城の伝統
ファルボ卿は若き公爵に向かって突然言った。
「この城をなんと心得ている」
公爵はいきなり後ろから現れたファルボ卿に振り返り一礼した。
「いらしたとは。」
ファルボ卿は上を仰いで代々続く城の皇族の肖像画を眺めながら言った。
「いよいよこの中の仲間入りだな。時が経つのは早いものだ」
2人がしばらく長い廊下を歩いているとファルボ卿が一枚の肖像画の前で立ち止まり公爵に言った。
肖像画の人物は公爵にそっくりだった。
「早くに亡くなった父上様に恥ぬよう勤めを果たしさない。私の言いたいことがわかっているね?」
公爵は何食わぬ顔で応えた。
「もちろんです。」
ファルボ卿は機嫌をよくして言った。
「お前の結婚式に呼べないのが残念だ」
公爵はファルボ卿の側へ来ると努めて明るく言った。
「父上は遠いところへは行ってはいないですよ。ずっとこちらにいてこの城と新しい行く末を見守っていますとも」
ファルボ卿は公爵の背に腕を伸ばすと言った。
「..だいぶこの肖像画に似て来たな。」
公爵は言った。
「ありがとうございます。あなた様のおかげです。」
ファルボ卿は益々機嫌よくした。
「この肖像画を越えて見せよ。それが兼ねてからの私の夢だ」
公爵は微笑んだ。
ファルボ卿は熱く語った。
「お前ならできる。」
公爵は頭を下げたままファルボ卿が立ち去るのを見届けるとゆっくりと自問した。
この城をなんと心得ている..か。




