夏休み 海水浴! 1
短めです
雲をかきわけ、日光が地面を明るく照らすとある日。藤堂邸の、花音の部屋にて。
「襲われた!?」
花音の声が、屋敷の外まで響いた。慌てて、隣に座る美雨が落ち着いて、と声をかける。
「結局、氷崎先輩に助けてもらって無事だったので、心配することはないですよ」
だが、花音は首を横に振った。
「あなたは私たち藤堂のいざこざに巻き込まれたのよ、気にするわよ」
花音に同調する形で、花音の隣に座る大地も、
「そーだよー」
と言った。
大地にまで言われてしまい、美雨はむう、と頬を膨らませた。まあまあ、と大地に諭され、少しして機嫌を直した。
「それで、」
美雨の様子を見ていた花音が、申し訳なさそうに言った。
「美雨にお願いがあるの。私たちと一緒に、海水浴に行ってほしい」
そんな花音の申し出に、美雨はもちろんと頷く。
「もちろんいいですよ。喜んで行きます」
美雨が快諾したことで、花音と大地は顔を見合わせた。
花音が、気が進まないといった様子で口を開いた。
「実は、その、なんていうのか······」
珍しく花音が煮え切らない態度を見せるので、美雨は不思議に思う。
「言いにくいんでしょ。僕が言うよ」
なかなか花音が本題に入らないので、大地が言葉を継いだ。
「僕たちが行くところにね、美雨を襲った犯罪組織にいる奴が経営している海の家があるんだ。国破家のこともあって、僕たち藤堂を狙ってるみたいだから、どのみち潰すつもりではあったんだけどね。美雨が襲われた以上、全力で叩くよ。そのために、まずは海に行って揺さぶりをかける。ただ、僕たちだけで行くと好機とは捉えられずに、怪しまれる可能性があるから、一緒に来てほしい」
それを聞いて、美雨はう~ん、と頭を抱えた。
「正直に言えば、もうあんな思いはしたくありません。どうしても、ですか?」
「もちろん無理強いは――」
「来てほしい」
花音の言葉を遮り、大地は言い切った。花音は大地を睨みつけたが、大地が気にする様子はない。
「もちろん、守るよ。美雨に怪我をさせたりはしない。まあ、ちょっとスリルのあるデートとでも考えてくれればいいよ」
デート、という言葉に、美雨の猫耳がピクピク、と反応した。
「デート、ですか?」
「そう、デート。お願いできる?」
美雨は再度う~ん、と考え込む。
たっぷり10分考えた末、美雨は顔を上げていった。
「分かりました。行きます」
美雨の答えに、花音が不安そうに
「本当にいいの?」
と尋ねる。美雨はしっかりと頷いた。
「わー、嬉しいな~」
大地はいつも通り笑うばかりであった。
花音は、大きなため息をついて、
「分かった。なら、3日後の朝8時に、ここに来て」
と言った。
「了解しました」
という美雨の言葉を最後に、その場はお開きとなった。
美雨が家に帰った後、花音は大地に興奮気味に言った。
「なに?さっきの態度は。美雨に強要なんかして、どういうつもりなの!」
花音の迫力ある言葉に、大地はいつもの笑顔で答える。
「美雨を海に連れていく気だよ」
大地の悪びれない態度に、花音は
「いい加減にして!」
と叫んだ。
そんな花音に、大地は珍しく強い語調で言った。
「まあ、そう言わないでよ。僕だって怒ってるんだ。美雨を危険にさらした奴らを、ただで済ませる気はないよ。でも、確実に潰すためには美雨が必要だった。やむを得ないと思って納得してよ」
花音は大地が、想像していたより美雨を思っていることを知って少し驚いた。だが、
「納得できるわけ、ないでしょ」
と言った。大地が微妙な顔をする。
しばらくの沈黙の後、花音は言葉を続けた。
「でも、仕方ないわね。美雨は私たちで絶対守る。これは絶対よ」
その言葉に、大地は頷く。
「もちろんだよ。美雨を傷つけていいはずがない」
大地と美雨は、しっかりと見つめあった。その目には、確かな覚悟があった。




