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入学式の次の日のこと 1

 アメリカ、ロシア、中国に次ぐ超能力者数を誇る島国、日本。その国の、近畿地方に属する、兵庫県。そこに、世界最強と噂される名門家がある。


 曰く、その家の者は、必ず超能力に目覚める。特に本家の者は、チート級、怪物級と呼ばれるような、強力な能力を生まれつき持っている。

 曰く、ずば抜けた容姿、頭脳、身体能力をすべて兼ね備えた存在である。持って生まれた才能を使い、政界の表と裏両方に深く関わっている。様々な方面に多大な影響力を持ち、誰もが羨望の眼差しを向ける。


 それが、藤堂とうどう家である。


 そんな藤堂家の長女、花音かのんは、昨日高校に進学した。藤堂のような名門家の子供が通うのだから、当然学校も名門校である。

 世界的に見ても少ない、超能力を持つ者を集めた特学の中でも、エリート校として知られる鳳凰ほうおう学園。特殊な順位のつけ方をすることで有名で、政界にコネクションを持つような教師も多い。その学校で上位に立てた者は、国のトップになることを約束されると言っても過言ではない。鳳凰学園は、そんな学校である。


 その鳳凰学園に、昨日から通い始めた花音であったが、その心は晴れやかではなかった。その原因は、今、食卓についた花音の前で朝食を食べている兄、大地だいちにあった。

 花音が睨みつけても全く意に介さず、食パンを頬張る大地に花音は、はああぁぁとため息をついた。


 身長約170センチ、茶髪の髪は肩のくらいで切り揃え、切れ長の目をした花音の顔は、かなり不機嫌そうだった。それは全て、大地のせいだと花音は思っている。


 大地は、身長180を超え、確かに美少年であり、花音と歩くと非常に絵になる。なので、その容姿は確かに藤堂の血を受け継いでいる証拠にはなるのだろう。だが、花音には今の大地が、とても藤堂の血を引いているとは思えなかった。

 なぜなら、大地は、その頭脳は花音と同等かそれ以上であることは間違いないのだが、身体能力が著しく低い。何もないところでつまずくし、通学しただけでばててしまうこともあるようだ。そんなこともあって、大地は学校で落ちこぼれのレッテルを貼られてしまった。花音は別段、そんなことは気にしてはいないのだが、自分まで、大地と同じ落ちこぼれとして見られるのは我慢ならないのである。


 花音が大地のことで頭を悩まし始めたのは、昨日のことである。花音は自分の家に誇りを持っており、そして誇りを持てる家だということは、自他ともに認めていると思っていたのだ。

 ところが、昨日の入学式で、自分の周りでこそこそと話し声が聞こえるので、藤堂の異常な聴力で盗み聞きしてみると、大地のことを話しているではないか。そのまま聞いていると、どうやら話している奴は兄弟でこの学校に来たらしく、大地と同じ学年の兄が大地の体たらくを包み隠さず弟に伝えたらしい。それが大地だけの悪口ならまだよかったが、しまいには藤堂家そのものが大したことがないのだと言い始め、花音はそれ以降ずっと不機嫌なのである。


 そして、大地の順位が、事態に拍車をかけている。


 鳳凰学園では、序列1位から順に、エース、キング、クイーン、ジャック、テンスというように順位付けされており、13位に相当するセカンドの後からは、14位、15位というように続いていく。13位までは『円卓の騎士』と呼ばれることもあり、他の生徒の憧れの的となる。また、ごく稀に、その才能を認められ『ジョーカー』という特別枠が作られることがあるが、その例は滅多になく、実際、今の鳳凰学園の順位表に、ジョーカーの文字はない。


 その反対に、蔑まれるのが、『ネームレス』と呼ばれる、141位以下の生徒たちである。彼らがネームレスと呼ばれるゆえんは、彼らの名前が順位表に乗らないことにある。鳳凰学園には1学年約170人ほどがおり、30人がネームレスとなる。

 そして大地の順位は、ネームレスなのである。というのも、大地が入学時テストを受けた時、藤堂の実力を知ろうと生徒たちは躍起になって大地の名前を探したが、どこにもその名前がなかったのだ。それが原因で、大地は落ちこぼれと呼ばれるに至った。


 そんなことがあって、頭が痛くなっている花音に、お気楽そうに大地が話しかけた。

「ねーねー花音。明後日入学時テストでしょ?順位は何狙ってるの?花音ならジョーカーもいけそうだなあ」

 自分のことを棚に上げた発言に、花音はますます不機嫌になる。

「無理よ。別に私はそこまで自分を過信していないわ」

 愛想ない答えに、大地はぷくっと頬を膨らませた。イケメンがやると、どうしてなかなか気持ち悪くないので、不思議なものである。


 花音は、大地の反応にため息をつきながら、話を続けた。

「それこそ、氷崎ひさきさんはジョーカーになってもおかしくないでしょ。あの人、かなりできるみたいだし」

 大地は、わざとらしく首を縦に振る。

「ほんとだよねー。不思議だねー」

 全く気にしていなさそうな大地の反応に、花音は呆れ顔になって言った。

「その話し方、やめてくれない?気持ち悪くて、寒気がするのだけれど」

 本当に呆れている様子の花音に、大地は飄々と答えた。

「いいじゃん、僕にぴったりだと思うよ」

 花音は、一瞬殺意すら感じつつ叫んだ。

「だから、その話し方やめろ!」

「やだよ!僕は気に入ってるんだよ!」

「······」


 しばらくの沈黙。これ以上やりあっていると母親か執事長が来て怒りそうなので、花音は大地の説得をあきらめ、席を立った。

 ところが、大地も一緒に席を立ったので、花音の顔はよりいっそう険しくなる。

「なんであにぃも立つの」

「いや、だってほら、学校間に合わないし」

「いっそ遅れろ!」

そう言って、花音は、大地の部屋の隣の自分の部屋へ駆けて行った。



 数分後、花音と大地は一緒に家を出た。

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