いつもの猫耳カチューシャを着けたまま、短めの髪をポニーテールにした美雨は、白と水色のボーダーのTシャツと短パンという格好だった。


「おはようございます!快晴ですね!」

 美雨の元気のいい挨拶に面食らいながら、花音は

「お、おはよう」

と返した。大地が、おっは~と手をひらひらと振る。

「今日は駅までは使用人が送ってくれるから、さっさと行っちゃいましょう」

 花音のそんな言葉が言い終わらないうちに、屋敷の方から車の音が聞こえてきた。美雨が見ると、それは間違いなく高い黒塗りの外車だった。車に詳しくない美雨には、名前までは分からなかった。


車は藤堂邸の前の道路に出ると静かに止まって、花音たちがいる側のドアが自動で開いた。花音たちが乗り込むと、3人が座っても十分に広いふかふかのシートが3人を迎えた。全員が乗ったのを確認し、車は駅へと走り出した。


「あの~美雨、今ならまだ中止にできるのよ」

 早速いちゃいちゃし始めた大地と美雨に水を差すようで、(主に美雨に)申し訳なく思いつつ花音は言った。

 美雨は、いつもよりも元気に、

「大丈夫です!先輩と花音がいますから!」

と言ったが、花音は美雨の手が微かに震えているのを見逃さない。

 美雨の右隣りに座っている大地は、美雨のその手を握って、

「美雨のことは絶対守るよ。楽しむことだけ考えてればオッケーだよ」

と優しく語った。美雨がこくりと頷く。花音は、ただただ美雨を巻き込まざるをえないこの状況に、そしてこの状況を作った組織と自分のふがいなさに腹を立てるしかなかった。


 藤堂邸から駅までは、あまり遠いわけではない。間もなく車は駅に着き、3人はプラットホームで数分待った後、電車に乗ってしばらく揺られた。


 そうして数10分経ち、長いトンネルに差し掛かる。明るく照らされた車内に、僅かな暗闇が入り込んでくる、そんな状態が数秒続き、出口の明るい光が大きくなって、そして電車がトンネルを抜けると、


「海だー!」


車窓から、家々の向こうにある海が見えた。小さく叫んだ美雨は、間違いなくテンションが上がっていた。


「海なんて何年ぶりかなー」

 大地が少しわくわくした様子で言う。

「私は2年ぶりかしら。父さんが仕事ついでに連れて行ってくれたのが最後ね。兄ぃはその時、海外行ってたけど」

 花音が思い出しながら発したその言葉に、美雨は驚いた。

「先輩、1人で海外行ってたんですか?」

「オーストリアに行ってたんだ。ウィーンの音楽に触れてみたくてねー」

 先輩ってすごい人だなあと感心し、美雨は褒めるつもりで、

「意外と行動力あるんですね!」

と言ったが、大地は、

「うん、意外は余計だよ、うん」

と悲しそうに呟いた。

「あ、すみません!悪気はないんです!」

「ない方が傷つくよ、うん」

 余計にうなだれた大地に、美雨は

「すみませーん!!!」

と叫ぶのだった。


 目的の駅に着いた3人は、ビーチへと向かった。潮の香りが、3人の鼻をくすぐった。すぐにまた、海が見え始めた。

「海だー!!!」

 美雨が、今度は大きな声で言った。今日は快晴、絶好の海水浴日和である。

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