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結果発表 そして衝突

 試験から5日後。


 その日は、新入生にとって憂鬱なイベントから始まった。顔が青白かったり、今にも倒れそうな生徒もいる。

 そのイベントというのは、試験の結果発表である。新入生にとって初めての順位確定、つまり、これで今後の自分の立場というのが大きく左右されると言ってもよい。せめて早くこのイベントをやり過ごそうと、普段は遅刻になりかねない時刻に登校してくる生徒すら、結果発表の時間の前には、昇降口の前の掲示板をじっと見つめていた。


 そんな新入生の1人である花音は、順位ではなく別のことが気にかかっていた。美雨が、緊張で座り込んでしまったのだ。表面上は常に、クールに装っている(つもりの)花音だが、友人がこんな状態になってしまっては、さすがに動揺を隠せない。


 藤堂の人間がこんなことではいけないわね、と考えながら、花音は美雨の背中をさすりながら話しかける。

「美雨、大丈夫?」

 するとすぐに、

「全然大丈夫じゃないですー······」

という返事が返ってきた。まあ、大丈夫じゃないのは見たらわかるわ、と思いつつも、花音は言葉を継ぐ。

「別に、試験の結果なんて一時的なものなんだから、気にしなくても平気よ」

「本気で言ってますか······?」

 そんな美雨の返答に、全く思っていないわ、と心の中で呟いた花音は、それでも何とか言葉を返す。

「現実から逃げちゃだめよ。しっかり受け止めるだけの強さを持たないと」

「今だけは逃げたいですー······」

 まあ、分からなくはないわ、と花音は心の中でしっかり返す。


「ほら、とにかく立って。そんな姿、恥ずかしくて見てられないわ」

「見れてるじゃないですか」

 目の前にいるんだもの、仕方ない。


「立たないと、実力行使するわよ」

「暴力反対でーす」

 私もよ。というか、案外元気じゃない?


「早く立たないと、もうすぐ定刻よ」

「ううぅぅぅ······」

 頑張れ美雨。


 なかなか立たない美雨を立たせるために、花音は最終手段を使った。

「あ、大地」

 大地、と聞いた瞬間、美雨は

「えっ、嘘っ!どこですか!」

と言って、ガバッと立ち上がった。大地のこととなると随分態度が変わるのね、と半ば呆れ、半ば申し訳なく思いつつ、花音は

「嘘よ」

と言った。途端に美雨が、ショックでくずおれそうになるのを、慌てて花音が支える。


「ひどいですよ花音~」

 そう言って頬を膨らませつつ怒る美雨に、花音が平謝りを続けている間に、教師が順位表を持ってやってきた。それを見た美雨が再び頽れそうになるのを、花音は必死に支えるのだった。



 花音と美雨が順位を確認できたのは、他の新入生が順位表の前にわっ、と集まり、さっと引いていった後だった。順位表の上から自分の名前を探した花音と、下から探した美雨だったが、圧倒的に花音の方が早く見つけた。

 自分の順位に対する感想は、各々で異なった。


「私が、クイーン?」

「私が、20位?」


 もちろん、クイーンになった方が花音なのだが、その顔は少し不満そうだった。花音は自分の能力を過信することはなかったが、もしかしたらエースにはなれるかもしれない、と思っていたので、実際の順位に落胆したのだ。

 一方美雨は、自分の順位が思ったより良いことに、喜びを隠せないでいた。自分の能力に自信が持てず、常に努力が足りないと感じている美雨だが、その順位は、自分の努力が認められた証のように感じられたのだ。

 そうして始まった一日の中で、花音は自分の暗澹たる気分を回復できないのであった。



 一週間もすると、生徒の立ち位置はおおよそ決まり、派閥すらできていた。

 あまりいざこざに巻き込まれたくない花音は、休み時間は大抵美雨といることにしていた。だが、やはりそれでも、意図せず巻き込まれることはあった。


 朝から雨が降っていたある日の、昼食を終えた後の休み時間のこと。

「あの、私最近チョコレート作ってみたんです。よかったら今度食べませんか?」

「いいわね。美雨の作るのはおいしいから好きよ」

「ありがとうございます!」

 そんな会話をしながら、花音と美雨はのんびりと廊下を歩いていた。

 雨のせいで、あまり気分の晴れなかった花音は、美雨との会話に安らぎを感じていた。雨がなくとも、最近勝手に敵視してくる輩が少し増えてきたので、ストレスが溜まっていたのだ。美雨との会話は、些細なことながら、至福のひと時と言えた。


 そんな花音の楽しみは、前方から聞こえてきた大勢の足音に遮られた。


 不機嫌そうに花音が足音の方を見ると、後ろにぞろぞろと取り巻きを引きつれた、見るからにナルシストな男子生徒が立っていた。

「やあ、藤堂のお姫様ともう一人。随分と楽しそうじゃないか、僕も混ぜてくれないかな」

 男の顔を見た瞬間に眉間にしわが寄りかけていた花音だったが、男の声を聞くと、渋柿でも食べたような渋面になった。


 それでも礼儀上、花音はきちんと言葉を返す。

「あら、国破くにやぶりさん。別にあなたが聞いて楽しい話じゃないわ、下らないことよ」

 すると、国破と呼ばれた男は、高らかに笑った。

「そりゃあそうだろうね、君たちが話すことなんて、下らないことだろう。所詮藤堂と庶民なんて、そんなものさ」

 そんな国破の言葉に呼応するように、取り巻きたちが笑った。花音は初め、国破など適当に受け流してしまおうと考えていたのだが、藤堂の名を馬鹿にされた以上、そういうわけにもいかなくなった。


 いくら敵視しているからとはいえ、国破が藤堂家の人間にここまで強く言えるのには、理由があった。彼の入学時テストの順位は、花音の一つ上の、キングだったのである。

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