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国破という男 氷崎という男

 花音は、国破の挑発に乗らなければならない自分の立場を呪いつつ、口を開いた。


「国破さん、あなたの親の会社最近成績が伸びてないそうじゃない。蛙の子は蛙とは、よく言ったものね。あなたの安直さの理由も納得だわ」

 国破は、花音とは異なりどこか楽しそうに言い返す。

「子供が親に似るっていうなら、藤堂というのは随分落ちこぼれの血筋のようだね。君も、ネームレスの兄を持つというのは大変だろう」

 その言葉に呼応するように、国破の取り巻きたちがクスクス笑う。


 花音は、国破が大地のことを話に出してくるのは予想していたが、あまり当たっていてほしくなかった予想なので、辟易する。

「どんなに完璧なプログラムにも、イレギュラーというのは起こりうるわ。そうしたたった一つの特例を、さも全体に言えることのように言うのが、安直だといったのよ」

「でも、君のような自称名家には、そうした特例が随分と痛手になるんじゃないか?」

 そんな国破の言葉に、さすがに図に乗りすぎではないか、と花音は憤慨した。そもそも、一時的な順位で花音に勝っているからといって、ここまで威張れる理由がわからない。


 そんな思いから、花音は国破たちを睨みつつ口を開こうとする。その威圧感だけで、取り巻きたちはつい花音から目をそらしてしまう。

 そして、花音から言葉が発せられようとしたが、花音の背後で起きたざわめきがそれを妨げた。ざわめきは、どうも女子生徒たちの悲鳴やため息から形成されているようだった。


 何事かと、花音は振り返る。理由はすぐに知れた。テレビでもなかなか見れないようなイケメンが、二人もいたのだから。気付けば、美雨はイケメンのうち一人の傍らにいた。美雨の行動の速さに、美雨は意外と肉食系なのかもしれない、と花音は思った。

 美雨の隣にいたのは、花音の兄の大地。そして、もう一人の男は、名前を氷崎ひさきかなめと言った。

 大地たちの方を向いた花音の背後から、遠ざかっていく足音が聞こえてきた。花音の味方が増えては不利になるだろう、と国破は考えたのだろう。なんとなく敗北感が残り、花音は少し悔しかった。


「かのーん、元気ー?」

 そんな大地の言葉に、猛烈に苛立ちを感じる花音。

「今のを見て元気だと思ったの?その能天気やめてくれないかしら」

と、ひとしきり大地に文句を言ってから、花音は氷崎に軽く頭を下げる。

「いつも兄ぃがお世話になっています。こんな奴と一緒だと、いろいろと大変でしょう」

「いや、そんなことはない。いつも楽しくさせてもらっている」

 難しいはずの大地の友人を引き受け、なおも飄々と答える氷崎に、花音は尊敬の念すら抱いた。


「しかし、先ほどの少年は、随分と豪胆な性格のようだな。藤堂の人間に、ああも言い寄ることができるとは」

と、不思議そうに言う氷崎に、花音は嘆息して言った。

「国破は、入学時テストでキングでしたからね。あんな風に言えるだけの実力はあるんです」

 そう言いつつ、花音は国破について考える。


 国破くにやぶり厳気げんきは、日本では有数の名家である国破家の一人息子だ。もちろん、藤堂家のような超名家とは比べるべくもないはずなのだが、彼には、結果のみを重視する傾向があった。そして、彼は結果を出せるだけの才能を持っていた。

 そんな国破の能力は、順位表に記された情報によれば「視界に入ったモノを破壊する能力」である。具体的な内容は分からなかったが、花音は、おそらく目に映った無生物を破壊しつくせる能力だろう、と考えていた。

 ちなみに、国破は恐ろしいまでの才能主義であり、努力に頼るのをよしとしない性格なので、超能力のこれ以上の成長は求められなかったりする。


「でも、氷崎先輩だってすごい人なのに、花音さんや大地先輩に国破さんみたいなこと言いませんよね」

 そんな美雨の言葉を受け、それもそうだ、と花音も不思議に思う。

 氷崎は、

「確かに俺はエースだが、あの少年のように驕ったりはしない。藤堂に歯向かうことがどれほど無謀か、よくわかっているからな。だが、叶うなら俺がジョーカーになれない理由は、いつか教えてほしいものだな」

と言って、含みのある笑い方をした。氷崎の目線がチラッと大地の方を向いたのを見て、花音は氷崎が相当頭の切れる男であることを知った。

 しかし、何も知らない美雨は、

「何の話ですか?」

と尋ねた。氷崎は

「そのうち大地に訊くといい」

と答えた。美雨は自分だけが答えを知らないようであることに、不満そうに頬を膨らませた。猫耳が、ピクピクと動いている。


 花音は、話を変えようとし、思い出したように言った。

「そう言えば、兄ぃ。今日、校長と話があるんでしょ?」

「ああ、うん。そうだよー何話すのかなー」

 その話題には、美雨も氷崎も興味を持った。

「ま、まさか留年とかの相談ですかっ!?」

「いや、この時期にそれはないでしょ」

 やや興奮君の美雨に、花音は半ば引き気味に言う。

「だが、成績に関することではあるのだろうな」

という氷崎。大地は、

「好奇心は時々身を滅ぼしちゃうよー」

と、全く関係のないようなことを言った。


 そんな話をしているうちに、授業五分前を知らせる予鈴が鳴り、各々は各々のクラスへ戻っていった。


 教室に戻ったのち、花音は氷崎についての情報を整理する。


 氷崎要。大地と同じ高校二年生。美雨と同じく、ごく一般的な家庭に生まれた平凡な生徒であり、美雨に引けをとらない努力主義である。

 だが、美雨と異なることが一つあった。それは、その圧倒的才能。

 氷崎は、入学時テストの時から他の生徒とは一線を画し、キングと圧倒的な差をつけてエースとなった。その能力は、「氷を操る能力」である。自在に氷を発生させ、無生物であればどんなものも触れただけで凍らせることができる能力。そしてそれは、彼の不断の努力によって、常に強力なものへと変化していた。


 その能力は、間違いなくジョーカーになってもおかしくはないものであった。

説明回が多くなってしまった…。もう少し待っていただければ、バトル回になりますので、お楽しみに!

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