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夏の紅葉と、お引っ越し。  作者: 山方 翁学
3/5

ふつつかな神ですが


「どーしましょう……見つかりませんでしたね。御社」

とぼとぼと足取り重く帰路につく俺と茜。

神社を出た後も、日が暮れるまで良さそうな場所を探して歩き回ったのだが、とうとう御社候補地を見つけることは出来なかった。

「そうそう見つかるもんじゃないとは思ってたけどな……」

「うう、このままでは永遠に野宿です……」

そういえばそうだった。茜は俺に会うまで橋の下で野宿してたんだっけか……。

かといって、このまま放って置くのも気が引けるし……。

「まあ、とりあえず部屋に帰ろうぜ。もうそろそろ妹が帰って来る頃だし」

「そうですね。わたしも鴎さんの妹さんを見てみたいですし。またお邪魔させてください」

そうして、他愛もない話をしつつ俺の住むマンションまで帰って来た。

そのまま階段を登って部屋に到着。

「ただいまー」

玄関を開けて中に入ると、奥の方からバタバタと足音が聞こえてきた。

「お兄ちゃん!」

「おう、雲雀(ひばり)。やっぱりもう帰って来てたか」

「へぇー。この方が鴎さんの妹さんですか。雲雀ちゃんっていうんですね? 美人さんです!」

慌てた様子で姿を見せた妹に対して、俺と茜はのんびりと返事をした。

茜の言う通り、雲雀は兄の贔屓目抜きにしても美人だと思う。

キリッとした目に端正な顔立ち、シュシュで結んだポニーテールが印象的な、クール系の美少女と言っても過言ではない自慢の妹だ。

「もう! どこ行ってたの? 鍵も掛かってるし、いつも雲雀が帰ったらパソコンとにらめっこしてる筈のお兄ちゃんがいないから。心配したよ……」

「いやぁ、今日はちょっと外に用事があって……」

野良女神と散歩をするという用事が。

「それなら、連絡くらいしてくれればいいのに……。こんな遅くまで一人で出歩いてたら危ないよ!」

「ご、ごめんなさい。今度から気をつけます」

まったく、と呆れながら怒る雲雀に、俺は平謝りするしかなかった。

家の事は全て妹に任せている俺なので、こういう時は頭を上げられない。

「雲雀ちゃんには私が見えてないみたいですね。……というか、鴎さんの私への態度が、雲雀ちゃんへのそれと違いすぎませんか?」

確かに茜のことは見えてないようだ。

雲雀はしっかりした子だから、客が来ているのに無視する訳ない。

「しょうがないだろ? 茜は不審者だが、雲雀は身内なんだ」

「ふ、不審者は酷いですっ!」

「お兄ちゃん、なに独り言言ってるの? ご飯できてるから早く手を洗ってきてね」

そう言って、雲雀は台所に戻っていった。

やはり、俺の隣にいる茜には一瞥もくれずに。

「……本当に、俺にしか見えてないんだな」

「そうみたいです」

「面倒なことになったなぁ……」

「ひ、酷い! 面倒だなんて! 鴎さんは女の子に優しくできないんですか!」

「さて、ご飯だご飯だ」

「無視しないでくださいよー!」



「ご馳走さまでした。美味しかったよ、雲雀」

「お粗末さまでした。食器、台所まで持ってきてね」

今日の晩ご飯のメニューはハヤシライスだった。

俺の大好物だったのと、一日歩き回ってお腹が減っていたことが合わさって、二回もお代わりしてしまった。

ちなみに俺が食事をしている間、茜は何をしていたかというと、

『鴎さん、鴎さん。さっきの食べ物は何ていう名前なんですか?』

『どんな味がするんですか?』

『鴎さん、結構たくさん食べられるんですね』

などと、目をキラキラさせながら眺めていた。

茜曰く、神様には年2回くらい供えられる少量の食べ物だけで充分なんだそうだ。

そのため、食に関しては知識があまり無いようで、美味しそうに食べる俺に興味を持ったようだ。

なんだか妹がもう一人できたみたいだな……。

ちょっとだけ茜に親近感が湧いた。

そして、食器を片付けて床に寝転がる。

「あーお腹いっぱい」

心地よい満腹感に身を委ねる。

すると、隣に茜がちょこんと座った。

「あの、鴎さん。私、そろそろ帰りますね」

「え? なんで?」

意外な言葉に驚く。

「なんでって……わたしはこの家に住んでいる訳では無いので……」

「あー……」

そうだった。茜は妹じゃなくて、神様なんだった。

「でも、帰るって言ったって、あの橋の下だろ?」

「はい」

「そんなとこで大丈夫なのか?」

「はい、大丈夫です。家が無いなら、仕方ないですから……」

名残惜しそうに話す茜を見て、俺は想像してしまった。

神様とはいえ、女の子が一人ぼっちで橋の下で野宿している姿を。

……まるで、去年の俺達を見ているみたいだ。

「なあ、茜。御社が見つかるまで、ここに居ていいんだぞ?」

「え……ど、どうしたんですか⁉︎ どうして急に優しくしてくれるんですか?」

「どうして、か……」

俺と雲雀は去年の夏に両親を亡くした。親戚は皆、俺達を受け入れようとせず、二人だけで部屋に住むことになった。今でこそ立ち直ってはいるが、身寄りのない寂しさは理解しているつもりだ。

……だからか、茜に俺達を重ねてしまったのかもしれない。

「……まあ、何となくだよ。何となく」

「はあ……。何となく、ですか……」

今ひとつピンときていない様子の茜。

けど、本当に何となくだから、そこは分かってほしい。

「そうだ。だから、茜さえよければ家に居てもいいよ。雲雀は見えてないみたいだしさ」

「いいんですか? 本当に?」

「いいよ。御社が見つかるまでだけどな」

俺がそういうと、茜は嬉しそうに笑って座った状態のまま深く頭を下げた。

「ふつつかな神ですが、どうぞよろしくお願いします」

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