指令
公爵は急ぎ足に階段を降りて行ったのでロダンも後に続いた。
下からは強い風が吹いて公爵のマントがたなびいた。
ロダンは時折、自分の片腕を使い風で舞う砂から目を守りながら公爵について行った。
下に着くと公爵はロダンに命じた。
「この船に乗ってあるところへ行ってもらいたい。」
船を見て川の上に建てられた建物だったんだとロダンは今、気がついた。小さな橋が渡され船が用意されている。
ロダンの心配を察した公爵は安心させるために説明した。
「大丈夫だ、ロダン。もう王室の問題に君は直接携らなくていい。これからは街の人のところへ行ってある物を届けてくれ」
「その代わり私の外套を着て行うんだ。決して人々の前に姿を現してはいけない。」
ロダンは公爵からの突然の指令にあたふたした。
「船に全て用意してある。早く乗るんだ。」
ロダンは公爵に急かされて船に乗ると今度は帆のついた船だった。
帆を張ると風の強い日だったので船は真っ直ぐに進んだ。
「地図に示した通り行ってくれ。後は頼んだぞ、ロダン!」公爵は言った。
ロダンは急に言われて船に揃っているものを調べ出した。
(..今度はどうしろって言うんだ!)
ロダンは心の内で叫んだ。
そうでなくても突然国の姫君に会ったことを知って頭が混乱しているというのに、今度は街の人だと?
ロダンは溜まっていたものが一気に溢れでる感覚に陥った。
(..もう沢山だ。このまま逃げられるのなら逃げてしまいたい。)
船は風を受けてロダンの迷いとは裏腹に勢いよく進んで行った。
川はあっという間に海に流れ出た。
青空の広がる良い天気の下でロダンは途方に暮れてしまった。
ロダンは床に座り込むと自分の胸元についた王妃から授けられた勲章を外して握り締めたまま床に叩きつけた。
一瞬、隊長に言われたことを思い出した。
これからは陛下とともにこの国の運命を背負っているという自覚を持ちなさい。
ロダンは座り込み波に写る自分の姿を眺めて考えた。
気がつけば何のためにしていることなのか、わからなくなっていた。
穏やかな海に時折涼しい風が吹いた。
ロダンは船の床の上にゆっくりと力なく倒れ込んでしまった。
もはや自分は何者でもなかった。...




