嵐
城は突然の嵐に見舞われた。雷雲がゴロゴロと鳴り出し辺りは暗くなった。
公爵は動かずに真っ直ぐ前を向いている仮面男の姿をしたロダンにゆっくりと命令した。
「いいかい?君はその部屋に入ってこの鍵を使い一番上の扉を開け中の小箱を取ってくるんだ。」
仮面男は黙って公爵の合図を待った。仮面の下のロダンは感情など無いように無表情のままだった。
今ニ人のいる公爵の部屋はわざと明かりを消していて薄暗かった。窓の外が一瞬だけ光ると部屋を明るした。雷の落ちる音が鳴り響きそして雨が強く降りだした。
太った女は豪華なネグリジェ(パジャマ)を着て鏡に映っている自分を夢中に眺め風呂からあがったばかりの顔に化粧を施した。
相変わらず外はひどい天気だった。
風呂にはいくつものキャンドルに火が灯っていて明るかった。
太った女は鏡越しに自分以外の人影を見た気がして振り返って確認した。
薄暗い部屋の奥へゆっくり進むと出窓が開けっ放しになっていることに気がついた。
女はこんな天気に窓が開いていることに驚いて急いで閉めに行った。
と、後ろで物音がしたと思い太った女は振り返って本物の人影を見た。
太った女はそれを見るなり大きな悲鳴をあげて部屋の外の廊下に飛び出して行ってしまった。
アルバート!助けてー!!
アルバートと呼ばれた公爵は違う部屋から現れた。
「仮面男よ!」
太った女は公爵に抱きついて今まさに見たものの正体を大げさに説明した。
公爵は抱きついた相手を優しくなだめた。
この話はたちまち城中に拡がって公爵を睨んでいたフシビ卿のもとにも伝わった。
騒ぎになっている場所から遠く離れて公爵は薄暗い自分の部屋に戻ると一段高くなっている席に座って家来を呼び寄せた。
仮面男は暗がりから現れて公爵の手の平に命令された物を乗せた。
...。
公爵はしばらく手の平に乗せられたものを見ていた。
「よくやった。」
公爵は目の前でひざまずいている無表情の仮面男に向かって言った。
手の平の上に置かれた小箱を開けて公爵は中の物を取り出した。
中から出てきたのは大粒のダイヤのネックレスだった。公爵は妖しく微笑みながら静かに語り出した。
「..これがなんだかわかるか?
君もいよいよこちら側の人間になったな。歓迎するよ。」




